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徒花の少女  作者: 野良丸
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徒花 ーツカイステー 5


 その後、五人がかりで中型カフカを仕留め、それから五分後には戸舞さん達の方も片がついた。といっても彼女達は大型を討伐したわけではない。限界まで疲弊させ、手足を切断した後、吸花の二人を呼んで大型を人に戻すよう頼むほどの余裕を見せた。

 逆井さんと三星さんはカフカに手を当てて吸収を開始した。身体からヘドロが流れ落ち、蒸発していく。順調にいけば徐々に人の形へと戻るはず。カフカの身体の上には、剥き出しになった核に無表情のまま刀の切っ先を突き付けている紋水寺さんの姿がある。吸収中にカフカが動き出した場合、その切っ先は容赦なく核を砕くであろう。

 そんな三人の様子を、戦闘中と変わらない笑顔で見ている戸舞さん。近付くと、すぐに気付いてこちらに顔を向けた。

「大変でしたねっ」

「うん。かなり危ないところだったから助かった。ありがと」

「いえいえー」

 軽く頭を下げると、戸舞さんは両手を後ろにぴんと伸ばして深くお辞儀を返してきた。そんな彼女の後ろを担架に乗せられた天地さんが通過する。それを目で追って競技場の入り口に顔を向けると、扉の影から五人の大人が顔を覗かせていた。

「ごめんなさい、テレビ局の人がついてきちゃって」

 戸舞さんは困ったように笑いながら頭をかく。

「そういえばテレビの収録って……」

「はい。そうしたらカフカ出現のニュースが入ってきて、それだけならよかったんだけど大型が出て徒花が倒されちゃったって聞いたらそのまま収録に参加してるわけにもいかないし……。ほら、何が原因でバッシングを受けるか分からないから」

「応援要請があったわけじゃないの?」

 それは少しまずいんじゃ。

「うん。あ、でもここに来る途中、隊長に連絡して許可とったから大丈夫です!」

「そう」

「まぁ駄目って言われても来ましたけど!」

 何故か胸を張る戸舞さん。身体は小さいくせに胸は……ていうか私より……あ、詰めてるのかな。テレビ収録だったわけだし、ちょっと見栄張って。

「真奈ちゃんがいるって聞いたら、余計に来ないわけにはいかないし!」

 友達思いはいいことだけど、更に胸を張るのはやめてもらいたい。

 徒花には容姿の整った人が多いことから分かるように、私達は成長するにつれ、それぞれ理想とする容姿に近付くものだとされている。もちろん、ベースとしてある自らの顔を全く別のものに変えることはーーーー腐化、再生で出来ることは出来るが、それは自らの否定、自分自身を見失い、腐化に繋がるとされている。頭を腐化させるという行為すら人の意識を保つために極力避けるようになっているのだから、作り替えるなどとんでもないことだ。

 まぁそういった変化を生むのは、程度の差はあれ誰もが抱いているであろう『美しくありたい』という思いなわけだから、無気力引きこもりニートだった私には効果がなかったようだ。でもどうせ膨らむならもうちょっと頑張ってくれても……。

 ふと、離れた場所で銀山さん達と話をしている霧崎麗に顔を向けた。視線はいつもより少し下。徒花になった以上、血縁関係があるとはもう言えないのかもしれないけど、それでも親の影響というものはあるのだろう。親よりも成長した自分を想像できる子供は少ないだろうし。

「サラさん? どうしたの?」

「なんでもない」

 首を横に振りながら答えたとき、

『戸舞班に入ったら使い捨てにされる』

 不意に、そんな言葉が頭のなかで再生された。

 最前線で戦う戦花や双花の影に隠れ気味だが、吸花の殉職率は決して低くない。同じ班で四人の吸花が殉職しても、三年という期間を考えればさほど気にならない程度には。

 それでも何か特別な理由があってのことだと考えるのなら、怪しむべきは戸舞さんよりもーーーー。

 紋水寺さん達に顔を向けると、ちょうど吸収が終わったところのようだった。カフカになっていたのは二十歳前後の若い男性。ここに二貝さんがいれば男性の裸を見て思わず顔を逸らす姿が見られたかもしれない。茅野さんのように、吸収を終えると同時に目を丸くして三メートルほど飛び退くほど良い反応をする人はなかなかいないだろうけど。

「イケメンだ!」とテンションが上がっている戸舞さんの横に紋水寺さんが着地した。刀はもう持っていない。

「莉乃、イケメンだよ!」

「うん。でもちょっとひょろい。筋肉以前に脂肪すらついてないなんて不健康的。あと耳にピアスの穴が何個もあいてた。金髪も染め残しがあったし、一見やんちゃしてそうだけどなんか手慣れてなくて、いかにも大学デビューしましたみたいな感じ。アットホームな雰囲気のテニスサークルとか入ってそう」

 なにその厳しすぎるレビュー。ていうか後半は完全に私見と偏見だ。まぁ確かに身体はガリッガリだけど。

「もー。今時そんな人腐るほどいるって」

 一方戸舞さんは寛容だ。紋水寺さんの酷評を笑って流した後、こちらへ歩いてくる逆井さんに手を振った。

「真奈ちゃーん。お疲れ様ー!」

 逆井さんは「うん」と頷いた。その後ろでは、待機していた扇野支部職員が男性を担架に乗せている。そして入り口の方から近付いてくる複数の足音。

「いやぁー、流華ちゃん、莉乃ちゃん、お疲れ!」

 そんな軽い声を発したのは四十代前半の男性だった。薄く緑がかったサングラスを掛けていて、手足は細くお腹だけ出ている典型的メタボリック。その後ろでは別の男の人がカメラを回していた。

 サングラスの男性は上機嫌そうに笑みを浮かべて戸舞さんを見る。

「いい画を撮らせてもらったよぉ。これ夕方のニュースで使っていいかな」

「さぁー。支部に問い合わせてもらわないと、私はなんとも言えないなぁ。でも、多分オーケーもらえると思いますよ!」

「そっかぁ。チェックが間に合えばいいんだけど……。あ、インタビューはいいかな?」

「いいですよー」

「流華」と紋水寺さん。「類家隊長に報告が終わるまで、任務については他言禁止」

「いいじゃない、莉乃ちゃん。どうせ僕ら全部見てたわけだしさ」

「すいません。規則なので」

「えぇー。そんな固いこといわずにさぁ」

「駄目です」

「あはは。小柴さんごめんなさい。報告が終わったら、また」

「でもここまで被害が出てると時間かかるでしょ?」

「うーん。莉乃、どうかな?」

「少なくとも今日中は無理だと思う。今回は死者も多いだけじゃなくて徒花が一人亡くなったり、カフカを人に戻したりしたから事後処理もたくさんある筈。インタビューの許可が出るのは、早くて明後日。遅ければ一週間くらいかかるかも」

「もうその頃には皆忘れちゃってるんだよなァ」とサングラスの男性は頭を掻く。

「うん?」不意にこちらを見てきた男性と目が合った。

「君、確か梅長仁美と組んでる……」

「川那子サラさんですっ」

 戸舞さんが紹介してくれる。

「あぁ、そうそう。サラちゃんサラちゃん。あれ? 今日は吸花の子はいないんだね。ところで、どうかな。また今度、ウチで『正義』の徒花、梅長仁美の特集をしようと企画してるんだけど、君達の班長さんについて話をーーーー」

 その言葉を遮るように梅長さんの声が響いた。私達の名前を一人ずつ呼んでから「集合」と言う。

 小さく会釈をしてから踵を返した。後ろから「じゃあまたね、小柴さーん」という戸舞さんの声。

 集合すると、早速注意された。任務が終わってすぐは、世間話であろうとマスコミの人間とは話すなと。

「私達は急ぎ支部へ戻るよ。私と真奈、猪坂班は隊長へ報告に行く。あぁ、一方的に参戦を告げて電話を切ったらしい二人にも来てもらうよ。隊長が頭に角生やして待ってる」

「えぇー」と戸舞さん。全然ちゃんと許可を取っていなかった。紋水寺さんは表情一つ変えずしれっとしている。

「二貝のご家族には先程連絡したらしい。銀山はその相手をするようにとのことだよ。あぁ、サラも一緒にね」

「私?」

「冷静な第三者がいた方がいいんだ。遺族が取り乱して、何かしようとした時のためにね」

 遺族が銀山さんに危害を加える可能性を示しているのだろうか。

「二貝の家族構成は両親に二人の姉。年の離れた末っ子で、大事にされていたそうだよ。口に出す言葉は慎重にね」



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