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新作発表会(上)



ヤマニーラ領にて製作されたレース編みの様な物はかぎ針で作る。輸入品のレースと区別する為

『かぎ針レース』

と呼ぶことになった。



アイカが発案したかぎ針レースはヤマニーラ領領都にて作る。


ヤマニーラ領には幾つもの貴族家から間者が入り込んでいる。糸、布の事を探るためだ。

ガイト村のシロフ事業はまだ秘匿出来ている。しかし、これ以上ガイト村での作業を増やした場合、負担は大きくなり何処かに綻びが出る。

そのため、かぎ針レースはヤマニーラ領領都で始めると決めた。

もちろんかぎ針レースも秘匿するが、雇用の増加が見込める事が決め手だった。



アイカが見本として渡したかぎ針が太めのだったので初めのかぎ針レースは大柄で一種類で編んでいた。


やはりと言っていいだろう。工夫し、だんだんと良い物が出来てくる。

編み柄が増え、糸の種類が増え、糸の色が増えた。そして、かぎ針の種類が増えた。


今は細いかぎ針と糸で編んでいる。シロフ糸で作るかぎ針レースは輸入品に比べれば質は落ちる。

但し、輸入品は種類もなく柄も大きい。

細いかぎ針と糸のレースは柄が細かく、とても精密で繊細な物になった。



王妃様、第二王子妃に献上するのに充分な物になったと思う。お二人にはレースの質の件も説明したが、

「この繊細で美しいレースは輸入品に引けを取りません」

と仰ってくださり、社交シーズン開始の王家の舞踏会での着用を確約してくださった。







…王都、ある伯爵家の応接室…


「兄上、王家の舞踏会の話を聞かれましたか」

伯爵当主とソファで向かい合っている子爵家に婿入りした弟が話し始めた。

「何かあったのか」

「ヤマニーラ伯爵が今年も何かを王妃様、第二王子妃様に献上されたそうです」

「なにっ。今年もか。それが何かわかるか」

「わかりません。しかし、時期的に舞踏会でお披露目するのではないかという噂です」

「新作か?」

「おそらく」

「そうか」

二人がため息を吐く。


ここ数年社交シーズン開始の王家の舞踏会でヤマニーラ産の『新しい物』を身に付けた王妃様第二王子妃様が参加者の目を惹きつけている。

妃殿下方だけでなく陛下、第二王子、双子のお子様方もヤマニーラの新作を何処かに取り入れており、この事は更にヤマニーラの新作の価値を上げ、その年の社交界での流行になっていた。


今や飛ぶ鳥を落とす勢いのあるヤマニーラ伯爵。何とか縁続きになりたい貴族家も多い。

嫡男シュミットの子はまだ小さく伯爵がまだ婚約者を決めないと断言しているため期待は出来ない。


と、なるとヤマニーラ伯爵次男トニカートが唯一の相手となる。噂によるとトニカートはヤマニーラの布、糸事業を統括しているらしい。トニカート自身が貴族家への婿入りよりも事業を優先している。

以前シルキート公爵が娘ルイーズへの婿入りを打診した際、その理由で断ったのは有名な話だ。

伯爵家は継がない。当人は貴族とはいえ次代は平民となる。今迄は貴族令嬢にとって婿入りしない限り魅力の無い条件だった。


しかし、今、ヤマニーラと縁を持つのは貴族家の願望になっている。

トニカートは社交シーズンであろうと夜会にはでない。王都にもいない。ヤマニーラ領から出るのは妹である第二王子妃セリーナに会う時だけだと言われている。

トニカートと直接会う事は難しい。


では、ヤマニーラ伯爵はというと、

辺境伯のため年に一度社交シーズン初めの舞踏会に出て程なく領地に戻ってしまう。

近年は糸、布の取引で以前よりも長く王都に滞在するが一月ほどで帰られる。

そのため、舞踏会からの一月で会談の許可を得なければならない。

皆考える事は同じだから今から先触れという予約を取らなければ。


兄伯爵と弟子爵はヤマニーラ伯爵との縁続きまでは考えていない。しかし、新作があるとなると


「「妻や娘が欲しいと言うよなぁ」」


二人のため息が重なる。

「兄上、ヤマニーラ伯爵との会談の予約をお願いできませんか」

弟が兄を見る。

ヤマニーラ伯爵との会談は高位の貴族からとなる。これは陛下から出された声明だ。

初めて新作を出した時、あまりにヤマニーラ伯爵への会談依頼が多く王家が間に入り執り成した。


「私が会談の予約を取ろう。お前も同席するだろう」


「はい。兄上。妻や娘もですが、我が領でもヤマニーラの新作は直ぐに売れてしまいますから」


「そうだな。譲ってもらえるだけ全て買取と話をする」


「はい。よろしくお願いします」


兄と弟は硬く握手する。兄はその場でヤマニーラ伯爵宛の手紙を書き執事に託した。


この時、兄弟が手紙に向かって拝んでいたのを執事は見なかった事にした。




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