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蠢く炎

 どうしてこんなことになったんだろう。

 なぜ自分は、こんな目に遇わなければならないのだろうか。

 目の前にある光景が真実だと、少女は信じたくなかった。

 

「いやっ……やだ、助けてっ……!」

 

 少女は震えた声で叫ぶ。

 だが、誰も助けようとはしない。その声に答える者は誰ひとりとしていない。目の前には彼女のことを見ている人々がたくさんいるというのに。いや、むしろ彼女がこう泣き叫ぶことを彼らは望み、喜んでいるとさえ感じられる。


 今、少女の足元には無数の藁と薪がばら撒かれている。身体は紐で、後ろにある固定された丸太できつく縛られ身動きがとれない。

 彼女、アイリス・フルテミアは今にも火炙りにされ処刑される状況にあった。どうしてこんな事になったかといえば、彼女が自分が魔女だと言うことを人々に知られてしまったからである。

 

 

 魔女

 

 それは人間と悪魔の血を持ち魔術を使う存在。この世で最も凶悪で、最も恐ろしい存在である悪魔に対抗すべく、魔女の祖ウィッカによって産み出された者たち。

 

 魔女は魔術を使って悪魔と戦い300年前、魔女と悪魔による戦争、ヴァルプルギスの夜が起こる。その戦争で当時、悪魔たちを統べていた大悪魔サタンが後に、伝説の大魔女と呼ばれる四人の大魔女たちによって打ち倒され徐々に世界に平和が訪れようとしていた。

 

 しかし人間たちは悪魔の血を持つ魔女たちを恐れた。それから人々は魔女を悪魔と見なし魔女を殺すために魔女狩りが行われるようになった。

 

 アイリスはその魔女狩りの被害にあり今、この状況に陥っているのである。元々アイリスは人間には見れないよう魔術が施された魔女都市に住んでいた。

 

 アイリスは十六歳になり成人し、人間のいる街に憧れ故郷から出た。思えばそれが間違いだったのかもしれない。故郷を離れなければこんな事にはならなかっただろう。

 

 でもアイリスは見たかったのだ。知りたかったのだ。

 

 自分の知らない光景を

 人間の暮らしを

 欲を言えば、素敵な男性に出会い恋をして結婚したいなんて思ったり

 

 それはもう叶えることの出来ない事

 贅沢な願い

 今はたった一つ

 この状況を変わることを願う

 

 だが現実というものは非情で、残酷で、願ったところで状況が変わるわけではない。

 周囲からは早く殺せなどの罵倒、石を投げつけてくる人までいる。人々にとって魔女狩りとは、娯楽の一部でしかないのだ。

 そして嬉々として、火が付いたたいまつを持ってこちらに近づいてくる人物がいる。ああ、自分はあの炎に焼かれて死ぬんだとアイリスは思う。

 その炎はゆらゆらと動いている。まるで今からアイリスが死ぬことを笑っているかのように。

 

 恐怖が

 絶望が

 後悔が

 アイリスの中で蠢く

 

 アイリスはぎゅっと目を瞑る。せめて火が燃え移り自分の身体に近づいてくる光景を見ないように。

 たいまつの火が足元の藁と薪に燃え移るかのような音がする。炎の燃える音は勢いを増す。

 アイリスは血の気が引き、冷や汗が出る。死の瞬間が近づいてきてると実感する。

 

 するとふわっと誰かに抱きかかれているような感触を感じる。もう自分の意識は天に召されたのだろうか。苦しまずに済んで良かったのかもしれない。最後の最後で救われたとアイリスはそう感じた。

 

 もし、生まれ変われることが出来るとしたら、次は人間の少女となり普通に暮らしたい。そんなことを思う。

 

 ふと目を開ける。一体今自分は、どうなってどこにいるんだろう。

 

「え……」

 

 その光景を見たアイリスは驚愕する。目の前にはなんと炎に呑まれ体黒く焼け焦げた自分の姿があった。

 アイリスは戸惑う。これはどういうことなのか。

 死んだことで魂が肉体から離れこう見えるのか。死後、生き物は輪廻転生により別の生き物に生まれ変わると言われているが、真実はわからない。死んだ先のことなんて死んだ人間しかわからないのだから。

 

「大丈夫、あなたは死んでないよ」

 

 この問いに答えるかのように、一人の少女の声がする。アイリスはその声の人物がいる方へ向く。

 

 髪は肩にかかるくらいの長さ。全体が薄く黄色く、髪の毛の先端とつむじの辺りが黒みがかっているのが特徴的。そして瞳も紫と黄色が混ざり合った、不思議な色をしている少女だった。

 

「さ、行くよ」

 

 少女はアイリスに手を差しのべる。アイリスは何が起きているのか、状況が上手く飲み込めず理解に苦しむ。

 

「行くってどこへ……?」 

「そんなの決まってるでしょ。逃げるのよ」

 

 少女はそう言ってアイリスの手を取り、そのまま走り出す。少女に引っ張られるように走りながらも、アイリスは自分がいた場所の方を見る。そこに出来ていた人だかりは、こちらへは一切気付かず、アイリスであったものの姿を見続けていた

 そこに自分はいないのに彼らはそれを自分だと錯覚している。それは凄く不思議で奇妙な感じだった。


 そしてこれがアイリスと彼女の出会いであった。

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