プロローグ
私の名前は月影冴、私立高校に通う女子高生だ。
その夜、私は抑えられない衝動と焦燥感にかられて夜の街を走り回っていた。
集合団地の隙間を駆け抜けると、新興住宅地に出た。
そこで、私は灯りの消えた一軒の家に目を付けた。
私は野生動物のように家の塀からベランダに飛び移り、屋根に登る。
そして、屋根から屋根に飛び移る。
これがある場所に行くための近道だからだ。
こう言うと普通の人間は奇妙に思うだろう。
でも私には少し普通の人間とは違う力がある。
その辺りはのちのち詳しく話そう。
しばらくして、国道が見えると私は屋根から飛び降りた。
そして、国道に面した歩道に着地する。そして、私は薄暗い街灯に照らされた歩道を歩いていく。
少し歩くと、目的地が見えてきた。
街はずれにひっそりと佇むライブハウスだ。
私は日曜日のこの時間に聞こえてくる歌声を聞くために、ここに来た。
私はライブハウスの屋根によじ登った。
そして屋根の上に寝そべり耳をすまして音楽を聞いた。
ちゃんと入り口から入れって?
どうも私は人の群れが苦手だ。
それに私の耳には防音装置付きのステージの音をハッキリと聞き取る事ができる。
バンドの演奏に合わせて力強く歌う女性の声が私の胸を高鳴らせる。
実は私はその歌手の名前も顔も知らない。
たまたまライブハウスの前を通りがかった時に聞こえてきたのが縁だ。私は彼女の声が好きだ。
だが、それ以外はからっきし興味がなかった。
私はいつの間にか音楽に合わせて水飲み鳥のように首を振っていた。