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信じる事の責任

 遡る事アイリスが火炙りにされる少し前の事であった。

  

「ここがアリッサム……!」 

 

 アイリスは目を輝かせ独り言を言う。アイリスはまだこの街に来たばかりであった。

 アリッサム王国、地図の北東にあるルーランド大陸に存在する国だ。他には紅茶に使われるアッサムが名産である、ということしか知らないがそこそこ大きな国で一度来てみたかった。

 アイリスは周りを見渡す。魔女都市には見ない建築物、服装など見るものすべてが新鮮な感じであった。ゆっくりと周りを見回しながらアイリスは歩く。

 

「そこのお嬢さん」


 するといきなり誰かが話しかけてくる声がした。アイリスは周りを見渡すと一人の人物を見つける。黒いローブを身につけ座っている男性がいた。前にはテーブルがあり水晶がおいてある。占い師だろうか。

 

「私、ですか?」 

「お嬢さん旅人だね。占いには興味ないかい?」

 

 やはり占いの誘いであった。

 

「でもお金が……」

 

 占いには興味があったがアイリスの所持金は金貨3枚と銀貨が50枚ちょっと。約3月分のお金しかなかった。

 

「ああ、それなら心配いらないよ。これは趣味でやってるんだ。お金は貰うつもりはないよ」

 

 アイリスの残念そうな表情をみて男性は優しく言う。その優しさにひかれアイリスはその話に乗ることにした。

 

「それじゃ実際にやってみようか。この水晶に手を近づけてごらん」 

 

 アイリスは男性の指示に従い右手を水晶に近づける。

 

「あの、これでいったい何が分かるんですか?」

「これはね、手をかざす事でその人の運勢が分かる水晶なんだ。もし手をかざしてこの水晶が光ったら幸運がやってくるよ。素敵な出会いがあったり大金を手に入れたりね」

「思わぬ出会い……!!」

 

 それを聞いてアイリスは想像した。もしそれがほんとうなら、つまり素敵な男性と出会えて、恋に発展したりするのだろうかと期待に胸が膨らんでくる。だが、手をかざしたはいいがいっこうに水晶は光る感じがしない。

 

「駄目なのかな……」

 

 素敵な出会いは訪れないのかとアイリスはしょんぼりした顔をする。

 

「ただかざすだけじゃ駄目だよ。かざして手に力を入れるんだ。一点に集中させるような感じで」

  

 それをみて男性はフォローするかのように言う。力を入れ一点に集中させる。つまりは魔術を使うときの要領でやればいいのではとアイリスは思った。アイリスは思い出す魔力を発動させる時のように力を一点に、念じるように。

 

 するとどうだろう。水晶には光が輝き出した。

 

「おおっ……」

 

 男性はそれをみて驚いた顔をしていた。

 

「やった!!光りましたよ!これで素敵な出会いが訪れるんですよね!」

 

 アイリスはぱぁっと笑顔で大きな口を開けて言う。これで素敵な出会いが、幸せが、幸運がやってくるのだと浮かれてしまっていた。

 

 だが占い師の男性はなにも言わない。黙っていた。

 

「あの~?」

 

 黙っている男性をみてアイリスはきょとんとする。なぜ黙っているのかが不思議であった。

 すると突然、男性はニヤリと笑い光り輝く水晶を持って立つ。そして男性は大声でまわりに聞こえる声で言った。

 

「みなさん! この水晶を見てください! この水晶は魔女の魔力に反応して光る水晶です! そして今、水晶はここにいる彼女によって反応し光り出しました!彼女は魔女です! 早く取り押さえてください!」

「っ……!」

 

 アイリスは言葉を失う。男性の発言で周囲はざわめきはじめる。アイリスはこの状況が理解ができなかった。

 

「ど、どういう事ですかっ! 騙したんですか! そんな酷いです!」

 

 アイリスは訴える。こんな事で魔女だとバレるなど思ってもいなかった。

 

「フフフ……だからどうした。騙すなんてお前たち魔女も同じだろう。人に装って生きる悪魔の下部風情が」

 

 男性はさっきのような優しい表情ではなく冷たく見下ろすかのような目でアイリスを見た。それはあまりにも醜く、あまりにも残酷、あまりにも憎いものだった。その後アイリスはすぐに来た兵士捕まりあの状況へと移り変わる。

 

 ◇

 

「と、言うことなんです」

「ふぉーふぅ、ふぉふぉね」

 

 事情を説明し終えたアイリスだったが、ライアの言ってることがよく聞こえなかった。見てみると彼女はクッキーを口に含んだまま話していたようだ。真面目に聞いているのか不真面目なのかよくわからない。ライアはクッキーを飲み込み紅茶で一息つくと再び話しはじめる。

 

「ごめんごめん。まぁ、そう言うことねぇ。だいたいの事情は分かったわ」

「ほんと、酷いですよね!占いだと偽って魔女狩りをするなんて」

 

 さっきの出来事を思い出したアイリスは今になって、怒りがわいてきている。

 

「そうねぇ……」

 

 不真面目な感じになっていたライアだったがすぐまた顔つきが変わる。

 

「騙す方が悪いってのは確かよ。でもね、それを信じてしまったあなたにも責任があるよ」

「どうしてですか? 人を信じることは駄目なんですか?」

「信じることが駄目とか悪いって言いたいわけじゃないよ。ただ相手の事を信じるなら、相手の裏を考えてその上で何を信じるか、信じないか選びなさい。信じるってことは場合によっちゃ、自分の未来を託すようなものになるんだから。信じるなら信じた事に責任を持つ。そう考えないとやっていけないよ」

「信じることに責任を持つ……」

 

 今まで簡単に人を信じていた。それでまわりからよく人を疑うことを知らないと言われているくらいに。

 だがそこに、信じることに、責任を感じてやっていただろうか。恐らくそれが出来てなかったからこの事態が起きてしまったのだろう。自分に対して無責任、だったのかもしれない。

 

「そもそもの話、あなたもだけど、その占い師も間抜けなやりかたをするねぇ。魔女狩りのためにやってるならそんな怪しい勧誘でかつ、錬金術で作られたであろう水晶で念を込めると光るって手口、普通の魔女だったら警戒するよ」

「そ、そうですね」

 

 言われてみれば確かにそうだ。そんな手口にはまるなんてめんもくないとアイリスは思った。


「ま、こんな話をするのはもうやめましょ」

 

 場の雰囲気を感じ取ったのかライアは話を変える。

 

「アイリス……いやアリスって呼んでいい?」

「え!?」

 

 その言葉にアイリスは立って大声で過敏に反応してしまう。それを間近で見てたライアも思わず目を丸くし驚いていた。

 

「え、なに。なんか言っちゃ悪かった感じ?」

「いや……そういうわけじゃないんです。そう呼ばれるとは思わなくて、びっくりしちゃって。その呼び方でも構いませんよ」

 

 自分がなにをしてたのか気付くと恥ずかしくなり、体を小さくして座る。

 

「じゃお言葉に甘えてアリスって呼ぶね。アリスはさ、なんで魔女都市を出てここに来たの。あそこにいれば安全なのにさ」

「はい、それは魔女都市にいるのは窮屈で……色んな人間界のものが見たかったし、美味しいもの食べたり、あと素敵な男性と出会ってそれから……むふふふ」

「おーい戻ってこーい」

「はっ……!」

 

 アイリスはいつの間にか妄想の世界に入っており、ライアに優しく頭をぺしぺしと叩かれ戻ってきた。先の事を考えると自然に妄想の世界に入ってしまうのはアイリスの悪い癖だ。

 

「とりあえず、アリスがここに来た理由は分かったよ。ここからじゃ処刑された場所も遠いし、今日くらいならなんとかなると思うけど、長居はしない方がいいよ。死んだと見せかけてはいるけど、それを見てた人物とまた再会したら疑われるからね」

「やっぱりそうですよね。せっかく観光しようと思ってたのに……」

 

 長居はできない、今日は宿に止まり次の日すぐに出るしかないと思うと少しがっかりする。

 

「ここ以外にもいい場所は他にもいっぱいあるから落ち込まないの。あ、そうだ。それなら思い出にわたしの芸を見る?」


 ひらめいたかのようにライアは言う。

 

「芸ですか?」

「そう私、旅をしながら芸をする旅芸人をやってるのよ。出会った記念といってはなんだけど見せてあげるよ」

「よくわからないですけど楽しそうですね」

「ええ、楽しいよ。誰かを笑顔にするってのは好きだからね」

 

 にししとライアは笑みを浮かべた。

 

「さっそく見せたいってところだけど、どうせなら外で人のたくさんいる場所で見せたいね。まずはサバトを楽しんでからにしましょ」

 

 そう言っては彼女は紅茶を飲む。

 魔女たちのお茶会はしばらく続いた

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