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決戦は仲直りの後で

作者: 嫁葉羽華流

「サンダーストームッ!!!」


 俺はバッと右手を掲げて呪文を唱えた。

 途端、狭い室内に稲光が走る。


「ぐわああああ!」「雷属性だ!」「鉄製品を持ってる奴は逃げろォ!」


 蜘蛛の子を散らすように俺をおってきている奴らは逃げ出した。


「今のうちだ! うおおおおおおおお!!」


 俺はこの瞬間に少しでも距離を稼がなければと思い、回れ右して全力で走り出す。AGIすばやさ250の俺様を舐めるなよ!

 凄まじい速さで走りながら(その時に窓がすさまじい勢いで割れていたが気にしない)、俺は逃げ道を探していた。

 すると見覚えのある赤髪が窓から顔を出す。

 無駄にでかい胸がぶるんぶるんと揺れているそいつは、バカみたいに大きな鳥に乗っていた。


「魔王! いたか!」

「当然じゃ! つかまりそうになりおってからに! しかも窓ガラスがバリバリ割れておるではないか!」

「捕まらなかったらお咎めなしだからいいんだよ!」

「ドアホウが! 風呂に入るわしがあぶないんじゃ! 窓ガラスの破片が風呂場に沈んでた経験がわからんのか貴様は!」

「テメー自動回復があるだろうが! 今更窓ガラスを5,60枚割ったところでギャーギャー言うな!」

「ギャーギャー言うなとはなんじゃ! 乙女の体が傷つけば洒落にならんのだ!」

「幼児体型でお化け胸のくせしてなにいけしゃあしゃあと言ってるんですかねぇ! このガキはァ!」

「ムッキャー言ったなこの童貞ああああ(ありがち名前)!!」

「テメッ!? 人が気にしていることを大声で言いやがったな!?」

「貴様がわしの豊満な胸に見とれていることはすでに前の世界で承知済みじゃこのドアホウが!!」

身長タッパが足りてねぇからその分お前は魅力がたりないんですぅー! 胸だけ大きけりゃいいもんじゃねぇってのバーカ! お化け胸!!」

「うっさい童貞ああああ(ありがち名前)!!」


 気づけば俺たちはその場で言い争っていた。

 後ろからはたくさんのあいつらが追いかけてきている。

 よく見ると窓の外からも鳥や飛んできているやつがいるのがわかった。


「てんめ!? 人のこといえねーじゃねぇか! お前も追っかけられてるじゃん?!」

「うっさいわハゲ! 童貞!! 貴様とてあんな大量の勇者に追いかけられおって! あの中には陸上部までおるではないか!」

「鷹狩り同好会がそっちにいるじゃねぇかダァホ! あ! お前まさかその鳥鷹狩り同好会から取ってきたな!?」

「お主とて『はやぶさの靴』持っておるではないか! AGIすばやさがどう考えても前は125くらいじゃったじゃろ!」

「あーもうっ! 逃げるぞ今はぁぁぁぁああ!!」


 前略、おふくろ様。

 世界の危機をなんやかんやあって救った俺は今、

 魔王と一緒に学校で登下校しています。


※――――


 事の起こりは数週間前。

 俺が魔王の城でこのちびすけ魔王(おっぱいお化け)に戦いを挑んでいた時に起こった。

 HPのバーがもう残り1ドットってレベルまで減った時にあのクソ魔王が「暗黒太陽ブラックホール」とかわけのわからない魔法を使ってきたため、俺はためらわずに「聖なるバリアホワイトブレス」を使った。

 そしたら何やら超反応が起きたらしく、この学校に飛ばされていた。

 何を言っているのかわからねーと思う。安心しろ。俺だって分からない。

 今まで戦っていた仲間もなくて、俺の近くには鍛え込んだ最強装備とチビ魔王(おっぱいお化け)がいた。

 戦おうとしたら急に生徒会長とかいうやつが乗り込んできて、なんやかんやあって入学させられた。


「君たちは、魔王ムリエルと勇者ああああですね。ようこそ、勇魔高校へ」

「あぁ!? 誰だこの眼鏡!? ちっと黙ってろ! このクソガキぶっ潰す!」

「にゃぁにをぬかしおるかこのクソ童貞勇者! 貴様こそ息の根止めてやる!」


 俺たちが今まさに戦おうとしたとき、俺たちは自分たちに起こっている異常に気づいた。

――魔法が、出ない。

――ついでに力も出てこない。


「なっ……ど、どうなってんだ……!?」

「おいコラお主! 我らの魔力やステータスをどうした?! 全てが「1」になっておるぞ!?」

「一時的に話を聞いてもらうように、低下をさせていただきました」


 眼鏡生徒会長は眼鏡を上げると、俺たちに説明を始めた。


1.ここには俺たちのように勇者と魔王が通っている。

2.ここに連れてこられたのはそれぞれに問題行動があった勇者と魔王である。そのため、更正されて正しい魔王と勇者になるまで帰れない。

3.この世界にいる限り、更正されずに元の世界に戻ることは決してない。


「――生徒会長である私と、理事長を倒さない限りは」

「はっ! じゃあてめーをぶっ飛ばせば済む話じゃねーか!」

「落ち着け単細胞童貞! 今のわしらは全ステータスが1じゃぞ!? 一発でも殴れば貴様教会送りじゃ! わしは邪教の神殿送りになるがの!」

「てめーにも復活システムあるのかよ?! 『何度倒されても蘇るシステム』ってそれだったのか!?」

「うっさい! 最近はキサマらの方も多様化してきているからわしが独自に編み出したシステムじゃ!」

「ん? でも待てよ、だとしたらここで俺らが死ねば教会送りになるんじゃね?」

「おお! 少しは頭を使うか! 童貞勇者! よし、ならば早速――」

「ちなみに、死んだとしても復活しませんのでご注意を」

「!?」「!?」


 眼鏡生徒会長がまたしてもメガネをくいっと上げて言った。


「て、テメェ!? デタラメ言ってるんじゃねーだろうな!? 普通死んだら教会送りだろ!」

「それはあなたたちの世界のルール。この世界で死んだ場合、元の世界へ魂が帰ることはなく、永遠に狭間の世界で彷徨うことになります」


 それでもよろしければどうぞ、みたいな笑顔で言ってきた。

 ……悔しいことにこいつ、嘘をついていない。

 俺だって一応魔王の城までたどり着いた一角の勇者だし、嘘もホントも見てきたし味わってきた。

 だからこそこいつが嘘をついていないことを証明しているんだ。

 全ステータス「1」にしたりするとか、そういうのは「神」くらいにしかできないことも。

 つまるところ、こいつは『神』クラスのやばいヤツだってことだ。

 このチビすけ(おっぱいお化け)もそれを分かっているのか、なんかピーマン食った時の顔みたいになってるし。

 そんなわけで俺達はおとなしくこのクソメガネ生徒会長様に従わざるを得ないのだった。


※――――


「っだはー。帰ってきたわ。しんどい」

「づかれだー。じぬー」


 ぜーぜこぜーぜこ息を切らしながら俺たちはなんとか3LDKのアパート一室に帰ってきた。

 何? けっこういいとこ住んでるじゃないかって? いやいや、コノ部屋は俺達が住んでいるのではなく……。


「お疲れ様でした。魔王ムリエル。そして勇者ああああ」


 にっこりとした顔で俺たちをエプロン姿で迎えてくれたのはあのクソメガネ生徒会長、シオンだった。

 そう。ここはこいつの部屋である。

 なんでも更正される魔王と勇者は同じ部屋で共同生活を行い、それを監視するべく第三者の介入・・・所謂『生徒会』の一人が一緒に暮らすことになっているらしい。

 正直こんなことしてないでとっとと魔王とこのクソメガネをぶっとばして元の世界に帰って田舎でのんびりと隠居したいんだが、そんなことも言ってられない状況である。

 というかこいつ……。


「おい、クソメガネ生徒会長」

「なんですか? 勇者あああああ」

「『あ』が一個多い! あとその名前呼ぶな! 何でお前エプロンの下何も着てねぇんだよ!」


 そう。勇者スキルの一つである《千里眼》で軽く見てみたのだが。この生徒会長。エプロンの下は何も着てない。

 エプロンの下は一糸まとわぬ全裸である。

 たわわにある胸(もちろんあの魔王よりかは小さいが)、ほっそりとしたウエスト、すらりと伸びる長い足。顔の造形もいい。まさに美の化身が降りてきたのかといわんばかりの美人で抜群のスタイル。普通だったら飛びついてるのだが、こいつの性格が気に食わない。


「ああ。これですか。これは勇者ああああの部屋のベッドの裏にある風俗本の中にあったものをチョイスしたのですが。お気に召しませんでしたか?」

「お気に召す召さないのやつじゃねぇ! 個人的にはすげーお前スタイルいいし超絶グッド! なんだけどもやめろや! 子ども見てるだろが!!」

「そりゃあわしのことを言っとるのかこの童貞勇者!」

「んだとクソガキャア!? 誰が童貞だ誰が!!」

「そこまでですお二人共」


 ピシャリ、と生徒会長が制す。流石に黙らざるをえない。


「まったく。二人共共同生活がそろそろ1週間になるというのに、まだ言い争っているのですか?」

「うるせぇ! 誰がこいつと仲良くなるってんだ!」

「腹立たしいことにこいつと同意見じゃシオン! このような下賤でありがちでテキトーな名前の勇者と誰が仲良くなんぞなろうか!」

「おう誰が下賤でありがちでテキトーで童貞つったチビクソガキ魔王」

「んん? 喧嘩なら買うぞ童貞ああああ(ありがち名前)


 メンチを切り合いすぐに臨戦態勢。

 俺は手に持っていたかばんを放り投げて剣と盾を召喚する。

 剣は俺がいた世界で二つとない金属で、72の種族の鍛冶師が108の精霊の魔力と洗礼を行いつつ作った聖剣『デュアルカリバー』。盾は俺の親父が残したたったひとつの形見。だがこの盾は実に便利で、投げれば手元に戻ってくるという性質をもっている。

 魔王も鳥を送り出すとかばんを置いて杖とローブを召喚する。こいつ腕力はないくせに魔力がむげんだいとかいう意味不明なステータスを持つ。魔力切れを起こさんわ詠唱を無効にできんわ、さらにはローブの力で並大抵の呪文は軒並みカット。近づいたら魔力で消し炭、遠くからなら雷で打たれるわのひどいヤツである。

 まぁ、俺もレベルすでにカンストしてるし、それにAGIが……あ。


「おう、ちょっとだけ待て」

「ぬ?」


 俺は右手を挙げて『ちょっとタイム』のポーズを取ると、先程まで履いていた『はやぶさの靴』を脱いで、そのへんにあったつっかけ履きに履き替える。


「うし。こいや」

「――はっ。流石勇者と言われるだけはあるな。不当な手段はつかわんか」

「うるせぇ。借りもんは1つで十分だ。――むしろテメェをぶっ倒すにはこいつはちっと早すぎんだよ」

「どうだか。貴様『光より早く動くこと』なんぞできんだろう?」

「やってみろよ。クソ魔王」

「上等だ。吠え面かくなよアホ勇者」


 俺たちは見合って、見合って。

 そして何か空気の流れを感じた時、魔王は杖をこちらに向け、俺は左で地面を蹴りだした。

 瞬間。


「――いい加減にしなさい二人共」

「ごっ!」「がぁっ!?」


 ごう、と巨大な拳骨が降ってきた。

 気づかなかった俺と魔王はなすすべもなくその下敷きになる。


「なっ、んじゃあこりゃあ!?」

「くっそ、動けぬ! シオン! 貴様何をした!!」

「《神の拳骨》です。二人には少しおとなしくなってもらいます」

「ざっけんな! そんなありきたりな名前の魔法なんかでこの俺様を止められるとでも! ふんごごごご!!」


 やべぇびくともしねぇなんだこれ!?

 下敷きになって動けない、っていうより完全に地面と拳骨で板挟みになって身動き一つ取れねぇ!


「あっはっはっはっは! ザマァ無いなクソ童貞勇者! 貴様は日頃の行いが悪いからこうなるのだ! わしならこの程度の石ころなぞ華麗に消し飛ばしてくれようぞ! そこで指をくわえてみておれ!!」


 といって魔王が拳骨に向かって雷呪文を唱える。

 が、跳ね返って自分にやってきた。骨格が見える。


「ぎにゃぁー!!」

「だーっはっはっはっは! ばっかでー! こいつやっぱバカでー!! その脳みそには何も入ってないんですかー! すっからかんなんですかー! 栄養素は胸にしかいってねーのか単細胞クソガキ魔王! じわりじわりとてめーの首を颯爽と掻き切ってやるぜぇ! って、剣がでねぇ!? あれ!? なんでだ!?」


 と、剣を振るものの、ぜんぜんとどかない。というか、手元に剣がない。


「二人共。すこし反省をしてください。帰ってきた瞬間に喧嘩をしだすなんて……」


 はぁ、と溜息をつくクソメガネ。


「溜息をつきてーのはこっちだクソメガネ! とっとと|《拳骨》(これ)しまえ!」

「お二人が反省するまでです。しばらくこのままがいいでしょうか」

「魔王は勇者を倒す! 勇者は魔王を倒す! それの何がいかんのだ!」

「悪いわけではありませんが。まわりの迷惑も考えろと言っているのです二人共。それ以上喧嘩をするようでしたら。今日のご飯はハンバーグカレー(目玉焼きつき)からお茶漬けになりますよ」


 ぎゃあぎゃあ喚いていた俺たちだったが、それを聞いてぴたっ、と止まる。

 それをみたクソメガネは拳骨をしまい、奥に去っていく。


「や、やだなぁクソメガネ生徒会長様ぁ。俺たち喧嘩なんてしてませんよぉ。なぁ魔王ちゃん?」

「そ、そうですわよ~? わたくし、そんなお下品な言葉遣いなんてこれ~っぽっちもしてないですじゃよ~。ねぇ勇者さん?」

「な? 俺たち超仲がいい」

「ええ。とっても仲がいいですわ~」

「…………それで?」

「お願いです。お茶漬けは勘弁して下さい」「動きまわって腹が減っているのじゃ」


 二人して土下座。家事の殆どはこの生徒会長任せなのである。


※――――


「つーか聞くけど。なんで俺達の仲を取り持とうとしてんだ」


 カレーをもぐもぐしながら俺はふとクソメガネに聞いた。


「言いませんでしたか。神のきまぐれです」


 「はっ」と俺が呆れると、魔王もこれまた呆れたように、


「神のきまぐれ、じゃとぉ? 笑わせるでないわ。先程も言ったじゃろう。『勇者は魔王を倒し、魔王は勇者を倒す』。どこもおかしな所はないじゃろうが」

「――あなた達の世界アルコイリス」


 ぴくっ、と俺達の肩が反応する。

 アルコイリス。俺たちが居た世界の名前だ。スイカを半分に割ったような世界で、スイカの切り口が海で、丸い部分がせり出てくる海の世界。


「な、なんで急に俺たちの世界が」

「エキセトラの城下町に住まう勇者『チチヤオ』の息子、『ダイン』は勇者の試練を面倒と言って史上最短の記録でこなし、名前を『適当でいいからつけて』と言った。その後、勇者の洗礼名は『ああああ』となる」

「うっ」


 た、確かにあの時面倒だった記憶がよみがえる。しょうがないじゃねぇか。読みかけのエロ本があったんだからそれ読みたくて仕方なかったの。あとトイレ行きたかったし。


「お主そんな理由で……てか『ダイン』がお前の本名か」

「うるせぇ。今は勇者『ああああ』だ。……はぁあ……なんでこんな名前にしたし神父」

「人任せにするでないわ。たわけ」


 くっくっくと笑う魔王。ぐぬぬ、反論ができねぇ。


「魔族城下、『インダストリ』の魔王の長女、『ムリエル』は魔法薬の失敗で14歳で『伸長が伸びなくなる呪い』にかかる」

「ぐ」

「その後、魔法薬の試験中に誤って父親を毒殺。その後陰謀だと叫ばれたが、持ち前の知略と努力でそれらを統制、第152代魔王に就任する」

「お前ロクでもねぇことしてんな」

「う、うるさい! アレは事故じゃ! ちょっとトリカブトとカエンタケを間違えただけじゃ!」

「いやどっちも死ぬだろ。いくら調理とか毒とかしらない俺でもその2つの毒キノコは知ってんぞ。食ったらやばいやつだろ2つとも。……てか魔王、お前本名かよそれ。あと伸長それ呪いか」

「うるさい! 未だに解けないことで悩んでるっちゅーのにほじくり返すなたわけが!」


 スプーンで俺を指してくる。まぁ俺も恥ずかしい過去をこのクソメガネに暴露されたから何も言えないんだけどな。


「ふむ……二人の優れた点を上げたのですが、どちらも逆効果ですか」

「おう今のところにどこが仲良くなれる点があるよ」

「どっちとも黒歴史暴露されてすげーきついんじゃが」

「そうでしょうか」


 シオンはカレーを一口食べて30回噛んで、水を一杯飲んでから言う。規則正しいな。


「勇者『ああああ』は最難関とされている勇者の試練を史上最短の記録で突破した。ということは間違いなくあなた達の世界でこの勇者は最高の実力者と言えるでしょう」

「……まぁの」

「たしか、普通のやつなら7日、親父でも3日かかったつったな。あの王様ハゲ

「お主、それ何日でやったんじゃ?」

「あ? そりゃあお前、あんな遊園地のアトラクションの強化版みてーなの、1日で突破したわ」


 ちなみに内容は毒の池や落とし穴、吊り天井といったトラップ満載のダンジョンから『勇者のしるし』を取ってくるというもの。当然ながらトイレもないし、野グソをしようとしたら不意打ちで魔物が襲ってくる。

 モチロン食事中だったのでそれは言わなかったが。言ったらこのクソメガネシオンにまた拳骨を降らされたら敵わない。


「歴代の勇者がそれほどかかったものを、お主は1日か」

「はっ。あんなもんは慣れれば誰でもできんだよ」

「いや、慣れるようなものではないから試練じゃろうが。アホかお主」

「あぁ? 間違えて父親毒殺した奴がいうことじゃねぇだろバーカ」

「――なんじゃと?」


 ピクリ、と魔王の眉が釣り上がる。


「勇者、お主もわしが父上を毒殺した、と申すのか」

「あ? だってそこのクソメガネが――」「答えよ」


 ふと顔を見るとそこに居たのはガキじゃない。

 きっ、とこちらの目を見据える魔王の目。冷たい目。

 しかし――どこかギラリと輝く火が見えた気がした。


「――このクソメガネ生徒会長が言ったことが本当だとしても、テメーがやったかなんて分かったもんじゃねぇやな」

「答えになっておらんではないか」

「途中で茶々を挟むなやクソ魔王。こっからだよ。――だけどな。何度も小競り合いしてて思うけど、お前『毒殺』なんてガラじゃねぇわな」


 この魔王。知略に富んでいても人質だとか奇襲だとかはしない。

 いや、配下は遠慮容赦なくそういうあくどい行動をしていたが、魔王の領地に深く入れば入るほど、真正面からやってくるバカ配下がやってくるのだ。

 ちなみにソイツらはけっこー強かった。

 オレは勇者で、まんべんなく剣技だとか魔法だとか治療薬の作り方とかできるが(ただし料理は専門外)、こいつの膝下にいた時の配下は何か一つがずば抜けていた。

 剣技が猛烈に上手いやつがいた。魔術がとんでもないのもいた。毒薬を作るのに適した奴がいた。

 だけどどんなにそういうのがいても、絶対に『正面から挑んできていた』。

 剣技がうまけりゃオレが寝ている間にでも刺せば勝ちなのに。

 魔術なら遠距離からオレを狙い撃ちすればいいのに。

 毒なら水に流したりすればいいのに。

 だというのに、どいつもこいつも正面から、だ。

 良くも悪くも、こいつ『正直』なのだ。


「ふん。わかればいいのだ。アレは事故。意図的ではないわ」


 ふんす、と魔王は息をまく。

 あの様子じゃあ相当何か言われたんだろうな。

 もっぐもっぐとカレーを食いながら俺は思った。


※――――


「君! この間の『はやぶさの靴』の履き心地はどうだったかい!? ぜひよければ我が陸上部へ!」

「いやいや、この間のあの魔術。私の世界ではありふれたものでしたが、突き詰めればあそこまで行くとは……ぜひ魔術部でその教授を」

「何言ってんだお前ら! この勇者はな! 俺らウエイトリフティング部で一緒に重量挙げに挑むって決めてるんだよ!」


 朝早く学校に来てみればいきなり「部活動」の勧誘の嵐である。


「だ、ちょっ……だから! 俺は部活には入んねーんだって! めんどくせぇ!」

「また絡まれておるのかお主」

「好きで絡まれてるんじゃねぇよ!」


 魔王はひょいひょいとその勧誘をかわしていって、まっすぐ校舎までたどり着いていた。なんでアイツあんなにひょいひょいとかわして……はっ!?


「ま、まさか……」


 俺は気づいてしまった。

 よもやアイツ……。


「身長が低いから、気づいてもらえないのか…………!」


 あまりにも身長が足りていないものだから誰にも気づいてもらえないのか……!

 身長が伸びなくなる呪い……自業自得とはいえ、哀れだなぁ。アイツ。

 思わずホロリと同情の涙を流していると頭にゴイン、と岩石がぶつけられる。

 同情する余地なし。アイツやっぱしばく。


「勇者『ああああ』君ですね?」

「あ゛?」


 魔王をどうやってぶっ飛ばそうかと考えていると、部活勧誘者の中を割り込んでやってきたメガネをかけた野郎が。

 なんというか、さわやかなイケメンだ。髪さらっさらの金髪で、にこにこと笑顔を浮かべている。


「お初にお目にかかります。僕は勇者『ティエル』。貴方と同じこの世界に連れてこられた者です」

「…………」


 なんだかいけ好かないヤローが出てきやがったな、オイ。


※――――


「ったく、またしてもあやつはさそわれおって……」


 憎み口を叩きながらわしこと魔王『ムリエル』は玄関のうわばきで靴を脱ぐ。

 靴箱に靴を入れて上履きを履いて、さっさと教室に行って昨日の魔道書の続きでも読むかと思っていた。

 ……べ、別に、羨ましくなんて、ないんだからな!?

 そう! 魔王とは本来孤独を愛するもの!

 勇気やら愛やら友情努力勝利なんてものとは無縁なのじゃ! ……すいません、やっぱ勝利は欲しいです。


「まったく……」


 そしてここは、そんな勇気とか愛を大仰に語る勇者と。

 本来は孤独であるはずの魔王が。一緒になってここにいる。

 ここの授業を受けていて気づいたのは、だいたいが魔力制御の授業と、能力制御の授業。年代の差なんてものはなく、ジジイだろうが赤ん坊だろうが一緒に授業を受ける。唯一変わることといったら『教師』が変わるだけだ。

 そしてその担任も、たいがいがあのシオンと同じ程度(といっても、シオンとは比べ物にならないほど弱いが)の実力を持っている。束になれば勝てないことはないだろうが、『教師』はなにか制御をされているようだった。


「なんらかの制御装置、か……」


 おそらくは『教師』が生徒(勇者と魔王)と結託するのを恐れてのことだろう。下手に解呪や魅了をかけようものならあの制御装置が消し飛んで、シオンと同等の権限を持つことになる。


「まったく、厄介じゃ」

「そう思いますぅ?」

「ぬん?」


 ひとりごとをつぶやいていたら後ろにいたわしよりも身長が高いぐらまぁな美人。

 目鼻立ちもすっきりで、腕も足も細くてすべっすべの肌で、赤い綺麗な髪を腰まで下げていた。

 胸は普通じゃったけど。


「あん、魔王『ムリエル』様とお伺いしますぅ。わたくし、魔王『サキュア』。貴方様とぜひお話がしたくってぇ」

「……あん?」


 …………うっさんくさい奴じゃなコイツ。


※――――


「協力して生徒会を討つぅ?」


 ニコニコとしてそいつがしてきた提案はそれだった。


「おいおい、いいのかよ。んなことを学校こんなところで話して」

「構いませんよ。勇者『ああああ』。……いえ、ダインさん」


 それを聞いて剣を抜いてティエルの首元にやる。


「勘違いしないでください。コレは私の魔法でして。――『汝の真の名を晒せフルオープン』というのですがね。こういうことにしか使えないのですよ」


 なるほどな。

 いわゆる勇者の名前ってのは洗礼名だ。いわゆる本名じゃねぇんだな。

 どっかのバカは本名をそのまま使っていたが、ホントは勇者の名前とかもったいぶったことを言って隠すのが普通だ。

 何故本名を隠すのか?

 それは魔法とはまた違う、『呪い』に対抗するための策だ。

 魔法はいわゆる『理解してれば使える』モンなんだが、『呪い』はそうはいかない。

 手順を踏んで、道具を用いて、それでやっとこさ使えるもんだ。

 あ? どうちがうのかって?

 んなもの俺に聞くなよ。こんなことやんのは俺の仲間の仕事だ。

 ま、今はいねーけどな。

 んで、コイツは俺の『本名』を口にした。他所の世界じゃどうかは知らんが、『呪い』の大事なものは一つ揃ってる。

 『呪い』に必要なのは『相手の顔』『相手の情報』『相手の本名』だからな。

 その点理解してるだろうから、コイツ唯の勇者でメガネじゃねぇだろうな。

 ニコニコしながら肩すくませてるけど、コイツの能力は厄介だなぁ。


「おっと、そのまま勢いに任せて斬らないでくださいよ? そうなったら貴方は『粛清対象』として生徒会に追われることになる」


 それも知ってるんかいクソッタレがぁぁぁぁぁ。

 クソメガネシオンが最初に言ってたんだがこの生徒会の目的っつーのが『俺達の更生』ということらしい。

 んで、それができなさそうなの――いわゆる他の勇者をぶっ殺したり、他の魔王やらシオン、それと理事長とやら以外の生徒会をぶっ殺したりするヤツだな――は生徒会どころかこの世界とやらの『粛清対象』とやらになるらしい。


『粛清対象になるとこの世界のどこへ逃れようともその魂、肉体、その存在全てを『狭間の牢獄』へと連れて行かれます。ご注意を』


 なんて言いやがったもんだから迂闊に生徒会やらを人質にとることができない。ま、しねーけどな。

 いつもやってるのはあれ威嚇牽制だからダイジョウブダイジョウブ。アレクライデユウシャハシナナイシナナイハハハ。


「ッチィ。んで、どうするってんだ? 具体的には」

「はい。まず生徒会は恐ろしく強い。自分たちの世界に帰るためには生徒会長であるシオン・ヒイラギと理事長……まだ姿を現していませんが、この二人を倒さなければいけません」

「んでもって、それに挑むにはすげーハンデを背負って挑まなきゃならないんだろ? 全ステALL1とか、能力封印とかよ」

「ええ。ですが一つだけ。これには抜け道があるんですよ」

「あ?」


※――――


「じ・つ・はぁ! これには生徒会長であるシオン、そして理事長への『呪い』が通用するんですよぉ!」

「…………」


 ぢゅうううううとにぼし牛乳を飲むわし。魔王ムリエル。

 『呪い』のことは知っておったが、実行するにはとんでもない手間暇がかかるのは言うまでもない。

 ちゅーか。


「なんでお主『呪い』を知っとるんじゃ。それはアルコイリス(わしらの世界)だけだと思っとったが」

「あらぁ? ご存知なくって? 実はここに集められた人たちには共通点があるんですよぉ?」

「共通点~~~?」


 自分でもわかるのじゃが共通点なんぞついぞ分からん。

 魔力か? それなら共通じゃが。


「正解ですぅ! そう! それは『魔力』! そしてこの勇魔高校の図書館にはどうやら集められた世界の知識が集まっているんですぅ!」


 なんと。

 それは知らんかった。本は自前のものをだいたい読んでたから知らんかったが、なるほどこの高校にはそんなモンがあったのか。


「そこで私はかんがえたんですよぉ! シオンと一緒に生活しているという貴方であれば『顔』『情報』は揃えられるって! そうすれば『呪い』で弱体化されずに相手をとっちめられるんですよぉ!」

「……なるほどな。言いたいことはよくわかったわい」

「協力、してくれます?」

「ああ――」


※――――


「成程。テメーらの言い分はよっく分かった。そこまでして元の世界に帰りてーとはついぞ知らんかったわ」

「では、協力シてくれるんですね?」

「ああ――」


 立ち上がってそいつに向かって手のひらをかざして、


「だが断る」


 無詠唱で『ギガフレイム』をぶっ放した。


※――――


「あ、が、な、に……」

「やれやれ。退屈しのぎになるかと思っておったが、全然ならんかったわ」


 とんとんとわしは自分の肩を叩く。肩こるんじゃよねー。なんでじゃろなー。

 『呪い』を使って一緒にシオンをとっちめようと言っておった三下は適当に『アイスメイク』で中途半端に凍らせておいた。完璧に凍らせたら全ッ然話ができんからの。


「いいか? わしはあのシオンとかいう女をそこそこかっておる。この最強にして無欠の魔王『ムリエル』をここまで封じ込めておるのだしな。そしてそれ以上にアレはわしの獲物じゃ。勝手にわしらの世界の『呪い』(ルール)を使って勝とうなど、千年早いわ」


※――――


「あの女は俺がぶっ飛ばす。魔王以上に上にのって鼻にかけたような態度がムカつくんでな。それにアイツぶっとばさねーと、『俺らの世界に平和が戻らん』」


※――――


「わしは魔王。魔王『ムリエル』じゃ。『世界を平等にし、そして混沌を撒き散らす存在、勝者こそが正義の世界』を作るために、わしはここで立ち止まっておるわけにはいかん。最大の障害が勇者とおもっておったらなにを。それ以上にシオンあやつが邪魔じゃ」

「あ、がが……じゃ、じゃま、でした、ら、なぜ……手を……くま、ない……?」


 おお、さすがは自分で『魔王』を名乗っておった者じゃ。それなりに頑丈か。

 それに質問されたからには答えるのが礼儀じゃろう。最低限のな。


※――――


「黒焦げでもさすが生きてるな。そうでないとやべーんだけどよ。……なんで手を組まないのかって? んなもん決まってるだろ。俺は『勇者』だぜ? 勇者のお供は『仲間』だ。仲間と一緒に相手を叩きのめすってんだったらやらなくはないぜ? でもテメーは違うだろ? どう考えても『俺を利用するつもり』だった。そういうヤツとは付き合わない性分でな。そして何より――」


※――――


「ふむ。ではトドメじゃな。カチコチになるが太陽の熱で溶けるので安心せよ。手を組まぬ理由はそのようにして近づいてくるのが気に食わん。きちんとした狙いがある者、それをわしに正直に言うものなら手を組んだじゃろう。だがな。『己の腹の内もあかせぬ相手』と、誰が手を組もうかそのような疑わしい者と一緒に居るなどと、反吐が出る。それにな――」


※――――


「俺はいけすかねぇさわやかなイケメンが大っ嫌いなんだよ!!!」

「わしは自分より身長の高い者が嫌いじゃ、ドアホウ!!!」


((完全に自分の都合じゃないかっ(ですわっ)!?))


※――――


「死なないまでにぶっ飛ばしてやる。覚悟しろ」


 俺はそう言うと剣を青眼に構え、刃に魔力を集中させる。

 刃は赤、青、緑、黄、橙、紫と色を変えていく。そして白になった時が準備OKの合図だ。


「ま、まへ! はなへば、はなへばわか……」

「わかんねーなぁ!! テメーがぶっ飛ばされる原因はたったひとつだ!!」


※――――


「さぁて、仕上げじゃ。この間思いついた最上の氷魔法で凍らせてやろう」

「ひ、ぃっ!?」


 指先に冷気を集める。もちろん周囲の細かい水をぐねぐねと粘土のようにコネて氷にしていき、それを大きくしていく作業じゃ。

 これくらいならあの勇者アホにもできる。じゃが。


「まぁこれはただの遊び。なに心配するな。死にはせんよ。お主も魔王じゃろ? その美しさを永遠のものとすることができる、画期的な魔法じゃ。実験台になれるだけマシというものじゃろ?」

「ひ、あ、や……」

「あぁん? 聞こえんなぁ? きちんと大きな声で言わんとなぁ?」


 おもいっきりニヤついて、そして氷をさらに集める。それはちょいと大きな氷の柱になった。なに、5階建ての校舎と同じくらいの大きさだから、大したことはない。


「やめ、てぇ……!」

「なんじゃ。きちんと声が出るではないか。じゃが――駄目だな」

「なん、へ……!」

「お主がこうなる理由か? そんなもん簡単じゃ――」


※――――


『お前は俺の(わしの)獲物を横取りしようとした。たったそれだけのシンプルな答えだ(じゃ)』

((よ、横取りじゃなくって協力なんですけど――!!?))


「ぶっ飛べ!!! 極彩剣ごくさいけん虹の剣エスパダ・アルコ・イリス!!!」

「凍れ! 『アブソルート・ゼロ・ムリエル』!!!」


※――――


 その日、勇魔高校では二つの事件が同時に起きた。

 一つは、学校の西校舎裏で巨大な氷の柱が出来たこと。これにより西校舎は春だというのに真冬の気温になり、桜はまたたくまに凍りつき、西校舎は2時間ほど雪が降った。

 中に居た教員、勇者、魔王は自衛したので問題はなかったものの、中にあった電子機器類は全てショートした。

 もう一つは学校の体育館、運動場の崩壊。

 謎の裂け目ができ、体育館は半分がえぐれ、運動場は真二つに裂けた。その被害は東校舎まで割れ目が来ており、埋め立てるのに数時間(これは公務員が優秀ということもあり)かかった。

 なお、この被害を出したのはたった二人の勇者と魔王によるものだという。


「――さて、どうしてこうなったんでしょうか?」

「相手が悪い」「ムカついたのでカッとなった。今は反省しておる」


 勇者『ああああ』と魔王『ムリエル』の部屋。二人は正座でシオンの前に居た。

 

「毎度のように学校の備品を壊すのは大丈夫です。直しているので。でも今回ばかりは流石に被害が大きすぎます」

「だってよ」「じゃがの」

「言い訳は聞きたくありません」


 ぴしゃり、と二人に言う。


「本来であれば学校に対しての被害ということで、二人には狭間の牢獄に追放――」


 そこまで言った時、勇者は立ち上がり、


「おう待てコラ! 俺はともかくとしてこのクソチビ魔王(おっぱいお化け)も牢獄行きってのは流石にねぇだろが!」

「にゃにを抜かすんじゃこの勇者『ああああ』(ありがち名前)! 貴様はたかが体育館と運動場をぶっ壊しただけじゃろが! 真に迷惑をかけたのはこのわしじゃ、ドアホウ!」

「あぁ!? テメェ人が慈悲をくれてやってるのに、その言い草はねぇだろが!」

「勇者に慈悲をかけられるなんて、先祖代々の魔王になんとお詫び申し上げればいいんじゃ! ドアホウ!!」

「あ、また言いやがったなこのクソチビ魔王(おっぱいお化け)!!」

「んなっ!? この、言うに事欠いてこの勇者『ああああ』(ありがち名前)!」


 と、お互い顔を突き合わせていると上から拳骨が降ってくる。


「――まったく。話は終わっていませんよ。少しお静かに。……本来であれば二人には狭間の牢獄に入って、頭を冷やしてもらう予定でしたが、今回私に『呪い』をかけようとしていた魔王と勇者は『粛清対象』に入っていました」

「なにぃ?」「なんじゃと?」


 この二人が『粛清対象』になっていたのは『勇者と魔王の共謀による世界支配』、いわゆる対立する振りして一般人を煙に巻いて世界を支配しようとしていた、ってのがこの世界に来た理由らしい。

 んで、この世界で少しは反省していたかとおもいきや、俺とこの魔王がやってきて、その世界の『呪い』とやらを使えばシオンをぶっ倒せると思っていたそうなんだな。

 それ以前にも、他の勇者や魔王たちに片っ端から声かけて、クソメガネシオンをぶっ倒そうとしていたらしいんだが。


「集団先導によるあの行為、そして今回の一件で完全に二人を『狭間の牢獄』へとつなげることにしました。その二人を勞せずに捕まえることができたのは、お二人が無力化させていたからです。よって今回は『不問』とします。いいですね?」

「…………」「…………」


 なんというか、あっさりと決着がついたきがする。


「ま、まぁアレだ! 俺は気に食わないヤローをぶっ飛ばしただけだし? 別にテメーに感謝される覚えはねーし?」

「そ、そうじゃな! 第一あの女、わしを子供か何かと勘違いしておったんじゃないかの! まったくもって失礼なやつじゃ!」

「まぁ、今回の俺の一撃があれば、その魔王とやらもとっちめられたんだろうがよ! いやー、残念だったなぁ!」

「ふん! 貴様のチンケな剣技なんぞで、あの魔王がやられるものか! お主がやった勇者とやら、わしが本気を出せば学校を春から冬に変えるほどの一撃で凍らせてやったものを!」


 その一言で俺たちはお互いに何かスイッチが入った。


「……あ? テメェ調子乗ってんじゃねぇぞクソチビ魔王(おっぱいお化け)。テメーが抜かしたチンケな剣技がどれくらいやべーのかわかってんのか? お?」

「お主こそ最近調子のっておらんか? 貴様の『魔法』の『ま』の字なんぞ、魔法にもなってないようなもんじゃろが。剣しか脳のない勇者『ああああ』(ありがち名前)が」

「あんだと?」

「なんじゃ?」


 俺たちが火花を散らしていると、シオンが


「お二人共。また喧嘩するようでしたら、今日の晩ごはんがハンバーグからすいとんになりますよ?」


 結局またいつものように仲直りしたんだが、俺は諦めてはいない。

 このクソメガネシオンをぶっ倒し、元の世界に帰り、そして隣りにいる『魔王』をぶっ倒す。

 そして世界に平和を取り戻すんだ。

 ……その前にコイツと仲良くなるという妙なこともあるかもしれない。

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