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サバト

 少女に手をひかれアイリスは逃げる。遠くに行くように、ただひたすらと。追ってくるものはいない、が今は逃げるべきだろう。気づかれたら大変だ。疑問に残ることは多いが、逃げるのが最優先だ。

 しばらく走る。もう足が持たない。足の筋肉が締め付けられるように悲鳴をあげる。息が上がる。これ以上走り続けるのは困難だ。

 そんなアイリスの心を読み取ったかのように少女は足を止めた。少女はアイリスの方を向く。


「ま、ここまでくれば大丈夫かな」

「はぁ……はぁ……」

 

 体を休め息を整えるかのようにしているアイリスを少女はただ待っているかのように見ていた。しばらくし、徐々に息が整ってきたアイリスは気を引き締め、少女に話しかける。

 

「あの、先ほどはありがとうございます」

 

 アイリスはぺこりと頭を下げ、お辞儀をする。


「そんなにかしこまらなくってもいいって。わたしが放っておけなくて、無理矢理助けただけだし。あのまま焼かれて死にたかったなら、余計なお世話だったかもしれないけど。そうじゃないでしょ」

 

 彼女はすべて分かってるとでも言いたそうな顔で返事をする。アイリスはそれにこくりと小さく頷く。そして一番気になっていたことを質問する。

 

「あなたも魔女……なんですよね?」

「ご名答よ」

 

 この問いにきっぱりと彼女は答える。やはり、いや当然と言うべきか、彼女もまた魔女だったようだ。そうでなければ助けてくれる人物なんてそうそういないだろう。それに自分のようなものが焼かれていた、あの不思議な現象は人間には出来ないはずだ。

 

「それじゃ、その……えーっと」

 

 アイリスは彼女に問いたいことが他にもたくさんあった。だが知りたいことがありすぎてアイリスは口を濁らす。

 

「ああ、ここで立ち話もなんだし話すならアレしながらにしましょ」

 

 それを察したのか否か、彼女は言葉を挟む。

 

「アレとは?」

「そんなの決まってるじゃない。魔女が集まって話をするなら一つしかないでしょ」

 

 彼女はニヤリと口の端に笑みを浮かべ、自信ありげな顔をして、そして言う。

 

茶会(サバト)よ」

 

 ◇     


 目の前には小さなテーブル、そのテーブルを挟むように正面に向かい合った椅子がある。アイリスはその椅子に腰をかける。右に顔を向けると外の風景が窓越しに映っている。

 

「店員さんアッサム一つ、あとクッキーもお願い。あなたはどうする?」

「あ、私も同じのでお願いします」

 

 店員と思われし者に注文をする。店員は注文をうけたまるとすぐさまその場から去っていった。


 アイリス達は今カフェにいる

 

 サバト とは、いわゆる魔女たちのお茶会のことだ。魔女は魔術を使う上で精神を高める必要がある。その過程で紅茶やハーブなどには精神を安定させる効果があると分かり、魔女たちの間ではサバトを行う風習が出来ていた。最も、今となっては魔女たちの楽しみとして残ってるのだが。

 

「そういえば、まだ名前を名乗ってなかったね。わたしはライア・ヴァールハイトっていうの」


 ライアと名乗った彼女は、テーブルに肘をつきながら楽な体勢になって自己紹介をする。

 

「私はアイリス・フルテミアです。先ほどはほんとにありがとうございます」

 

 それに続いてアイリスも自己紹介をした。ライアは見た目は自分よりもいくらか年上といった感じだった。だが魔女は、人間と違い魔力によって若さを維持することができ、人間よりも寿命が遥かに長い。見た目だけでは年齢を判断することは出来ないのだ

 

「しっかし災難だったねぇ。魔女狩りに会うなんて」

「はい。私、故郷から出てきたばかりで……まさかこんなことになるなんて思ってもいませんでした」

 

 もしライアが助けていなかったらアイリスは本当に死んでいただろう。そう考えると彼女にはほんとに感謝せざる終えない。

 

「それで、気になったことがあるんですけど」

「うん、いいよ。言ってみて」

 

 アイリスは思い出したかのようにライアに問いかける。

 

「どうやって私を助けたんですか?焼かれると思ってたのに、気付いたら別の場所にいて……でも私はあの炎に焼かれてて」

「あれは偽り(フェイク)いわゆる幻ってところね。周囲にはあなたが焼かれているように見せかけて、その間にわたしが紐をほどいて助けたってわけ」

「幻術……ですか」

「ま、そいうところ」

 

 なるほど。幻術ならば、あたかもアイリスが火炙りにされてるように見させて実際には逃げる事も可能かもしれない。辻褄が合うとアイリスは思う。

 だが幻術というのはかなり高度な魔術で、扱えるものは少ないと言われている。つまりライアはかなりの実力を持った魔女なのだろう

 ちょうど話が終わったとき、店員が注文していた紅茶とクッキーを運んできた

 

「お、きたきた」

 

 ライアは目を光らせ、待ってましたと言わんばかりにまるで子どものような笑みを見せる。クッキーの皿とティーポットが中央に、ティーカップが二人の目の前におかれる。最後に後はご自由にと店員は砂糖とミルクが入った入れ物を置き去っていく。

 

 ライアはにししと楽しみながらカップにミルクを入れ次に紅茶を注ぐ。アイリスもライアが紅茶を注ぎ終わると自分のカップに紅茶を注ぐ。カップの中には濃い紅色の液体が映る。

 紅茶の種類の一つであるアッサムはミルクティーと相性がいい。なのでそのあとにミルクと砂糖をたっぷり入れる。本来ミルクティーにする場合、ライアのように先にミルクを入れる人が多い。だが、アイリスは小さい頃から後からミルクを入れるのが習慣になっていたため、今でもこうして飲んでいる。

 

「うん、やっぱりいいねぇ紅茶は」


 ライアは紅茶を口に注ぎ飲み幸せそうな顔をしている。よっぽど紅茶が好きなのだろう。

 アイリスも自分の紅茶を飲むことにした。その味は濃くミルクと砂糖を入れたことによって甘くまろやかである。思わずアイリスもうっとりとする。

 そのあと、クッキーを手に取り食べる。こちらも紅茶と合う美味しさであった。

 

「さてと、わたしも聞きたいことがあるんだけどいい?」

 

 しばらく二人は紅茶とクッキーの味を堪能していたが突然、ライアはティーカップを置きさっきまでの表情とは売って変わって真剣な顔付きになる。

 

「どうして魔女だとバレたのよ? 魔術を使ったところか魔女の紋章を見られたの?」

 

 どうやらライアにはそれが疑問になっていたようだった。魔術を使わなくても魔女は体のどこかに魔女だと分かる紋章がある。アイリスにも右の二の腕にμの文字が刻まれていて、絶対にその部分を人前で見せないように注意深く言われており気をつけている。

 

「いえ、そうじゃないんです」

 

 だがアイリスはライアの推測を否定する。

 

「そうじゃないってことはどうしたの?無差別に旅人を魔女に仕立てあげてるようには思えないけど」

「私にもよくわからないんです。ただ一つだけ言えるのは……私は騙されたんです」

 

 そしてアイリスは話す。なぜ自分が魔女だとバレこうなったのかを。なにが起こったのかを

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