三度目
よろしくお願いします
古今東西、恋愛や結婚において相手の条件を示す時に比較して使われる言葉がある。
金持ちだけれど愛情のない相手との家庭が良いか
貧乏だけれど愛情たっぷりの相手との家庭が良いか
(大体の場合、金持ちで愛情たっぷりの相手が良いとか普通の家庭で充分などと選択せずに話が終わる。)
では、そこに産まれた子供は?
…………
真っ白な部屋に虹色の球体が光を放って浮いている。球体に向かい合って女性が座っている。20代前半だろうか。
『如何でしたか。貴方が選んだ人生は』
球体から女性に、声では無く、頭に直接話しかけられる。
女性の名前はアイカ
一度目の人生では田中愛佳
二度目の人生ではアイカ・シルキートと言う。
…田中愛佳…
地球、日本で愛佳は母と二人暮らしだった。愛佳の母は夜の仕事をしていて家を開ける事も度々あった。
10歳の冬休み。母が帰って来なくなった。お金は無かったが、部屋にはインスタントラーメンが2袋あったので自分で作って食べた。
学校がある日は給食があるため食事は何とかなっていたが今は冬休み。3日目は水を飲んだ。
次の日は朝から身体が熱く咳も出る。布団にくるまって寝ていた。そこからは記憶が無い。
愛佳はインフルエンザに罹っていた。食べる物も無く脱水症状になる。母親が帰ってきたのは5日後。母親が見つけた時には冷たくなっていた。餓死だった。
気がつくと愛佳は白い部屋の中で虹色の球体の前にいた。虹色の球体は頭の中に話し掛ける。
『貴方は今後の人生を、選択出来ます。
金持ちだけれど愛情のない家族
貧乏だけれど愛情たっぷりの家族
昇天して次の人生を送る
どうされますか。昇天される方が殆どです。』
虹色の球体は【昇天して次の人生を送る】を勧めた。
愛佳は今まで貧乏で苦労してきたので【金持ちだけれど愛情のない家族】を選んだ。10歳と小さかったためにいつもお腹を空かせている貧乏生活が嫌だったためだ。金持ちになればお腹いっぱい食べれると思い選んだ。
『わかりました。記憶は引き継がれません。しかし、生命が終わる時に思い出されます』
虹色の球体光り、光が愛佳を包んだ。
…アイカ・シルキート…
アイカはサイライト王国シルキート公爵家の一人娘として生まれた。父はサイライト王国の宰相、領地も豊かで地位も権威も財もあった。しかし、両親から愛情を向けてもらえる事は無かった。両親は政略結婚でお互い愛人がいた。屋敷にいる事は少なく、家で顔を合わせると喧嘩をしていた。
アイカは寂しい幼少期を送った。
学園に入る頃に、サイライト国の王太子の婚約者になった。人との関わりが苦手だったアイカは王太子と心を通じる事が出来なかった。
学園を卒業する頃には王太子には他に想い合う令嬢が出来、婚約破棄をされる。
婚約破棄されたアイカはシルキート公爵の怒りを買い修道院へ入れられた。
3年後アイカは悲しみの中病気で命を落とした。
最後に田中愛佳の記憶を思い出して。
そして今、アイカは虹色の球体の前にいる。
『如何でしたか。貴方が選んだ人生は』
虹色の球体が頭の中に話し掛ける。
「酷かったわ。次は【貧乏だけれど愛情たっぷりの家族】を選びたいわ」
アイカは虹色の球体に話す。
『二度目になっても昇天を選ばれないのですか』
「私自身が無くなってしまうのでしょう?前の事も思い出したけれどどちらの生でも私は愛情を知らない。前回はご飯を沢山食べたくてお金持ちの方を選んでしまったけれど今回は違うわ。愛情があれば貧乏など努力で何とかしてみせるわ」
『本当によろしいのですか。二度転生する方は何百年といらっしゃいませんでした。確かに貴方の二度の人生は酷いと思いますが。
‥‥では、今回は今迄の二度の人生の記憶を持ったままに致しましょう。三度目の人生に少しは役に立つと思います』
「ありがとう。次は昇天を選びたいと思えるほど幸せになるわ」
アイカは虹色の球体の光に包まれた。
「お母さん、妹が生まれたのね」
髪をツインテールにした女の子が生まれたばかりの赤ん坊を見ながら一緒に寝ていた女性に言う。
この生まれた赤ん坊が私、アイカだ。