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トニカート・ヤマニーラ



…トニカート・ヤマニーラ…


やっとガイト村に来た。

まったく、シルキート公爵家には本当に困らされた。


シルキート公爵は父上の兄、私の叔父になる。シルキート公爵家には8年いや11年前までアイカ姉様という従姉がいた。私は10歳年上のアイカ姉様が大好きだった。憧れていた。

王太子の婚約者として王太子妃教育をしており、令嬢としての作法も素晴らしかった。性格も優しく、私達が王都に行った時にはとても良くしてもらった。


それなのに、王太子は他の令嬢と一緒になりたい為に何も悪くないアイカ姉様に婚約破棄を言い渡した。

シルキート公爵は婚約破棄されたアイカ姉様を修道院に入れた。昔から愛人を作りアイカ姉様に見向きもしなかったくせにシルキート家を貶めたと言って。


辺境にいる父上が婚約破棄の事を知ったのはアイカ姉様が修道院入れられてからだった。私達家族はアイカ姉様をヤマニーラ家に迎えようと修道院に働きかけたけれど…駄目だった。


面会もさせてもらえず何とか手紙だけは届ける事が出来た。一年もしないうちにアイカ姉様が病気になってしまった。私はアイカ姉様を助ける為に薬師になると決めた。次男である事、辺境の地には薬草が多く薬草の研究も領地の為になる事を父上に話したら許可がもらえた。

師匠について薬師の勉強をしたが、三年後アイカ姉様は病気で身罷った。私は助けられなかった。間に合わなかったのだ。


アイカ姉様が婚約破棄された後、王家から第二王子エリック様と妹セリーナの婚約の打診が来た。

父上は王家のアイカ姉様に対する態度の埋め合わせとシルキート公爵の面目を立てるためだろうと言っていた。


アイカ姉様が好きだったセリーナははじめアイカ姉様を貶めた王家に嫁ぐのは嫌だと言っていたが、エリック様もアイカ姉様を実の姉のように慕っていたと聞き、二人は距離を縮め婚約した。


私がガイト村に来ようとした三年前、王都の学園に通っているセリーナが病気になったと連絡があった。私は急いで王都の屋敷にいった。セリーナは顔色が悪くいつも頭痛がするという。

私はセリーナが治るまで王都の屋敷に滞在したのだが、その時の話は本当に酷い。ここまでするのかと怒りが湧いてくる。


セリーナはなかなか治らず、原因もわからない。いろいろな薬を試すが治ってきたかと思うとまた酷くなる。八方塞がりだった。


半年も経つと第二王子エリック様の婚約者が身体の弱いセリーナでいいのか。という噂が出始める。

そして、あろう事か、アイカ姉様が修道院へ入って直ぐに公爵家に入った公爵の愛人の娘、ルイーズがエリック様の婚約者になると噂になっていると聞いた。


シルキート公爵家の人間には反吐が出る。


しかし、エリック様はセリーナとの婚約は変わらないと仰ってくださった。二人が仲睦まじい様子で安心した。


王都に行って一年過ぎた頃、一人の侍女が気になり出した。控えめな人で何がと言われても言えないが何となく気になる。私はなるべくセリーナと一緒にいるようにしてその侍女を見張る。


侍女がお茶を出したり、クッキーを出したりすると次の日セリーナの体調が悪くなる。命の危険かある様な体調不良ではなく倦怠感とか頭痛ぐらいだから今まで気が付かなかった。


信用出来る者にはこの話をして侍女を徹底的に調べた。

庭いじりをする侍女だったが毒草などは触っていない。花を切って部屋に飾っていた。その花も庭でよく見る花で他の侍女も部屋に飾っているようなものだ。


侍女の持ってきたものを口にしなくなってからセリーナの体調は良くなって来た。三ヶ月もすると学園に通うことが出来るぐらい元気になった。


私達が疑っていたのがわかったのか、ある日侍女は買い物に行って戻ってこなかった。逃げられたのだ。

侍女の部屋に入ると花瓶が二つあるが、他は何の変哲も無いごく普通の部屋だった。


二つの花瓶の間に小さな瓶があり、調べたところこれが毒だった。死に至るものではなくセリーナのように体調を崩すだけのものだった。二種類の花から抽出した物を混ぜると毒になるようで、侍女の部屋にあった二つの花瓶の水を混ぜると出来る物だった。


身元の確認もした。シルキート公爵家の庭師の姪だった。庭師といっても草を取ったり土を混ぜたりする庭師の下男。関係を探るのに時間がかかり、分かった時にはその男も公爵家には居なかった。


公爵なのか、愛人なのか、娘なのかわからないが公爵家の人間が指示をしたと思われるが証拠はなかった。


セリーナは元気になり先日エリック様と婚約式を行い名実共に婚約者となった。一年後に結婚式だ。


エリック様と婚約出来なかったからだろうか、シルキート公爵が私にルイーズとの婚約と私の婿入りを言ってきた。

「嫌です。断って下さい」

父上に言うと、父上も母上も

「もちろん、断る」

と言ってくれたが、辺境伯とはいえ伯爵は伯爵。公爵から強く言われれば、断れない。


家族で考えた。


「トニカートはもともとガイト村で珍しい薬草を調べながら薬師をやっていきたいと言っていたな」


「はい」


「ガイト村で糸が出来そうなんだ」


「…糸ですか。本当ですか。布を作る糸ですよね。それは素晴らしいです」


「そうだ。婿入り前にその事業をトニカートが勧めてくれ。私は兄上にトニカートに事業を続けさせる事を婚約の条件にする。そうすればガイト村に住む事になり、何年も王都には行く事は出来ない。お前の嫁もガイト村に住んでもらわないといけないだろう」


どうだ。と言わんばかりの父上の笑顔が黒かった。



シルキート公爵からは婚約の話は無かった事にしたいと連絡があった。





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