表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/27

悪魔教の魔女

「やっぱり……相手は魔女だったのね」

 

 ライアは確信したようだった。

 そこにいたのは白いドレスを身に纏い、銀色の瞳、肩までの髪の毛を左右結んだ髪型の女だ。

 一番特徴的なのは、髪の色が全体が白いのに対し結んである髪の色だけが黒く染まっている。

 

「お分かりのようですわね。いかにも、わたくしはメアリ……悪魔を崇拝する魔女でありますわ」

 

 メアリと名乗った魔女は丁寧に、両手でスカートの裾をつまみながら、お辞儀をする。

 その姿はとても丁寧でお上品であった。口調といいまるで、お嬢様のようである。

 

「悪魔教の魔女……」

 

 ライアはぽつりと呟く。

 

 悪魔教。

 それは少なからず存在する宗派である。

 悪魔を崇拝し、悪魔のために貢献し、また自ら望んで悪魔に魂を売るものたち。

 悪魔に魂を売ることで、救いを求めるものや、悪魔の考え方を尊敬し残虐な行為を行う。

 崇拝する対象故に信仰する者たちは何かしらおかしいと言われている。


 でもアイリスは理解が出来ない。  

 

「どうしてですか……なんで魔女が悪魔を……」

「なぜですって? ウフフ……むしろなぜ、魔女が悪魔を崇拝しないとお思いでして?」

「悪魔を崇拝するって、あんた魔女がなんで生まれたと思ってんの? 魔女は悪魔に対抗するべく、魔女の祖ウィッカによって作り出された存在なのよ」

 

 悪魔を崇拝するというのは魔女の祖ウィッカの意志に叛く事である。

 魔女たちはウィッカの意志を継ぎ、悪魔と戦いを続けてきたと言うのに。

 

「そうですわね…………だからなんだと言うのですか」

 

 メアリは冷たく、またどこか不気味な感じで言った。

 

「魔女は悪魔に近い存在。なのになぜ、戦う必要があるというのでしょう? 魔女は悪魔とともに、生きるべき存在なのですわ。魔女教(ウィッカ)ではなく悪魔教を崇拝すべきですの」

「馬鹿じゃないのあんた……! 人が死ぬのよ……殺されるのよッ! それをいいって言うの!」

 

 その発言にムキになり、ライアは怒鳴った。

 ここまでライアが怒鳴り、怒りに満ちているのをアイリスははじめてみた。

 いつも彼女は明るく、お調子者なところがある。

 だが今の彼女にはそんな面影はない。

 例えるなら、狼が鋭い目付きで威嚇しているかのようだ。

 

 それに対するメアリは、なんと正反対であった。

 彼女はウフフと不気味に微笑みながら喋りだしたのだ。 

 

「そうですわ……だって楽しいでしょう? 興奮しますでしょう? 人が悲鳴を叫ぶのが! 血が噴き出してくるのが!」

「なっ……」

 

 メアリは目を細め、口を大きく開けて叫ぶ。

 その開き直りにライアも思わず、圧倒されているようだった。

 すると突然、彼女の足元が光出した。

 見てみると魔術陣が発動しており、そこから人の形が出てくる。

 

「これはわたくしの固有魔術《死霊人形(ネクロ・パペット)》ですわ。いいでしょう? この子達は皆、わたくしのお人形なのですの」

「……!」 

 

 それを見てアイリスは、言葉を無くす。

 その光景があまりにも不気味で。

 それは先ほど、ライアが戦っていたように死体であった。

 だがそれだけではない。

 死体を人形扱いすることも不気味であるがそれだけでなかった。

 

「なんでこの人たち、目が……」

 

 その死体たちには目がなかったのだ。

 目があった場所には空洞ができており、そこから血が流れていく。

 

「気付きませんの? あなたさまの消した目玉、それはこの子達の目をくりぬいて使いましたの。まあそれはごく一部で、他はここにありますわ」

 

 そう言って彼女は、鞄から人間の目玉を取り出した。

 鞄に目玉を入れていた。その時点で不気味で、恐怖があるがそれだけでは終わらない。

 なんと彼女は、その目玉を舌で舐めはじめたのだ。

 

「な、なにしてんの……」

「見てわかりません? くりぬいた目を舐めていますのよ」

「だから! なんであんたはそれを舐めてんのよ!」

 

 メアリは平然な顔で言った。

 ライアですら冷静さを失っていた。

 その異常な行動を疑わざる終えない。

 こんな事をしているのに、彼女はむしろにっこりとこちらへ笑顔を見せた。

 

「わたくしは人の目が大好きですの。それはもう……食べちゃいたいくらい!」

 

 その瞬間、彼女の服に、顔に、血が一気に付着する。

 それは……目玉から出てきた血だった。

 メアリは目玉を食べはじめたのだ。 

 彼女は目玉を口に含みよく噛んで食べる。彼女の口からは血がこぼれでてそれで白い服が紅く染まっている。

 綺麗な白いドレスにより血によって紅く染まった部分は目立っていた。

 彼女は目玉をよく噛んだ後、ごっくんと飲み込んだ。

 

「ん……んん…………はぁ……やはり美味しいですわ……人の目玉は。なぜみなさん食べないのか分かりませんの」

「な、なによそれ……狂ってる……こいつ異常じゃないくらい、狂ってるわ」

 

 ライアの声は震えていた。

 誰であろうとも、この光景をまともには思えない。

 アイリスはもはやまともに見ることなど出来ておらず、気分も悪くなっていた。

 

「悪魔みたい……とお思いでしょう? それはそれは光栄ですわ。でもあなたさまは……ここで始末しなければなりませんの!」

 

 メアリはまた目を細めて、不気味な笑みを向けて叫んだ。

 

「わたくしの目的は悪魔にとって邪魔な……大魔女を始末する事ですの。それで《破滅の魔女》を始末しようと思ったら偶然、あなたさまを見つけました。

 噂によるとあなたさまは今、本来の力を失ってるらしいですわね。本来の力ならあなたさまを倒すのは、わたくしでは不可能。……ですけど今ならチャンス。そう思い、あなたさまにターゲットを変えたのですわ」

 

 やはりこれはすべて、ライアを殺すための仕掛けだったのだ。

 だがライアにとっては、そんなことはどうでもいいのであった。

 もっと、大事な事があった。

 

「そんな理由で……村一つを壊滅させたっていうの……」 

「そうですわ。もっとも、わたくしの固有魔術を使うには死体が必要でしたもの」

 

 ウフフと笑いながらメアリは言った。

 するとライアの目付きは完全に変わっていた。

 ただの怒りではない。

 殺意も込められているそんな怒りが伝わってきた。

 

「あんたみたいな…………あんたみたいな魔女がいるからッ! 魔女の評価が悪くなるのよッ!」

 

 ライアは剣を抜く。

 その矛先はメアリに向かって一直線だった。

 

「憎いですか? ウフフ……いいでしょう。《死霊人形(ネクロ・パペット)》お相手してあげなさい」

 

 メアリは両手を小刻みに動かす。

 すると死体たちは動き出し、ライアに向かっていく。

 死体の操作はこうなってたようだ。

 

 死体が動き出したとき、ライアの姿は突然消えた。

 透明化したのだろう。

 それはアイリスにも見えなかった。

 死体たちは消えたライアに戸惑っていた。そして突然死体の一部が切り裂かれていく。

  

「あんたを視認できる今なら! こんなの無意味よ!」

 

 道が開かれるかのように死体達が切り込まれていった。

 メアリに繋がる一直線の道が出来たとき、ライアは透明化を解除する。

 もうライアとメアリの距離は近い、仮にメアリが攻撃魔術を使うにしても、ライアならばその前に攻撃できる。

 そんな状況であると言うのに彼女は一切不安も恐怖も驚きも見せない。

 むしろずっと笑っていた。

  

「ウフフ……」

 

 もうあと、数歩行けばライアの剣はメアリに届く。

 その時だった。

 メアリは鞄から一つの人形を取り出した。

 それをライアの目の前に向ける。

 

「なっ……」

 

 その単純な行動により、ライアの体には異変が起きた。

 ライアの手から剣がするりと滑り落ちる。

 そしてそのままライアの動きは硬直した。

 

「動け……ない」

 

 それに対して、メアリはただ、不気味な笑みを見せ続けるだけであった。

 

「ウフフフフフ…………もうすでに、あなたさまは負けていますのよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ