至った、決意
何をする場気か迷った結果、まずは片づけを終えたアルメリアに頼んで宿帳を見せてもらうことにした。
「ありがとう。」
よく見ると、随分年季の入った宿帳だ。
最初の方をめくってみるとぎっしりと宿泊客の名で埋まっている。
驚くことにほとんど毎日満室の大繁盛だった。
しかし、だんだんと空白が多くなってくる。
ここ一週間に関しては合計で3人しか利用客がいないという悲惨な状況だった。
詳しいことはわからないが、明らかに経営は成り立っていないことぐらいわかる。
どうするべきかと悩んでいると、あの。と遠慮がちな声が聞こえてきた。
顔を上げるとアルが泣きそうな顔をしていた。
「ごめんなさい。お客様減る一方で。私がもっと頑張らなきゃいけないのに。やっぱり辞めます。」
勢いよく頭が下げられる。
「ちょ、ちょっと待って。辞める必要はないし、どうして謝るの?お客さんが減っているのはアルメリアの所為じゃないよ。」
慌てて言葉をかけるが、ぐすっと鼻を啜る音が聞こえてくる。ピンと伸びていた耳も垂れ下がっている。
何とか慰めたいが、リアルではここ数年女の子と会話らしい会話をした覚えがない。
視線をさまよわせていると、フロントにティッシュボックスが置いてあるのを見つけた。
ひっつかんでアルメリアの前に差し出すと、小さな声でありがとうございます。とお礼を言いながら涙を拭く。
「今日は休業にしようか。」
どうせお客さんも来ないだろうし問題ないだろう。
入口にかけてあるOPENのプレートを裏返しclosedの状態にする。
取って返してアルの右腕を引っ張り、ソファへと連れていく。
まだ涙目だが、どうにか落ち着いてきたらしい。ふぅと小さく息を吐き、僕のほうを向いてくれた。
「どうして辞めようと思ったのか、話してくれる?」
優しく、を心がけて改めて質問する。
「この宿にお客さんが来なくなったのは私が原因だからです。」
「さっきも言ってたね。どうしてそう思うの?」
「私が獣人だからです。」
それがどうしたの。と聞き返しそうとして思い当たった。
RPG系ではよくある獣人差別の世界。それが『クラッド・ナイト』にも当てはまることを。
そして、同時に気づいてしまった。アルメリアを苦しめたのは僕の身勝手な願いの所為だと。
「いい。よく聞いて。」
アルメリアの両肩を掴んで言い聞かす。
「この宿にお客さんが来ないのはアルメリアのせいじゃない。僕の責任だ。」
これは紛れもない事実だ。
ケモ耳美少女を望んだ僕の責任だ。
論理的な説明も根拠も何もないこの言葉。
それでも、僕が真剣なのが伝わったのかアルメリアはコクンとうなずいてくれた。
廃れていても、のんびり生活できれば良いと思っていたけれど、それでは駄目だ。
この宿を立て直してアルメリアの所為ではないと証明して見せる。
これが僕の異世界ライフの目標となった。
一先ず第1章完結です。
第2章もよろしくお願いします!