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徒花の少女  作者: 野良丸
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終わり ーウブゴエー


 私の世界が大きく変わっても、この世界にとってはちっぽけな変化でしかない。

 あれから一週間。

 扇野支部には相変わらず出撃要請とクレームの着信音が響いている。

 死ぬ寸前だった茅野さん(と、多分私の精神面)を考慮して、梅長班は昨日まで休養となっていた。

 そして今日。久し振りの任務。相手は二足歩行タイプの中型カフカだった。普通に討伐して、ただいまワゴン車に乗って支部へ帰還中。あ、そういえば能力が発動しなくなっていたけど、まぁそれは予想通りというかなんていうか。

 隣には茅野さんが座っている。彼女もまた、以前と変わった様子はない。胸を貫かれて死ななかった理由は、とても簡単なことだった。

 そこに核がないから。

 どういうわけか、茅野さんの核はお腹の辺りにあるらしい。これは私と茅野さんと隊長、それから一部職員しか知らないことらしい。なんで茅野さんだけ? と訊いたけど、不明だ、とだけ返された。でも茅野さんの様子から何か隠しているような気がしないでもない。

 まぁ、どうでもいいけど。

 帰還後、隊長に報告。

 終了後に部屋を出ようとしたら呼び止められた。私と茅野さんだけ。梅長さんはハブ。

「先程君のお父さんから連絡があってな。少し話をさせてもらった」

 多分いつもの報告だろう、と察する。

「お母さんーー川那子紗友理さんのお墓参りに来てほしいと言っていた」

「私に?」

「あぁ」

 お墓参りには行ったことがなかった。少し前まで引きこもってたし、それからは部隊での仕事が忙しくてーーーーなんていうのは言い訳にならない。ただ、行かなかっただけ。最期が最期だったから、お母さんも私の顔なんか見たくないんじゃないかと思っていたし、今も少し思っている。

 でも、行ってもいいかもしれない。それで謝ろう。ミキが私のために腐ってしまったこと。そんなミキをこの手で殺したこと。

 そしたら。

 もう、全部終わりでいい気がする。




 その場で行くことを決めると、隊長が『送ってやる』と言った。

 軽バンに乗って(隊長の厳つい自家用車は二人乗り)支部を出てから一時間ほどでその場所についた。

 長い坂の上にある霊園。川那子家のお墓はそこにある。

 隊長は雪が降り始めたし寒いからという理由で車で待っているらしい。その時には既に降車していた茅野さんは自分もそうすべきかとちょっと狼狽えていたけど、私が付いてきて欲しいと言った。茅野さんが嬉しそうな表情をしたのは一瞬だけだった。

 ずらりと並ぶ墓石。霊園の隅には雪がかためられていた。三日前に少し積もったものだろう。

 川那子家のお墓は記憶通りの場所にあった。墓石はピカピカで、花立の花もまだ新しい。昨日は日曜日だし、お父さんが来たのだろう。

 茅野さんは少し離れた場所で足を止めた。

 買ってきた花束から数本を抜いて花立に挿せるだけ挿す。残りは墓石の前に置いた。

 マッチを擦って蝋燭に火を灯し、その火を移した線香を供える。

 合掌。さっき考えていたように、ミキのことを謝った。許してくれるかは分からないけど。

 これで、本当に終わり。

 ミキの顔が浮かんで消えていく。

 それでいい。

 目を開けて、持ってきた花束を手にとって立ち上がった。

 踵を返す。

 不安げな茅野さんと目が合った。

 付いてきて欲しいと言ったのは腐化してしまった時のため。そう思っているのかもしれない。

「茅野さん」

 彼女の前まで歩いて、出来るだけ優しく呼び掛けた。返事はない。ただ揺れる赤い瞳が見上げてくるだけ。

 安心させたくて、笑ってみようとしたけど、何故か涙が溢れてきた。ぼやけた視界の中で茅野さんは慌てた様子でポケットからハンカチを取り出し、私の涙をそっと拭った。

「ごめんね」と、気付けば口にしていた。茅野さんは首を横に振った。でもそうじゃない。私が謝りたいのは、これから口にする、すごく自分勝手なことに対してだ。

 ずっと一緒にいてほしいわけじゃない。私のことを嫌ったっていい。

「あなたを、私が戦う理由にーーーー生きる理由にしていい?」

 生きて欲しいと思った。

 こんな世界で。

 幸せに。

 ミキの代わりに、ではなく。なんて言い切れる程の自信はないけど、でも、そう思った。確かに思っている。

 返事はなかった。

 涙を拭ってくれていた手も止まった。

 自分の手で涙を拭って前を見る。

 茅野さんは私を見たまま動きを止めていた。ミキそっくりの大きな目を見開いて。小さな口を少しだけ開けて。

 その頬を涙が伝った。

 彼女は泣いていた。いや、彼女、も。

 ポケットからハンカチを取り出そうとは思わなかった。

 その背中に手を回して、そっと抱き寄せる。

 そうすべきだと思った? ううん、違う。私がそうしたかっただけだ。

 私の背中に手が回されて、耳元の嗚咽が少しずつ大きくなって、そのうちわんわんと子供のように泣き出した。

 茅野さんも。

 私も。

 雪の中で。

 心を溶かすみたいに。


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