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お別れの時間です

「おお!美味そうだ!」

ダイニングに足を踏み入れたグラッドさんが嬉しそうに言う。

その声に部屋で寝ていたらしいダンさんは眠そうな顔をしていたが一気に覚醒した。

「確かに凄いな。」

「どうぞ召し上がってください。」

ビールをコポコポ注ぎながらアルが勧めると勢いよく酒を煽ってから食事を始めた。

「美味い!何だこれ!?」

サラダを口にしたグラッドさんが目を見張る。

「野菜は普通の生野菜だな。ドレッシングか?」

「はい。私のオリジナルレシピで作った自慢のドレッシングなんですよ。」

このドレッシングは僕らの食卓にも出てくるものだ。

柑橘系が入っているのか甘酸っぱさのあるそのドレッシングは僕もお気に入りだ。

何を使っているのか尋ねても隠し味だからと教えてくれない。

「風呂を沸かしてきます。」

僕にだけ聞こえるような声でフラン君が言うとこっそりと出ていった。

確かにここにずっといる必要もないだろう。

アルに任せて僕も出ていこうとすると、酒の力も手伝って上機嫌のグラッドさんに見つかってしまった。

「おい、トーヤも一緒に飲まないか。今回のクエストが上手くいったのはお前のおかげだしな。」

そう言って自分の隣の席をポンポンと叩く。

一瞬迷ったが、チェストからグラスを取り出して大人しく示された席に着く。

僕が出ていくよりもここにいて2人の相手をしていた方がいいだろうし。

「仕事中なので、お酒は遠慮しておきます。」

酒のほかに用意されていた水を注ぐ。

そばに立っていたアルに、ここは任せてと小声で伝えると頷いて出ていった。

「しかし、お前さんは不思議な奴だよなぁ。」

ナイフを使わず豪快にステーキを食べながらグラッドさんが言った。

「何がです?」

「クレイ草のことだよ。そこそこ長く冒険者をやってるがロレンス草原に生えてるなんて

聞いたことがなかった。何で知ってたんだ?」

二人にとっては当然の疑問だろうが、転生者であることを話すのは避けたいところだ。

さて、どうやって切り抜けようか。

「訳ありなら無理に話すことはない。」

端的ながら優しさの籠った声が僕の耳に届く。

対角の席に座るダンさんを見遣るとそれ以上は言葉を継ぐことなく僕を見て頷いてくれた。

グラッドさんが言い募ろうとする気配を感じてそちらを向くと、開きかけた口が閉ざされた。

そして、小さく嘆息すると、そうだな。と言葉を発した。

「悪かった。誰にでも言いたくないことの一つや二つはあるもんだ。もう聞かねぇから許してくれ。」

右手で軽く手刀を切るグラッドさんとこちらを見つめるダンさん。

「ありがとうございます。」

そう言って頭を下げた。


「じゃあな、トーヤ。」

翌日の朝、グラッドさんとダンさんは拠点としている街キイナに戻るため僕とアル、フラン君は見送りに

立っていた。

「帰りもお気をつけて。」

「おう。またこっちで仕事するときは泊まりに来る。」

「ありがとうございます。お待ちしてます。」

グラッドさんと握手をしている隣では、ダンさんはアルとフラン君に話しかけていた。

「飯、美味かった。酒も用意してくれたんだな。ありがとう。」

「気に入っていただけて何よりです。またいらしてくださいね。」

「・・・お酒も用意しておきます。」

こうして、僕がこの世界に来て初めてのお客さんは自分たちの街に帰っていった。

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