骸羅
ギャング達の怒声が飛び交う。
「このアマァ!こんな事してタダじゃすまさねぇぞ」
「その制服をズタズタに引き裂いてやるよッ!」
モヒカンの男が敵意と好色の入り混じった笑みを浮かべながらコンバットナイフを振り回し襲いかかってきた。
私はそのナイフを蹴りではじき飛ばした。
ナイフは宙を舞いモヒカン頭に突き刺さった。
その様子を見て仲間のギャング達が腹をかかえて笑う。
「へへへっ…そうだな。この女、引っ剥がしちまおうぜ」
「グヘヘ…そいつぁいいな…キャンキャン泣かしてやるよメス犬ゥ!」
ギャング達が憎悪と下卑た欲望に顔を歪ませながら私を取り囲む。
こちらも殺気を全開にして奴らを睨みつけた。
「命が惜しくない奴は来なっ!アタシもその眼帯男と同じで手加減は出来ないタチでね」
私は精一杯凄んでやった。
すると、さっきまでの威勢はどこへやら奴等は怯えた子犬みたいに後ずさりした。
野生動物は本能で自分より強い相手を感じ取る。
その機能は人間にも備わっているようだ。
特に暴力の世界で生きている連中は勘が鋭い。
だが、さすがに骸羅は微塵も怯んでいないようだ。
「おまえ等は手を出すんじゃねぇ!」
骸羅がギャング達を一喝した。
「女だからって容赦しねぇぞ!」
「アタシの方こそ手加減しないから覚悟しときな!」
私は相手の出方をうかがいながら間合いを取る。骸羅が右足を持ち上げ強烈な正面蹴りを繰り出してきた。
巨体ながらスピードもかなりのものだ。
だが私は難なくかわし左側に回り込み太ももに素早くローキックを連打した。
キックボクシングや総合格闘技でもローキックで太ももの筋肉にダメージを与えスピードを奪ったり立てなくする戦法がある。
こうして骸羅の足の動きを止める作戦だ。
もっとも私が本気を出せば並の男なら一発で動きを奪える。
「ガーッハッハ!蚊に刺されたほども利かぬわ!」
骸羅はかなりタフなようだ。
「食らえいッ!」
油断をしたスキに骸羅の豪速拳が私の腹に叩き込まれた。
「がはっ!」重たい痛みと共に私の体は3メートルほど後方に飛ばされた。
だが心配はいらない。
私は桁外れにタフだ。
起き上がると、すぐさま骸羅がタックルで突進してきた。
だが骸羅の動きが急に止まった。
よく見ると骸羅の右足を高嶋が両腕でガッシリと押さえている。
「この高嶋さんのド根性を舐めんじゃねぇッ!」
痛みをこらえ闘う番長の男気に私は心を打たれた。
「こんのくたばりぞこないがぁ!」
骸羅は怒り高嶋を踏みつけようとする。
重傷の高嶋をこれ以上、傷つけさせる訳にはいかない。私は学校を囲うフェンスによじ登り骸羅目掛けて飛んだ。
「これでKOだよ!」私は上空5メートルから全身の体重と力を込めて骸羅の頭にかかと落としを食らわせた。
「うぼっ!ごぶぁ!」
骸羅はフラフラとよろめくとそのまま地面に倒れた。
それを見ていたギャング達も捨て台詞を吐きながら一目散にバイクに乗り逃げ出した。
力がモノを言う世界の連中だ。
私が連中の一番の力自慢を倒したんで恐れをなしたのだろう。
「カッコ悪いよな…女に助けられるなんて…」
高嶋が地面に倒れたまま呟いた。
「アンタは最後まで闘った。それでこそ本当の番長だよ」
私がそう言うと高嶋は静かに微笑んだ。
「怪我が酷い。早く保健室に運んでやりな」私は子分たちに促した。
そして、この場を去ろうと背を向けると高嶋が私を呼び止めた。
「助けてくれて、ありがとな。名前を教えてくれないか?」
「私の名前は月影冴」
「月影冴か…いい名前だ。この借りはいつか返すぜ」
「借りは気が向いた時でいいよ」
私は高嶋達に背を向けたまま手を振ると教室に向かった。