宣戦布告
放課後、校庭に人だかりが出来ていた。
校舎の壁一面にスプレーでバイキングの兜を被った男の顔が描かれていたのだ。
今朝はこんな落書きはなかったはずだ。
顔の下にはPWと書かれている。
サイコ・ウォリアーズのイニシャルという事か。
つまり、これは奴らのシンボルマークか何かだろう。
「奴らの宣戦布告だ…」
後方で重々しい男の声がしたので振り向くと番長の高嶋がいた。
「よぉ、久しぶりだな冴。この前は助かったぜ。お前がいなかったら俺は今頃、墓の中だ」
「ケガはもういいのかい?」
「俺は月守の番長だぜ!こんなケガ大した事ねぇ!」
包帯とギプスを付けていたが元気な姿を見て安心した。
「これは俺達と奴らの戦いだ。関係ない奴らを巻き込むつもりはない。もちろんお前の事も…」
「ああ、だけど無理はするんじゃないよ。せめて怪我だけは治しな」
私から言える事はそれだけだった。
「分かったぜ。ありがとな、心配してくれて」
高嶋が少し照れながら言った。
「にしても変だな、どうやってあんな高いとこまで描いたんだ」
高嶋が首を捻る。確かに壁一面に描くにはクレーンかハシゴがいる。
「聞いた噂なんだがサイコ・ウォリアーズの背後には人ならざる存在がいるそうだ…悪魔的な何かが」高嶋がそう言うのを聞いて私はクスと笑った。
「俺だってそんな話、信じちゃいねーよ。ただアイツらは並みのストリートギャングじゃねえ」
確かに高嶋の言うとおりだ。
奴らが本腰を入れたら高嶋達に勝ち目はないだろう。
高嶋の舎弟はこの学校に何人もいる。
だけど奴らの狂暴性と戦闘力、圧倒的な組織力には到底及ばない。
だけど私はそれを言えるほど野暮ではなかった。
言った所で高嶋のプライドを傷つけるか火に油をそそぐだけだ。
「もし本当に助けが欲しい時は助けを求めてもいいんだよ」
「まあ心配すんな。あんな奴ら俺がぶっ潰してやるよ!」
そう意気込む高嶋の言葉には確かに月守で番を張る男の覚悟があった。




