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奇術

 街のとある場所に、人々が集まっていた。それは遠くからでも、不穏な雰囲気が漂ってきているのがわかった。

 

「なにかおきたんでしょうか……」

「ただ事ではなさそうねぇ」

 

 サバトを終えたアイリスたちはその場所に近づいてきていた。カフェを出て街を散策していた二人だったが、偶然ここを通りかかり、人だかりが出来ていたのを気付いた。

 そこに行くと人々は深刻そうな顔で、中には怯えている者までいた。

 

「ちょっと聞きたいんだけど、ここでなにかあったの?」

 

 ライアはそばにいた男性に話をかける。

 

「旅の人かね?ここで殺人事件が起きたんだよ」

 

 その男性はこっちを向きライアの問いに答えてくれた。

 

「殺人事件ねぇ。通りでこんなに人がいるわけだ」

「しかもただの殺人事件じゃない。連続殺人だよ。ここ一月で十件以上もの殺人が起きてるんだ」

「十件以上ですか……」

 

 事の深刻さをアイリスは認識する。すると突然、他の男性がこの話に割り込んできた。

 

「それだけじゃねぇ。いつも殺されてるのは夜だ。しかも殺されたやつらはみんな、内蔵を喰われたかのようにぐちゃぐちゃぐちゃになって飛び出てるらしいぞ。ありゃ絶対悪魔の仕業だ」

「馬鹿言え。もし悪魔なら夜とはいえ、誰かが見ているだろう。だがここらで悪魔を見た、なんてやつは一人もいないぞ。これは悪魔に見せかけた凶悪犯の仕業だ」

 

 二人の男性はこちらの事を無視していつの間にか口論をはじめていた。

 

 悪魔は主に暗闇で活動し、人間を苦しめ痛ぶるのを快楽としている魔女の先祖であり魔女の宿敵。悪魔は個体差があるが人間の臓器や体の一部を喰い千切り殺すと言われる。

 そして悪魔に殺された人間は輪廻転生から外れ、永遠の無の世界に行くとされており、人々は悪魔に殺される事を最も恐れていた。

 

「なんだか物騒ですね」

「そうだねぇ」

 

 アイリスの発言にライアは相槌を打つかのように言う。

 

「ライアさんはどう思いますか?やっぱり悪魔の仕業なんでしょうか?」

 

 ライアなら分かるのではとアイリスは訪ねてみる。ライアはそうねぇとだけいうとしばらく考えてるように沈黙していたが、 なにか思いついたのか口を開く。

 

「今のままじゃあ、わかんないかな。悪魔かもしれないし人間かもしれない。もしかすると……悪魔のような、人間のようななにか……かもね」


 ライアは最後にニヤリと笑う。

 

「それって……まさか魔女って事ですか?」

「さぁねぇ」

 

 ライアは曖昧な返事だけすると死体があるであろう場所に移動し、アイリスはそれに続く。そこを見ると白い布に覆い被さっている人の形をしたものがあった。お腹のあたりだと思われる部分が布からも血の紅い色が染み込んでいる。その死体は処理をしに来たのであろう人物によって運ばれていく。

 

 それを見終わると人々は徐々にその場を離れようとしていた。彼らはこの事件を不穏だ物騒だと思いながらも、他人事のように感じ珍しい物見たさに見ているかのようだった。

 

「ふぅ……そろそろいいかな」


 ライアはなにかを決心したかのように言う。

 

「なにかするんですか」

「忘れたの?さっきわたしの芸を見せるって言ったでしょ」

 

 ライアは近くにあった噴水の所へと行く。そして腰に付けていた杖をとりだし、コン!と先端を地面に叩く音が響く。その音で周囲の人々はこちらを見た。それをみてライアはまわりに聞こえる声で叫ぶ。

 

「はーい注目!みなさん元気?最近物騒みたいだねぇ」

 

 ライアはお気楽な話し方で喋り続ける。

 

「まぁ起きちゃったものは仕方ない。出来れば人生楽しくやりたいでしょう?不穏な雰囲気を和らげるために、わたしが最高のパフォーマンスを見せてあげるよ」


 それからライアはバックから銀製のスプーンを取り出す。

 

「このスプーンはどこにでもある普通のスプーンよ。あなた、ちょっとここに来てスプーンを曲げて見せてくれる」

 

 ライアはアイリスに向かって言った。アイリスはライアの指示通りにスプーンを手に取り両手で思いっきり曲げようとする。だが当然ながらスプーンは固く曲げることはできない。

 

「ありがとう。もういいよ」

 

 アイリスからスプーンをライアに返す。

 

「この通り、スプーンは固くて曲げることが出来ないよね。でもわたしがまじないを唱えると、スプーンは柔らかくなって曲げることが出来るのよ」

 

 そう言ってはライアは左手でスプーンの柄を持ち右手でパチンと指を鳴らす。

 

「これでこのスプーンは柔らかくなった。今からこのスプーンを曲げるわよ」

 

 ライアはスプーンの先端をつまむ。そして深呼吸をし数を数える。

 

「いち……に……さんっ!」

 

 その一瞬で。その一瞬で、スプーンの先端はライアの方へと曲がっていった。

 

 それを見ていたものたちは一斉に驚き、あるいは歓声をあげ拍手をした。アイリスもこれは凄いと思った。

 だがそれと同時に不安もある。これは魔術ではないのかと。しかし不思議な事にその事を言う人物はいなかった。

 

「ま、これは初歩的なものね。練習すれば誰でも出来るよ。ねぇ、もっと見たい?見たいなら少しだけお金を恵んでちょうだい。その分うんっと凄いやつをやってあげるわ」

 

 ライアは袋を取り出し地面に置く。そこにもっとライアの芸を見たい人たちが銀貨や銅貨を入れてくれる。

 

「にししっ、まいどありー」

 

 ◇

 

 しばらくライアのパフォーマンスが続き終了した。人々は珍しそうに、そして笑顔に溢れていた。

 

「凄かったですね」

「うん、収穫収穫。これだけ稼げたら十分よ」

 

 ライアはお金の入った袋を手に取る。袋は重くずっしりと大量の銀貨と銅貨が入っていた。

 アイリスは周りに人がほとんどいないことを確認するとライアに疑問に思ってた事を口にする。

  

「そういえば、なんでみんなライアさんの魔術を見てなにも言わなかったんですか。あのままだったら普通、魔女狩りにかかりますよ」

 

 アイリスはずっとそれを気にしていた。魔術を使うこと、それはすなわち自分が魔女だと言ってるようなものだ。なのに誰もライアが魔女だと気付きもしなかった。ライアはアイリスの言いたいことがわかりああ、と言って首を横に振る。

 

「あれは魔術じゃないの。奇術って言うのよ」

「奇術……ですか」

「そ、魔術は魔女しか使えない、人間には使えないものでしょ。でも奇術は違う。奇術は誰でも使えるものなの。仕掛けがあって、まるで実現不可能な事を可能にする……錯覚させるのが奇術なの」

「でも危険じゃないですか。それ、一歩間違えれば魔女狩りにかかりかねませんよ」

 

 それが例え人間にも可能なことだとしても、魔女であるライアがやるのはあまりにも危険過ぎるだろう。

 

「確かにそうなんだけどね。魔女だと疑われたときは、ほんとはしたくないけど種を明かして奇術だと証明させてる。魔女の印がないかどうか調べられるときは、わたしの幻術でゴマかせられるしね」

「なんで、そこまでするんですか」

 

 その言葉にライアは黙り背を向ける。しばらく沈黙が続きライアが口を開いた。

 

「……わたしはね、魔術がひとの役に立てるようになってほしいの。今は無理かもしれないけど、いつか魔女と人間が一緒に平和に暮らせるようにってね。そんな時旅の途中に奇術を見たの。人間でもこんな事が出来るんだ、魔術がなくても人はこんな事ができるんだってね。だからわたしは奇術が好き」

 

 アイリスはその事に関心を示した。彼女は人と魔女の事をよく考えているんだと。自分の身に危険が迫ろうともなおやめない、その精神はすごく心に響くものがあった。

 

「すごい……ですね。私にはそんな事出来ません」

「ううん、そんな事ないよ。だって……」

 

 ライアはこちらを振り向く。

 

「人を笑顔にするって楽しいでしょ」

 

 ライアはにしっとこちらに微笑みを見せて言った。

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