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来客

昼食を終えて、フラン君は掃除に戻り僕はアルと一緒に再び作業を始めた。

「今からは事務作業を行います。まずは帳簿の整理ですね。」

そう言ってフロントに着くと、宿帳とは異なり比較的新しい革製のノートを開いた。

そこには細かな字で名目と金額が記されていた。

「とりあえず今日の分を書き足しますねー。」

食材を購入した際の領収書を取り出し、記入していく。

支出と収入の欄が分けられているらしい。

予想通り収入はほとんどなく、支出だけが重なっている状態だ。

「ちょっと見てもいい?」

書き終わったらしいアルに断りを入れてパラパラと捲ってみる。

毎月赤字が重なり黒字の月がない。

「私が帳簿をつけ始めてから一度も黒字になったことがありません。」

しょんぼりとした様子でアルが補足してくれる。

「どれぐらいお客さんが来れば黒字になるのかな?」

「ちょっと待ってくださいね。今計算してみます。」

そろばんに似た細長い計算機を操り算出した数は月に142人。

毎日5人と考えればそれほど多く感じないが、0人が通常のこの宿では途方もない客数に感じる。

改めて現実にぶち当たり二人で頭を抱えていると、ドアベルが鳴った。


ドアの方向へ向くと、グラッドさんとダンさんが立っていた。

「よぉ、トーヤ。約束通り報告に来たぞ。」

満面の笑みを浮かべるグラッドさんの手には革袋が提げられている。

「その中身はもしかして、クレイ草ですか?」

心なしかダンさんの顔も嬉しそうに見えたので、聞いてみる。

「あぁ、お前さんが言ってた通りロレンス草原にあったぞ。」

そう言って袋の中身を見せてくれた。

「触ってもいいですか?」

快諾してくれたので、1枚取り出して観察する。

人差し指ほどの大きさの赤くギザギザしたその葉はゲームの時と変わらない特徴を

持っていた。

「な?クレイ草だろ。」

嬉しそうなグラッドさんが僕の肩を抱く。

「トーヤのおかげで予想より早くクエストが終わった。ありがとな。」

ダンさんもありがとう。と頭を下げてくれる。

「気にしないでください。お二人こそ寄ってくださってありがとうございます。」

別に契約をしていたわけでもないのに、わざわざ来てくれる二人には感謝だ。

「実はただ報告に来ただけじゃないんだ。」

組んでいた肩を離し、ダンさんのもとへ戻るとこう切り出した。

「今夜ここに泊まりたい。」

え?と今まで黙っていたアルが声を上げる。

「ダンと話し合ったんだ。報告だけじゃトーヤの貴重な情報に見合わない。だから、カルミアに

泊まろうってことになったんだ。」

「急だが、いいか?」

「勿論です!ね、アル?」

まだ理解が追い付いていないアルに確認する。

「あ、はい!勿論です!」

正気に戻ったアルが、コクコクと頷きながら返事をする。

「実は断られたらどうしようかと思ってたんだ。」

ほっとした様子で笑うグラッドさんにつられて僕も笑う。

「とりあえず、部屋に案内しますね。どの部屋を使ったらいいのかな?」

客室は空きまくっていて、どこに案内すればいいのかわからない。

「えっと、1階と2階どちらがいいですか?」

「1階の方がいいな。」

「俺もだ。」

「かしこまりました。では、右端の部屋2つでお願いします。」

グラッドさんもダンさんも1階希望ということでアルに指示された通りの2部屋に案内する。

少しのんびりするという二人を部屋に残してフロントに戻ると、フラン君がいた。

「トーヤさん。お二人は?」

「部屋でのんびりするって。」

「了解です。では、フラン君はこれをお願いします。」

そう言って折りたたまれた紙片を渡す。

「ん。行ってくる。」

紙を開いて中をちらっと見ると小走りで出かけて行った。

「フラン君はどこに行ったの?」

「お酒を買いに行ってもらいました。うちに残っている分では足りなそうなので・・・。」

「あぁ、お二人とも酒飲みだからね。」

昨日のダンさんとグラッドさんの酒量を思い出して苦笑する。

「はい。フラン君が足りないだろうからって。その間に私は料理を作ります。

手伝ってもらえますか?」

「うん。もちろん。」


初、お客さんのためにお料理です!

というわけで、初めてのお客さんです。

おめでとう、トーヤ君。

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