4話 遭遇戦
無事退院の後は、NPCのみの資金稼ぎが主体となる。それでもNPCの出現率はそんなに高くないので不満だが。今後の調整次第だろう。
そんな中、親友は『精神的安定』を忘却し、新たな技能『混沌的一撃』を手に入れた。と、community messageから送ってきた。
どうやら精神衰弱は脱したらしい。
世の中でも、ARが徐々に普及し始めた事もあり、プレイヤーの数は増えていた。これは、基本セットが比較的割安でレンタル出来るようになったおかげである。
そうなると、街中で他のプレイヤーと出会うこともよく有る光景となった。
ある日の事、『サブロウ』を探す集団に出会う。
その一人、長身の見知らぬプレイヤーが声をかける。
「そこの特殊プレイヤー、お前は『サブロウ』の仲間か?」
入院前には表示されていた名前も、今は目の前のプレイヤーの名も表示されない。
「もう一度聞く。お前は『サブロウ』の関係者か?」
「非礼な他人は相手にされないのはMMOの常識では?」
その言葉に一斉にに銃器を構える集団。
「どうやら知らないらしい。詫びついでに教えてやる。β2からはHMDの画面表示負荷を減らす為に、キャラクター名は表示されなくなった。
それ故に、確認方法は『至近距離の音声』か、『接触のあった人としか遠距離会話が残せないコミニュティ』の二種類しかない。」
集団の副リーダーと思わしき別の人物が集団に銃器を下ろさせる。
「もし、『サブロウ』と接触出来れば、俺達にも教えて欲しい。
俺達は目的協力型組織 地獄蟻。リーダーの『バラモス』だ。」
質問した男は手を差し出す。こいつ、痛い奴だ。
だがその場を乱し、集団の中のある男が叫んだ。
「こいつ、初期型端末っす。子供型は初見、特殊操作者かもしれません。」
慌てて全ての銃口がこちらを向く。
「そうか。その可能性もあるのか。非公開技能持ちなら情報を獲るのも悪くない。この近くなら、寺か。連れてこい。」
現実には目まで隠れるヘルメット姿の集団。端から見ても充分怪しい集団であり、目立っている。警察に誰かが通報し大事になるのも面倒だと考えたのだろう。
約十分ほど歩いただろうか。こじんまりしたお寺に着く。土地勘が有るのだろう。
「ここなら影響は少ない。戦闘情報収集開始。」
『LO』はサバイバル戦、特に銃撃戦を華としている。その場にいる地獄蟻のメンバーは少し距離を取り火器を構える。
トリガーを引けば、火を噴く・・・ハズだった。
カチッと言う音はなるものの場は静かなものだった。
「こんな時に装填不良かよ!」
集団に苛立ちが見られた。短時間で終わるはずだと高をくくっていたのだろう。
一発目の安全は確保された。どれだけ回避修正が高いと言えども完全に避けられるとは言い難い。
包囲を潜り抜け、安全そうな本堂裏へと走り出す。
「奴は超軽装備だ。こちらの攻撃を当てたら技能辞書が補完されるぞ。」
大声で叫ぶ副リーダー。相手は集団戦闘に慣れている。
そしてその大声は、敷地無いに響いた。
障害の多い墓地は隠れやすいが、多勢に無勢で徐々に詰まってくる。
だが、戦場で焦る者に女神は微笑まない。再び装填不良が次々と起こる。俺も矢を射るが致死に至らない。
「たかがゲームだ。キャラクターは死んでも俺達は死なん。」
そう言うと、リーダーは手榴弾のピンを引き抜き投擲した。
「総員、伏せろ!」
カッカッと墓石に当たった後、転がる手榴弾は俺の足元にある。
爆破する事はない。
それを拾うと『非安全状態投擲武器を取得しました』と表示が出た。
手榴弾も不発。
派手な爆発音も無い状態に戦略を変更してきた。
「総員、対象捕縛」
射撃を諦め墓石の隙間を縫うようにさら詰めてくる集団。
逃げ場を失い、腕が捕まってしまった。
「手間をかけさせやがって。クソ野郎。」
リーダーはペッと唾を吐き、距離をさらに詰める。
その様子を見ていた人影に気がつく。
何故か数名の警察と少し離れた所から住職と思われる人。
「私有地で騒ぐ者が居ると通報があった。君達だな?」
不意を点かれ、慌てて蜘蛛の子を撒き散らす様に逃げ出す地獄蟻メンバー。
数人が取り押さえられ連行されていく。
当然ながら、俺にも事情聴取がある。
HMD を脱着し説明すると、
「すると、絡まれただけなんだな?」
警察官が念を押す。
「ゲーム上反撃はしていますが、物理的には手を出してません。」
「ややこしいな。相手に暴力はしていないんだな?」
「ええ。」
住所と氏名、連絡先を調書に記入して終わりとなった。
お寺の方にも頭を下げた。大声で騒いで、墓地で暴れる集団は不謹慎だと説教頂く。
墓地での一部始終を見ておられたみたいで、警察官の現場検証に立ち会って証言されている。
HMDを着用すると、community messageにメッセージが届いていた。
「我々 地獄蟻は、どんな手段を使ってでも死の縁まで追い詰める。覚悟しておけ。」
嫌な不安を残し、犯罪も辞さない集団とどう戦うか思案する。
戦いは既に始まっていた。