新作発表会(中)
王家主催の舞踏会
「兄上こちらです」
弟子爵が兄伯爵の近くへ行く。会場へは低位の貴族から入場する為弟が先に会場へ入っていた。
「兄上、ヤマニーラ伯爵とお会いする事は出来そうですか」
「あぁ、遅くはなるが領地へ帰られる前にはお会い出来る」
「ありがとうございます」
二人は少し離れた所にいるお互いの家族を見た。
おそらく伯爵夫人が子爵夫人にその話をしているのだろう。夫人だけでなく娘達にも笑顔が見られる。
兄伯爵は伯爵だが、ヤマニーラ辺境伯爵に比べれば家格は下がる。辺境伯は伯爵位の最上位になる。
会場が半分以上埋まった頃、
「ヤマニーラ伯爵……………嫡男………」
ヤマニーラ伯爵の名前が呼ばれると会場内が騒がしくなる。聞き取りにくいがヤマニーラ伯爵家が到着したようだ。
扉が開いてヤマニーラ伯爵が夫人と共に会場に入る。
―静寂―
会場内の全ての目が二人を捉える。
「レースですわ」
小さく呟くような声がした。
「今年はレースなのね」
「とても繊細だわ」
「素敵」
「ほうっ」
会場のあちらこちらでレースへの賞賛が聞こえる。
会場内にいた貴族家はヤマニーラ伯爵の元に集いたかったが次に会場に入った侯爵家、公爵家に場所を譲らざるをえなかった。
ヤマニーラ伯爵は高位貴族に囲まれていた。
「シルキート公爵ご夫妻、令嬢ルイーズ様」
「まぁ」
シルキート公爵家が会場に入った時、場違いな女性の声がした。
そちらを見ると(シルキート公爵の派閥の子爵夫人だった)
「ルイーズ様素敵ですわあ。レースですわねえ」
わざとらしく、少し大きめの声で、周りに聞こえるように、聞かせるように隣の夫人に話しかけていた。
話し掛けられていた子爵夫人は小声で『そうですわね』と言ってその場から離れた。
話し掛けられた子爵夫人は義兄伯爵が夫の子爵とヤマニーラ伯爵と会談を待てる事を知ってた為シルキート公爵と関わらない様にした。
シルキート公爵夫人とルイーズのドレスにはレースが使われていた。輸入品ではなく、シロフのかぎ針レースで、アイカが発案した当初の物だった。
糸も太く、色もくすみ、柄も大きいため、品格を落としていた。
ヤマニーラ伯爵と嫡男シュミットは顔を見合わせて眉を顰める。
あれほど秘匿していたものが漏れたのだ。
その時、王族の入場が告げられ、陛下、王妃、王太子、第二王子、第二王子妃、双子の王子と王女が壇上に上った。王太子妃は参加していない。
「「「おお」」」
「「「ほぅ」」」
驚愕、感嘆の声があがる。
陛下や王太子、第二王子、王子には襟や袖に、
王妃、王子妃、王女にはドレスにふんだんにレースが使われている。精密で繊細、輸入品にも負けない、それ以上の出来栄えだ。
「今回は王太子殿下も身に付けておられる」
「さすが、王家ですわ」
「双子のお二人が可愛らしいですわ」
いろいろな呟きが聞こえる。
舞踏会が始まり王家への挨拶が始まった。挨拶は高位貴族からと決まっている。
ザワザワザワザワ
陛下への挨拶で何かあったのか?前の方が騒ついているようだ。
ヤマニーラ伯爵家は公爵、侯爵の後なので前の方で何が起こっているのかわからない。
しかし、前にいる高位の方々がこちらをチラチラ見ている。
「父上、何かあったのでしょうか。レースに問題でも?」
「先程セリーナに会った時は何も言っていなかったが」
伯爵とシュミットは呟きを拾うように意識を集中した。
「ルイーズ レース トニカート」
途切れて聞こえてくる言葉は意味がよくわからない。
自分達が王族に挨拶した時、陛下やセリーナが顔を顰めたのがわかった。
下位貴族の挨拶も終わろうという時に先程の内容を知った。
「シルキート公爵が王族のレースを褒めた時に『我が家も縁がありまして本日レースを身に付ける事が出来ました』と言ってルイーズ嬢を見て、ルイーズ嬢も頷いて挨拶したらしい。皆、君達と公爵家の事を知っているはずなんだが、あまりにも堂々としていたので遺憾がなくなりシルキート公爵にレースを渡した。と、
そして、
新作のレースを王家の舞踏会用に渡すのは親密な事。公爵が、縁があり、と言ったためトニカート様とルイーズ嬢が婚約するのではとの噂になっている」
と教えられた。