モリーナとキラナ
領都サーランを出てから2日、何事も無くサーラン領を出る事が出来緊張感が無くなっていたのだろう。昼食休憩の時間が少し長くなってしまった。
「そろそろ出発しましょう」
出発の準備をしているとマークさんがこちらに来た。
「ルーカス、川の中州に誰かいる」
「えっ」
よく見ると女の人が子供を抱き締めて倒れていた。
護衛のライドさんとカナールさんが川に入る。
「大丈夫。息がある」
ライドさんが二人の身体の傷を見ている。
「こちらに連れて来られますか」
マークさんの言葉に頷いて二人をそれぞれ抱き上げて川を渡ってきた。
「こちらの女性は鎖骨を折っているようです。少女は骨折はありませんが打撲が多数あります。命に別状は無く気絶しているようです」
カナールさんの報告を聞いてマークさんが顎に手を当て考えているが……
「ライドさん、カナールさん、濡れてしまいましたね。着替えてください。このお二人は女性ですので着替えは出来ませんね」
「このまま馬車に乗せますか」
ルーカスが聞くと
「そうですね。放って置くわけにはいきません。かと言って我々も時間がありません」
「私達の馬車の布を全てそちらに移動させましょう」
一台の馬車に入る布を二台に分けているのは、もし、何かあった場合最悪どちらかの馬車がヤマニーラ領へ着ければと思っての事だ。
「良いのですか」
カナールさんが心配そうに言うがマークさんはサーラン領は抜けたから大丈夫だと思う、早くここから移動した方が良い。と言う。
布を移動させ、まだ意識の無い二人を馬車に乗せる。動かす時に痛みがあったのか、唸ったが、起きる事は無かった。
馬車が出発して2時間ほどたった頃、女性の目が覚めた。
「一度止まりましょう」
女性が目が覚めた事に気づいたマークさんが指示を出す。
馬車が止まりマークさんが女性に話しかける。
「私はヤマニーラ領の商人、マークです。こちらからルーカス、護衛のライドさん、カナールさんです」
女性はまだ頭がはっきりしていないようだった。
「名前をお聞きしても?」
「私はモリーナ、この子は娘のキラナです」
「モリーナさん、お二人はサーラン領の境の川の中州に倒れていました。覚えていますか」
「えっ、ここは何処ですか」
モリーナが慌てて辺りを見回してきく。骨折した鎖骨が痛かったのか顔を顰めている。
「モリーナさん、貴方は鎖骨を骨折しているのであまり動かないで横になっていてください。
ここは、サーラン領の隣、サンタイヤ領になります」
「サーランでは無いのですね」
「モリーナさんがサーラン領へ行かれるのなら戻ってもらわないといけないのですが、次の町で降りて戻ってもらう事になります。私達は急ぎの仕事なので送る事は出来ませんが薬師と馬車の手配はします。ここまで連れて来てしまったお詫びです」
マークさんがモリーナさんに頭を下げる。
「ち、違います。私はサーランから夫から逃げて来たのです。サーランには戻りたくありません」
モリーナさんは動いたので痛みが増しているようだ。
「助けていただきありがとうございます。図々しいとは思いますが皆さんが宿泊する町までで良いので連れて行ってもらえないでしょうか」
「先程も言いましたが、私達は急いでいます。まだ先の町になりますが良いのですか」
「はい、サーランからなるべく離れたいので」
「わかりました。モリーナさんはもう少し寝ててください。着いたらお知らせします」
マークさんの言葉に『ありがとうございます』と言ってモリーナさんは目を瞑った。
「逃げて来たって言ってましたね」
ライドさんがカナールさんに言っていた。護衛としては気になるのだろう。
今日はまだもう少し進む予定だ。宿に着いたら薬師を呼んで話を聞こう。この後どうするか。
私達は急いで帰らないといけないのだから。