表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖獣の血族  作者: 魔獣
9/14

乱闘

昼放課、私とユイは朝風杏奈がいるという3年D組の教室に向かった。


「あの〜朝風杏奈さんいますか?」


ユイが教室の入り口から呼びかけると金髪巻き毛の女生徒がこちらに来た。

私の嫌な予感は的中した。

目の前にいるのは間違いなくあの日、公園で見た赤ずきんだった。


「私が朝霧杏奈だけど何か用?」

「私は狸穴ユイって言います。実は狼男を見た話を聞きたくて来ましたっ!」


ユイが妙に堅くなりながら答えた。

「あれは満月の晩だったわ。私が公園を散歩していると突然、全身毛むくじゃらの怪物が目の前に飛び出してきたの。目は金色に光り口は耳まで裂けてたわ。そりゃ怖いのなんのって…でも最初は大きな野犬かなんかだと思ったんだけど、そいつはいきなり二本足で立ち上がったの」


ユイは杏奈の話に聞き入っていた。


「そうそう写真が携帯に保存してあるわ。見たい?」


杏奈が携帯電話を取り出して印籠のように私たちの前にかざした。


「見たい!見たい!見せてください〜」


ユイが手を合わせて拝みだした。


「でも、どうやって写真なんて撮ったんだい?」


私は杏奈に聞いてみた。


「とりあえず私は死んだフリしたのよ!」

「死んだフリ?」

「そうそう、熊が出た時も死んだフリがいいって言うでしょ。そしたら狼男のやつ私が死んだと思ったのか背を向けたの。その時に勇気を出して撮影したの。凄いでしょ?」


杏奈はそう得意気に言うと携帯の画像を出して私達に見せた。

そこに写っていたのは間違いなく獣化した私の後姿だった。


「すっ…凄いわ。これが狼男!」


ユイが目をまん丸にして画面を覗き込む。


「これをマスコミに持ち込んだらいくらぐらいになるかしら?ムフフッ」


杏奈がニヤニヤ笑う。


「確かによく出来てるけどこいつは着ぐるみだね。テレビ局なんかに持っていったら恥をかくだけだよ」


私は否定した。

世間に知られる事によって私や世界にいるかも知れない私の仲間の平穏な暮らしが奪われるのはたまらないからね。杏奈がニコニコしながら私の肩に手をかけぐいと押した。私は思わず前かがみになる。突然、杏奈が私の腹に力いっぱい拳を叩き込んできた。


「ぐはっ!いきなり何すんだい?」


おそらく杏奈は見かけによらず格闘技の有段者のようだ。

油断した私の腹にジワジワと痛みが押し寄せる。


「余計なケチつけないでくれる?私はこの世紀の大発見で有名になってさらにはこの美貌で芸能界に入るの。じゃあねロマンのないつまらない人」


杏奈は嫌みったらしく言うと私たちに背を向けた。


「私は信じてますっ!」


ユイが叫ぶ。

私は背中を見せ歩く杏奈のかかとを踏んで転ばせた。

バランスを崩し前に走り込むように転倒する杏奈。


「ったわね!私を怒らせたらどうなるか教えてやるわ!」


杏奈は起きあがると顔を真っ赤にして左の手の平を右の拳で叩いて挑発してきた。

杏奈が拳を固めこちらに駆け込んで来た。


「どうっ!謝れば許してやるわよっ!あぁん?」


杏奈は左手で私の胸ぐらを掴むと右手で何発も拳を叩き込んできた。

口の中が切れて血の味がする。


「嫌だと言ったら?センパイ…」


私は杏奈の腹に膝蹴りを食らわした。

さらにひるんだ所に回し蹴りを入れた。

杏奈はよろめきながらもこらえた。


「まいった!私の負けだわ」


杏奈はそう言うと私も一息ついて気を落ち着けた。


「何て言うと思った?ふふん、単純ね。私の顔面に正拳突きが激突した。

鼻の骨が折れ唇が切れ血が流れシャツの襟元を赤く染める。


「うぁあああああッ!」

「くたばれっ!」


私と杏奈はつかみ合う。


ゴツッ!


私は杏奈の顔に頭突きをくらわせた。

鼻血が吹き出し杏奈は顔を押さえながら床に倒れた。

しばらくして私達は血にまみれたお互いの顔を見合っていた。

杏奈が突然、笑い出した。


「アンタ、面白いわ。私に本気でぶつかってきたのはアンタが初めてよ。名前は?」

「月影冴…」


私がそう答えると杏奈は床に寝そべったまま手を差し出した。

私はその手を掴み杏奈を起こした。ふと床を見ると割れて壊れた携帯電話が落ちていた。


「やっぱ、ふざけんな!どうしてくれんのよ!私のケータイと世紀の新発見は!」


杏奈が顔を真っ赤にして怒る。


「あの…朝風さん」


ユイが恐る恐る杏奈に声をかけた。

「実は私オカルト研究家になるのが夢で…良かったら私と一緒に狼男の正体を探りませんか?」

「せっかく撮った写真が〜」

「だから今の写真よりもっと凄い大発見をしましょうよ」


ユイがニッコリ微笑みかける。

ユイ自身の好奇心もあるだろうが杏奈の怒りを静めようとしてくれたのかも知れない。


「そりゃいいねぇ!狼男を生け捕りにしたらいくらで売れるかしら?」


杏奈は金と名声、ユイはロマンってやつを求めてる。

まったく人間ってのはよく分からない。ただ、これで2人に熱が入り何かのきっかけで私の正体を知るような事態は避けなければならない。

私は早く杏奈が忘れる事を願った。

それに2人とはもう関わりたくない。

特に杏奈とは…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ