立て直しに必要なこと
第2章のスタートです。
よろしくお願いします。
さて、立て直して見せると意気込んだものの経営の勝手が分からない。
それもそのはず。
元の世界の僕はただの高校生。
アルバイトはいくつか経験したけれど、所詮はバイト。
経営となれば言われたことをやるだけとはわけが違う。
いつの間にか目を閉じていたらしく、両手に伝わる微かな振動を感じて目を開ける。
まだアルメリアの肩に手を置いたままだった。
急に黙り込んでしまった僕を心配したのか上目遣いでこちらを見る目に体温が上がるのを感じる。
「と、とにかく今日はもう休みなよ。また明日からよろしくね。」
肩から放した右手で赤くなっているであろう顔を隠し、もう片方の手をアルメリアに差し伸べる。
反射的にだろう、僕の手を掴んだ暖かい手を引っ張り立たせるとそのまま僕の体に背を向けさせ、部屋が並ぶ方向へとそっと押し出した。
ためらいながら5,6歩進んだアルメリアが少しだけこちらを向いて立ち止まった。
「あの・・・。おやすみなさい。」
かぶりを振って言いかけた何かを飲み込み、放った言葉に
「ん、おやすみ。」と返すと一階にある自分の部屋に戻っていった。
それを確認してから僕も自室に戻り、ライトすら置かれていない机にフロントから拝借した宿帳を広げた。
これ以上アルメリアを苦しめないよう、早急に宿の立て直しに取り掛かる。
まずは、カルミアの現状と過去を調べることから始める。
それには、この宿帳を調べるのが早いだろう。
職業の欄に注目してみると初めのころは商人が多いのが分かる。
ドルティエは国の中心に据えられているという性質上、商人が多いのだ。
しかし、最近の記録では商人の名前が無くなり、冒険者がたまに利用してくれるだけとなっている。
これだ。
『クラナイ』の貴族や商人には獣人を嫌うものが多い。
その一方で、身体能力の高い獣人とパーティーを組んでいるものが多い冒険者は差別意識が薄い。
であれば、冒険者が利用してくれる宿を目指すべきだ。
方針は決まった。
ただ、どうすれば泊まってくれるようになるだろう。
冒険者にとって有益な何か。
付加価値をつけるのが良いだろうということは分かるのだ。
問題は1つ。
好きなものはゲームにアニメ、漫画の男子高校生に集客を見込める特技などないことだ。
こんなことなら神様にスキルの一つでも貰っておけばよかった。
・・・そもそもあの人が廃れた宿なんて仕様にしなければそれで済んだわけだが。