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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

怖いひとたち

結婚式に彼の元カノが乱入してきた

作者: 鈴本耕太郎
掲載日:2017/02/28

 この日をどんなに待ち望んだ事だろう。

 この時をどれだけ夢見てきた事だろう。


 目の前にあるバージンロード。

 その先では大好きな彼が、いつも通りの笑みを浮かべながら私を待っている。

 これからが本番だというのに、すでに私は涙を堪えるのに必死になっていた。

 そんな私を隣に立つ父が笑う。

「化粧が取れるぞ」

 からかうような言葉なのに、いつもと違う涙声。

 見上げれば、確かにその目は潤んでいて、まるで血のつながった本当の親子になったような気がした。

 それがなんだか嬉しいような、寂しいような。

 私はいつものような憎まれ口を返す余裕がなくて、ただ素直に頷いた。

「ねぇ」

「どうした?」

「今までありがとう。お父さん……」

 溢れ出た気持ちが自然と言葉に変わり、初めて『お父さん』と呼ぶ事が出来たのだった。


 夢にまで見たバージンロードは、まるで雲の上を歩いているようだった。

 フワフワとした感覚は、きっと私が緊張しているせいだろう。

 そしてようやく辿り着いた彼の隣。

 私を見つめる彼は、いつも通りのクールな笑顔。

 その表情には、緊張どころか余裕さえ感じられて、なんだか悔しい。


 そして誓約を終えて、待ちに待った指輪の交換。

 ずっと憧れていた。

 これで私は……。


 突然響いた大きな音。


 振り返ると開かれた扉の前に、化け物が立っていた。

 グシャグシャの髪の毛に焼け爛れたような醜い顔。その手に握られているのは包丁だろうか。

 ギョロリと動いた目が私を睨みつけた。


 ――殺される。

 

 そう思った。

 だって、あの化け物は彼の元カノだから。

 逃げようとして、腰が抜けた。

 必死にもがいても、ちっとも進まない。


 そんな私を嘲笑うかのようにあの女が、ゆっくりと歩いてくる。

「だれかたすけて……」

 私の掠れた声がチャペルに響く。

 しかし、その異常な光景に誰も動けないようだった。

 

 その歩みは最初こそゆっくりだったが、徐々にスピードを上げて、しまいには鬼の形相で突っ込んできた。

 もう終わりだ。

 そう思った時、彼が私を呼ぶ声が聞こえた。

「サキ……」

 その声は今まで聞いた事がない程、優しい響きをしていた。


 彼は、私との間に割って入り、その身に凶刃を受けた。



 






 気が付けば、病院のベッドの上だった。

 どうやらあの時、私はあまりのショックで気を失ってしまったようだ。

 目が覚めた私に、両親は優しい言葉をかけてくれた。でも私は誰とも話をしたくなくて、我がままを言って一人にして貰った。

 ぼんやりと窓の外に目をやれば、早咲きの桜が満開になっていた。

「一緒に見たかったな……」

 そんな言葉と共に涙がこぼれた。

 どうしてこんな事になってしまったのだろうか。


 結局、彼は助からなかった。


 そしてあの女も……。

 彼を殺した後で、自殺をしてしまったのだ。


 あの時、私の代わりに刺された彼は、あの女を抱きしめて耳元で囁いた。

 すぐ近くにいた私には、その声が確かに聞こえた。

『ずっと気付けなくてごめん。でも俺は、今でもサキを愛してる』

 その言葉が今も耳に残っている。

 驚くほど優しい声だった。


 あんな言葉聞きたくなかった。

 愛してるなんて、私には一度も言って貰えなかった。


 どうして……。


 どうして、私はあの女に負けたのだろうか。


 どうして、彼を取り返されてしまったのだろうか。


 どうして、あの女は生きていたのだろうか。

 

 どうして、彼は気付いてしまったのだろうか。


 どうして、私があの女に成り代わっていた事がバレたのだろうか。


 完璧だったはずなのに。

 顔も、体型も、声も、喋り方も、癖も、何もかもをあの女と同じにしたのに。

 あの女の代わりに、私が彼と結婚して、幸せになれるはずだったのに。

 何もかも、全部あの女のせいだ……。


 あの時、殴り倒したあの女の顔に火を付けた後、しっかりと死ぬのを見届けるべきだった。

 自分の詰めの甘さが嫌になる。

 

 もう少しだったのに。

 もう少しで彼を、幸せを、全てを手に入れる事ができたのに……。

 そう思うと、あまりにもやるせなくて。

 悔しくて、悔しくて。


 私は声をあげて泣いた。








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― 新着の感想 ―
[良い点] これはいい主人公ざまぁ [気になる点] 彼と彼女らの恋物語が気になった [一言] 短いのにしっかりオチを付けてるし読んだらびっくり! 面白いショートショートでした
[良い点] 感想みてやっとしんじつがわかった。 すごい 恐ろしい
[一言] 初めて『お父さん』と呼ぶことができた……。 うん、真相わかった後だと ((( ;゜Д゜))) コエーヨ しかし、新郎はその場で気がついて、彼女を救えなかった贖罪に自分の命を捧げたってこ…
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