8話 接触
オフ会当日。天候は雨。
建物の入り口でイベント整理券を貰う。83番と掛かれた厚めのカード。
会場はバレーボールコートが三面とれる広い体育館だった。
見慣れない機械が数段置いてあり稼動している。
HMDを着用して会場をうろうろする。
親友は居ない。
そして、後ろから不意に声がかかる。
「子供か、また会ったな。今度こそ技能を貰うぞ。」
聞いたことのある低い声。とっさに散弾銃を構えて距離をとる。銃を構えあう二人。
スクリームの面を着けているが、多分バラモスだろう。
「地獄蟻は追放されたのではないですか?」
「されたさ。だが、俺はここにいる。何故だと思う?」
表情は読めないが、ニヤニヤしている気がした。
「開発者に悪友が居るのさ。追放者一覧と端末情報を改竄できる奴がな。」
自慢話の様に話し出す。
強行改竄か。しかも、最高機密なアカウントを改竄クラスの。
「せっかくだ。そいつから聞いた残念な話も聞かせてやろう。
キャラクターを作る特殊操作は無効化された。新しくデバッグ用にキャラクターが産み出されることはない。」
明らかな敵意を含んで声が大きくなる。
「最強に位置する特殊操作キャラクターはもう作れん!なら力ずくでその端末を奪うのみだ!」
バラモスはポケットに手を入れて、何かを取り出した。
「お、おい。ナイフを出している男がいるぞ。取り押さえろ!」
会場はざわついた。数人のプレイヤーが後ろからバラモスを押さえる。
誰かが呼びに行った会場の警備員が現れ、バラモスのボディチェックを行い危険物を押収していく。ポケットからジャックナイフ、腰からはアイスピック。
警備員はなれた手つきでロープでバラモスの手を縛る。
「待っていろ。俺はお前を殺す。」
そう言い残して、警備室に連れて行かれるバラモス。
会場アナウンスが流れ、司会も現れたが騒動で落ち着く事はない。
「はーい、皆さん、こんにちは〜。」
「本日進行を務めます、Gamer's connection専属、ひらがなのキャラクター名『さくらこ』で各種ゲームを体験録記者している坂野 櫻子です。」
どよめきが起こる。
他MMOで大型討伐で、対象外の敵を引きつけるとか、この『LO』でも友軍誤射致死射撃や、投げた手榴弾が明後日の方向で爆発する手榴弾乱投地獄などなど数々の事件を起こす有迷人『殺戮者さくらこ』本人。
「あー、あのさくらこね。」
「問題児キター。」
「ナイフ男も仕込みですかー。」
がっかりした野次が飛ぶ。
気にせず進める坂野さん。
「聞こえなーい。それでは、本日のゲストを紹介します。
World Lost World Order開発者の一人、チーフプログラマーの三島 和郎さん。あの、『サブロウ』本人です。」
おおーと歓声と拍手が上がった。
マイクを手に取る三島氏。
「初めまして。World Lost World Orderは楽しいでしょうか?」
呼びかけに拍手で応えるプレイヤー。
「まだまだ実装したい仕組み、構想が沢山ありますが、先ずは僕から皆さんへプレゼントを用意しました。入場整理券を手首端末にかざしてください。」
吹き矢設計図、特製吹き矢弾の入手と画面にでる。
「おい、弾に必中効果が付いてるぞ」
誰かが叫んだ。
再び歓声とどよめきが起こる。
「喜んで貰えると、何よりです。」
そう言うと、マイクを下ろした。
「あと、もう一人紹介します。全技能枠レジェンドプレイヤー、『まるちーず』さん。」
羨まし過ぎる為か、あんまり反応はない。乾いた拍手が起こる。
「と、ゲスト紹介が終わったところで、World Lost World Order β2 公式オフ会の始まりです。」
『サブロウ』さんの人気は凄かった。一時間以上の行列が出来、生産系上位技能の『改造偏狭者』が欲しいプレイヤーがこぞって吹き矢を飛ばしていた。
『まるちーず』さんも『サブロウ』さんの行列に並んでいる。
そして、俺にも人集りができていた。
「子供兵って、珍しいよね。」
「技能コピーさせてもらってもいいですか?」
「その散弾銃はどうやってできるのですか?」
大半は質問。そして、その多くが一方的。俺の質問は受け付けられない。
「この男だけ、吹き矢も当たらない。なんでだ?」
質問する以前に吹き矢を飛ばしてきたプレイヤーがキレ気味に突っかかる。
「ほほー。興味深い。手を貸そうか。」
「いやいや、偶然でしょ?」
「武器を出すか?」
『サブロウ』さんとの接触を終えた一回り集団の輪が大きなり、逃げ場が無くなる。
その人混みを掻き分けて、さくらこが現れた。
「私も噂で聞いたのですが、もしかして『地獄蟻』に関わった人ですか?」
そう言うと、何かを手渡された。
視線を落とす。
『非安全状態投擲武器を取得しました』と表示が出た。
この人安全ピンを抜いた手榴弾を挨拶に使ったよ。
「初対面で手榴弾手渡しは、喧嘩うってます?」
「さすがさくらこ。まわりの被害を考えないな。」
さくらこから距離をとるように、輪が広がる。
「PvPでもしますか?私そこそこ腕が立ちますよ?」
「いやー、遠慮します。って、通じてませんね。」
拳銃に右手をかけるさくらこ。左手にはピンの抜いた手榴弾。
輪は更に広くなる。
仕方なく、弓を手にする。
「へぇ。弓がメインなんだ。」
「弓もナメない方がいいですよ?」
「さくらこがPvPすっぞ。」
野次が飛び、突然の出来事に盛り上がる。
誰かがコインを投げた。かなりの高さ。
こん。
手榴弾を転がし横に動くさくらこ。
爆発はない。
野次馬が騒ぎだす。
「何故、爆ぜない?」
「知る訳ないだろ!」
一気に前に出て距離を詰める。
そして、お互いの顔に武器を付けあう。
「こっちが早いと思うけど。」
「俺には銃は効きません。」
かちりと銃が鳴く。トリガーが何かに引っかかった。
「うそ?」
「では、遠慮なく。」
額を射抜く。命中。
身体を転がし距離をとるさくらこ。
「もう一射、必要ですか?」
次の矢をつがえ、なだめてみる。
「あまちゃんね。沈黙させるからPvPは楽しいの。」
銃弾詰まりの対処手順でコッキングするさくらこ。
威嚇で足を射るが避けられる。
「ここから私の反撃。」
再び銃はかちりと鳴くだけだった。
連続してトリガーを引くが、変わらず弾は飛び出さない。
「うそよ、うそ。こんな戦闘ありえない。」
泣きそうな声を上げるさくらこ。
集中力の切れた彼女は動きを鈍らせていた。
ただ闇雲に動く彼女に近づき数射する。
「確率的に、銃が連続して詰まるのは99%ありえない。」
再度顔を狙う。
「それでも現実はどうですか?」
矢は顔の横をかすめる。
「ひっ!」
「起きている事をどう説明しますか?」
彼女の動きが止まった。
次の矢は口を射抜いた。
「リアルじゃなくて、お互いに良かったですね。」
動かない坂野 櫻子に手を差し出す。
「マジか!さくらこが手玉にとられたぞ。」
「手榴弾も不発するのか?」
ざわざわと野次馬は目の当たりにした戦闘を表現しだす。
「彼が持つ技能は空間支配系、多分武器無効化でしょう。」
いつの間にかマイクを持つ『サブロウ』氏。
「強力な分、制限としてほとんどの武器。主に銃器、手榴弾、地雷等の罠が使えません。」
一気にざわめく。
「僕もこの技能は初めて見ましたが、上手く使いこなす最強プレイヤーと言えるではないでしょうか。」
技能の一部とは言え、公開された。
とはいえ、この場所でPvPを挑む人は居ないだろう。
「対策として、接近武器を早く実装しないといけませんね。プレイヤー名を伺ってもいいですか?」
「レプラコーン。神話に出てくる悪戯妖精のひとつ、レプラコーン。」
更にざわめくプレイヤー達。
そう。生産情報を掲示板に投稿した最初のプレイヤー。そして、現時点での最強。
目立ちたくなかったオフ会は、俺を中心に動くことになる。
技能異常者、改造者、どちらもチートなのでしょうが、イメージが全然違います。