冬
冬になった。
寒い。ガイト村は雪は滅多に降らないから雪国よりもましかもしれないけれど、板だけで出来ている家は隙間から風が入る。その度に隙間に土を入れたり木を打ちつけたりして防いでいる。
竃を暖炉の様に使って部屋を暖めても、隙間から暖気が出て行っていると思う。
二枚になったゴザも一枚よりはいいかなぐらいで寝る時はまだ身体が痛い。
「おはようアイカ」
起きて台所へ行くとお母さんが竃に火をつけていた。
早く火をつける為に枯葉に細い木を乗せている。
「お母さん、それ、それ何?」
お母さんが持っていた細い木を見て叫んでしまった。
「アイカ、声が大きいわよ。どうしたの」
「ごめんなさい。その木が気になって」
「これ?」
お母さんが細い木を持ち上げて見ている。
『先に付いてるのって綿だよね』
「ちょっと見せて」
お母さんに木をもらってじっくりと見る。
「そんなのいつも火をつける時に使ってるわよ。その
実が付いているのはあまりないけれど、時々付いているのよね。その実がまた良く燃えるのよ」
愛佳が生まれた所は、昔、漂流して町に着いた外国人が綿の種を持っていたため綿の栽培が始まった場所だった。
その町の子供は授業で他の町の子供が朝顔を育てるように綿を育てる。そして秋、綿の実のコットンボールが出来ると収穫し、種を取り、綿を作る。3年生になると綿から繊維を作っていた。
お母さんの持っていた木は綿に似ていた。先に黒色の実が付いている。
「お母さん、この先に付いている実って、白いのが無いの」
「木が枯れる前は白いわよ。枯れないと火が着きにくいから枯れてから取ってくるのよ」
「えっ。じゃあ今は無いの」
「無いわよ。なぁに、欲しかったの」
「うん」
「来年、アイカも5歳になるから森で取ればいいわよ」
お母さんの言葉に頷くしか無かった。
黒い実を何とか使えないかと思って洗ったりほぐしたりしたけれど硬くてどうしようも無かった。
来年になるまでは使える物が無い。仕方がないよね。来年を楽しみに待とう。
私の冬の間の仕事は籠やゴザを編む事だ。お父さんやお兄ちゃん達は冬でも森に行く。森に行く事が出来ない時は森で狩った動物の皮を鞣したり鏃を作ったりしている。母さんやお姉ちゃんは畑に行くか私と籠を編んでいる。革や籠は春に商人が来た時に買ってもらう。
私は今迄、籠は教えてもらった編み方をしていたけれど、今回は柄入りにしてみた。令嬢アイカの時に編み物や刺繍をしていたので簡単な柄なら出来ると気がついた。
「おぉ、アイカ凄いな」
森から帰って来たお父さんに柄入りの籠を褒められた。
「へへへ」
嬉しい。お父さんは頭をぐりぐり撫でてくれる。
一緒に帰ってきたお兄ちゃん達も籠をひっくり返して見ている。
「アイカ、上手いもんだね」
カイル兄の言葉にルー兄も頷いている。
その後、畑から帰ってきたお母さんやお姉ちゃんにも褒められた。お母さんとお姉ちゃんには今度編み方を教える約束をした。いろいろな編み方を考えてみよう。
硬い黒パンと少し野菜が入っているだけのスープの夕食を家族皆で和気あいあいと食べる。今日あった事を話したり、私の作った籠をこの冬は沢山作ろうと相談したりした。
「ねぇ、お父さん、アイカの籠の事を村会議で話して村の皆で作ったらどうかしら」
「そうだなぁ。もう2、3個作って村会議の時に持って行くか」
「お父さん、お母さん、私もアイカに教わって作るわ」
お母さん、お父さんの言葉にお姉ちゃんが言った。
「皆で沢山作りたいわね。商人のマークさんにいつもより高く買い取ってもらえるといいわね」
お母さんも嬉しそうだ。
家族の役に立てているかな。そうだと嬉しい。