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不気味な村の真実

「で、来たわけだけど……」

「誰もいないですね……」

 

 翌日、二人は例の村へと来ていた。

 ライアが言った通り、人の気配はなく静かであった。

 今日は天気が曇りなのもあり、薄暗くより不気味さを増している。

  

「そうねぇ。誰もいないならそれはそれでいいんだけど……」

 

 ライアはそう言ってとある場所に座り込み地面を触る。

 その地面をよく見てみると砂に血痕が染み付いていた。

 

「昨日あった男の死体がなくなってるのよ」

 

 おそらくそこにその男の死体があったのだろう。だが死体らしきものは見当たらない。

 つまり誰かが処理したと考えるべきだ。何者かがいるのは間違いない。

 

「次は建物を見てみましょう」

 

 一通り地面を調べたライアは立ち上がり、一応人がいる可能性もあるため、近くにあった民家を訪ねる事にする。

 ライアはドアを叩く。だがやはり人が来る気配も物音もない。

 

「ま、叩いたところで開かないでしょうね」

 

 分かりきってはいたことだろう。どんな物音を立てても反応がないこの状況で、誰かが開けるとは思えない。

 そう諦めたライアだがドアノブに手をかけると、なんとドアは鍵が掛かっておらず開いた。

 しかしそれと同時にライアはなにかに気づき左手で鼻を押さえた。

 

「アリス止まって……」

 

 ライアは右手の平をアイリスを止めるかのように向ける。

 アイリスは指示通り建物に入ろうとした足を止めた。

 

「どうしたんですかライアさん?」

「この中から死体の臭いがする……覚悟して入って」

 

 ライアの言葉にアイリスはゾクっとした。

 もちろん行くと決めたときから、死体を見ることになるだろうと思ったが、やはり覚悟がいる。

 ライアが言ったとおり腐敗した臭いが徐々に開けたドアから漂ってきた。

 アイリスは思わず唾を飲み込む。


 そしてライアの後に続いて建物の中へと入っていく。

  

「これはっ……!?」

 

 想像通りであった。

 部屋を見ると人が二人倒れていた。

 死体だ。

 息をしていない。また、皮膚に死んだことにより出来たであろう痣があった。

 

「案の定ってわけね。おそらくこの村の住民、すべて死んでいるわ」

 

 ライアは一人の遺体のそばに寄り体を調べ始める。

 死因を調べるが刃物で刺したような刺し傷はないし、首を絞めたようなあとも無かった。体自体は腐敗が進んでいる以外に、これといった特徴はない。

 

「死んで数日ってとこね。傷らしい傷はない……毒殺かしら」

「でもどうして村全体が?」

「それはもっと詳しく調べる必要があるね」

 

 ライアは一通り調べ終えて死体から離れ他の場所を調べようとした。

 

 だがその時、アイリスは見た。

 

 死んでいるはずの死体がいきなり目を開いたのを。

 

「ライアさん後ろッ!」

 

 アイリスは叫びその声でライアは後ろを振り向いた。

 だがもう遅い。

 死体はまるで生き返ったかのように、ライアの右足を掴んだ。

 

「なっ!? 死体が動いてる!?」

 

 突然のことだった。

 まさか死体が動くなんて誰が思うだろうか。

 死体はがっしりライアの足を掴み、離れようとしない。

 

「あっち行きなさいこのッ!」

 

 ライアは死体ごと吹っ飛ばすように思いっきり右足で空中を蹴る。

 その反動で死体はライアの足から離れ、壁に衝突する。

 だがそれと同時に、もう一つの死体が立ち上がりライアたちの方へ向かってきた。

  

「この場から離れるよアリス!」

 

 ライアに言われるがままにアイリスは部屋を出ようとした。

 だが外の光景を見たとき目を疑いたくなった。

 

「ら、ライアさん大変です! ……外に死体がうじゃうじゃいます!」

「なんですって!?」

 

 ライアもまた外の光景を見る。

 そこには先程まで無かった、人と言う人がたくさんいた。

 だがそれは望んでたものではない。

 全員生気を感じず、ふらふらとこちらへと寄ってきた。

 

「ど、どうなってるんですかライアさん。死体が動くなんて普通、あり得ませんよ……」

 

 アイリスは震えた声で言った。

 それに対してライアははじめなにも言わなかった。だがなにか考えているようではあった。

 その後、答えが纏まったかのようにライアは話し出す。

 

「ええ、本来ならこんなことありえないわ。魔術でさえも普通は不可能よ……普通は」

「どういう……事ですか?」

「普通の魔術ならばこんな事をすることは出来ない。でも《固有魔術》ならどう?」

「それって……!」

 

 アイリスは先日、マリーの言ってたことを思い出す。

 固有魔術はその魔女独自の魔術。

 普通の魔術よりも特殊で個性的なのが多い。

 そして固有魔術には、接触型と言ってなにかに魔術を流し込みそれを自由自在に操る能力も多いと言う。

 

 つまり。

 

「ええ、これは恐らく死体に魔力を流し込んで操る、接触型の固有魔術。魔女の可能性が高いわ」

「悪魔の可能性は……無いのですか?」

 

 アイリスはその答えを疑いたくなった。

 もとは魔術は悪魔の能力の1つである。少し形は違えど、能力的には同じことを再現できてもおかしくないだろう。

 だから魔女だとすぐに決めつけたくはない。

 そもそもなぜ同じ魔女が悪魔のように人を殺し襲うと言うのか。

 

「悪魔は一つの村の人間全員を殺害するって事はないのよ。あいつらは人間の恐怖や絶望を好むのであって、殺害を好むってのはちょっと違うわ。常に悪魔の恐怖があるって感じさせるためだから、村人全員を殺しちゃ意味ない」

 

 言われてみればそうかもしれない。

 悪魔は今まで人を殺して、恐怖を植え付けることを好んできたと教わった。

 ずっと驚異を与え続けたのは変わりないが村や街一つを滅ぼした、なんてことは聞いたことがない。

 むしろマリーのように人間に失望したり殺戮を好んだ魔女が、村を滅ぼしたなんてことは聞いたことがある。

 

「こうなったらあれを使うしかない!」

 

 そう言ってはライアは大きく目を見開く。

 魔眼を発動させたのだろう。

 ライアの姿を見ると薄く透き通っているように見えた。アイリスの体も同様だ。

 幻術を応用し、自分達が透明になったと錯覚させるつもりだ。

 

「わたしたち自身には薄く見えるけど、視認してる死体には全く見えてないわ」

 

 ライアの幻術には視認した相手に別々に幻を見せることができるようである。


「さあ、今のうちに離れッ!?」

 

 逃げるよう行動に移したライアだったがそれを死体によって阻止された。

 死体はライア目掛けて爪を立て攻撃を仕掛けてくる。

 

「どうしてよ!? ここにある死体は全部視認してあるはずよ!」

 

 ライアは死体の攻撃をギリギリ避けたがこの状況に驚きを隠せなかった。

 

 

 ◇

 

 

「もしかして……わたしの視認してない所で、この固有魔術を使用してる人物が見ている?」

 

 ライアはすぐさまこの謎を分析する。

 可能性としてはそれが一番高かった。

 視認してない相手にならばライアが透明になっていても意味がない。

 だがいったいどこで……。

 

「くっ……ああもう死んでるくせにすばしっこいね! 死人とはいえ抵抗があるけど、恨まないでよね!」

 

 考えるにも死体の攻撃がやっかいで考えずらかった。

 ライアは杖、もとい杖に見立てた剣を引き抜く。

 そしてその剣で死体を切り裂く。死体の首が跳ねられ血が火山のように吹き出してくる。

 だがその死体は、一瞬ぴくりと動きを止めるだけで再び動き出す。

 

「首を跳ねても体は動くってことは、やっぱこいつら自身に自我はないのね。確実に魔女によって操られてるわ」

 

 仕組みはよくわからないが、この死体はバラバラにしない限り、動くのを止めないだろう。

 

 ライアはそう考え、上半身と下半身を別けるように死体を切断する。

 するとライアの狙い通り二つに別れた体はビクビクと動きはするが再生したりはせず実質無力となっていた。

 このようにやれば死体を無力化することは出来るが数が多く時間が掛かる。なにより攻撃が厄介だ。

 

 するとライアはあることに気がつく。

 死体たちは全部ライアのところへ来ておりアイリスの方へは来てなかった。

 理由は分からないがそれはライアにとって都合のいいことだ。

 彼女にはすこし危険が伴うが致し方ない。

 

 

 ◇

 

「アリス! きっとどこかで、こいつらを操ってる魔女がいるわ! それらしきやつを見つけて!」

 

 それはアイリスの耳元で囁くように聞こえた。

 これはライアによる幻聴だろう。

 幸いアイリスのそばには死体がよっておらずライアにだけ向かっている。

 だがもし、これを聞かれていたら、アイリスの方に攻撃を仕向けてくるだろうと言うライアの考えか。

 

 アイリスはそれに頷くように動き出す。

 あまり派手に動くのは気づかれる可能性があるため走ったりはせずゆっくりだ。

 ライアの言うとおりであれば、ライアが見える範囲のどこかにいる。

 気付かれにくいよう遠い場所で見ているのだろう。

 

 それでアイリスは森や高い崖の方を見渡した。

 しかし、人らしき姿は見当たらない。

 何度見ても、それらしきものは見当たらないのだ。それでもなお、死体たちは動きをやめずライアに攻撃を仕掛けてくる。

 

 謎である、敵はいったいどこにいるというのか。

 途方に暮れていたときアイリスはなにかを踏みつけた。

 ぐにゃっという、気持ち悪い音がして。

     

「ひっ……」

 

 見ると、それは人間の目玉であった。

 原型をとどめておらず血が溢れ出ている。

 アイリスはそれを見て怖じ気づいた。

 その目玉は死体から飛び出たのであろう。

 

 だが同時にアイリスは、なぜここに目玉が転がっているのだろうと思った。

 ライアは上半身と下半身を別けるように切断しており目玉が飛び出るなんてことはないはずだ。

 そもそもこの場所は、ライアが戦っている場所よりすこし離れている。

 

 謎が増えるばかりだ。

 なぜ、ここに目玉があるのか。

 なぜ、敵らしき姿はどこにもないのか。

 なぜ、敵はライアを視認できるのか。

         

「っ!? もしかしたら!」

 

 その三つの疑問が浮かび上がったとき、アイリスは一つの結論に達した。

 

 アイリスはすぐさま行動に移す。

 はじめに建物の方を見る。

 部屋の中を見るわけではない。

 建物の周りを見るのだ。

 するとアイリスの予想は的中していた。

 

「やっぱり! 目玉がある!」

 

 アイリスの目線には屋根の影に隠れるように、人の目玉がくっついていた。

 その目玉はちょうどライアの方を見ているかのようだ。

 

 相手は死体を操る事が出来る。

 つまり死体の目玉から相手を視認することも出来るのだろう。

 ここにあるということは、飛び出た目玉であろうとそれは例外ではない。

 だがしかしこんな手の込んだことを普通はしないだろう。

 こんな事をするってことはつまり、相手はライアと、ライアの魔眼の能力を把握しているのだ。

 だからアイリスを気にせずライアにだけ攻撃を仕向けてくる。

 ライアを殺すために仕掛けたと言ってもおかしくない。

 

 そんなことを考えながらもアイリスはすぐに、その目玉に向かって火の玉を放つ。

 その目玉はすぐさま灰になり、消え去っていった。

 目玉を消滅させれば敵も視認出来ないであろう。だがもちろんこの一つだけなはずがない。

 どの場所でもこの方法が出来るよう何ヵ所かに仕掛けているはずだ。相手に気づかれる前にライアのいる範囲の目玉を探しだし消滅させねばならない。

 

 アイリスはすばやく行動をした。

 そして次から次へと目玉を探しては火の玉を放ち消滅させる。

 四つ目の目玉を消滅させたとき、ライアの方に異変が起こった。

 

 死体たちは先程までライアに攻撃を仕掛けてきたが、急に攻撃が止まり、まるでライアの姿を見失ったようであった。

 いや、実際見失ったのであろう。

 アイリスの考えは正しかったのだ。

 

「どうやら、成功したようね」

 

 ライア自身はどうやってアイリスが謎をつき止めたのかは知らないが、敵が今自分を視認出来ないというのを把握したようだ。

 

「じゃいっちょやりますか!」

 

 そしてライアはニヤリと笑い、すばやく死体を切り裂いていく。

 動きが止まった死体はライアにとって格好の餌食だった。

 切断した箇所から血しぶきがドバァと飛び散る。

 ライア自身、髪も服も血まみれであり足元には血の池が出来つつあった。

 

 その後しばらくその状態が続いた。 

 

「ふぅ……やっと片付いた」

「どうにか終わったみたいですね……」

 

 ライアは最後の一体を切り裂き安堵をつく。

 もう死体は動きはしてもライアたちに攻撃をすることは不可能であった。

 

 だがこれですべてが終わったわけではない。

 むしろライアたちはまだ、敵の手の平で踊らされているのだ。

 

 すると後ろからパチパチと、拍手をする音が聞こえた。

 振り向くとそこには女の姿がある。

 いつの間に現れたのかは分からない。

 ただ今までここで見た人物と違い、血の気がある。

 ちゃんと生きているのだ。

 そして彼女はこう言った。

 

「素晴らしいですわ。魔眼の魔女……ライアさん」

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