第6話:これでも賢い可愛い同級生さん(前編)
「えへぇぇへぇぇ……」
「何だこの気持ちの悪い幼馴染」
登校までの道程は「坂」だった。
大きく険しい長い坂道になっている。
俺としのが通う天上院学園は名前に「天」とついてるだけあり、
やたら高いたか~い山の上に偉そうに立っている。
父さんによると、
「天上院学園があったところには昔お城があったんだ。
それが今の世になって王様が必要なくなって、
代わりに子供たちを教育できる機関に魔改造したんだよ」
天上学園は、
小学、中学、高校とひと通り揃ったエスカレータ式の教育機関で、
要するに定期試験さえ頑張れば寝ていても進学することができる。
ぶっちゃけ金持ち学校だ。
俺たちの住む街、フォースタウンには、天上院学園の他に、
山を降りた場所にあるコモンズ学園、魔教堂高校
西の森にひっそりとたたずむ聖刀女学院、
東の川の向こう側にある神工式道場、
南の荒野にある不動ヶ岡男子高校、等々、他にも大小様々な学校がある。
学生の街なのだ。
20年ほど前、魔王支配から解放された地元民と、新たな土地を求める移住者の間で、多くの子供が生まれた時期があった。
戦争解放に伴う解放感が、人々の心を大らかにしたのだ。
明日を生きる活力に満ちた街の住人たちの間には多くの恋が芽生え、魔王との戦いで抑圧された感情を解放させ、数年後には新たな生命が多く誕生した。
………………下ネタではない。偉大な生命の誕生なのだ。
こうして所謂「魔王解放後の第一次ベビーブーム世代」と呼ばれるようになった俺たちは、つまり子供は、この街の主役となった。
故に現在のフォースタウンは良く言えば「若い可能性の街」、
悪く言えば「子供たちの王国」となっていた。
「ユート君手をつなごう」
「ヤダよ恥ずかしい」
「ちぇっ」
天上院学園までは歩いて約20分。
俺の家は山の中腹くらいにある。
徒歩20分は、もちろん平均的な人間の速度で、
俺の場合、遅刻しそうな時は20秒で走ることは可能だが、
しのと一緒に歩く時間は好きなのでそんな無粋な事はしなかった。
皆だって、毎日学校行くのに全力疾走しないだろ?
「じゃあ、無理やりつなぐよ」
「……」
「えいっ」
「……」
「あっ、抵抗しなくなった」
ちなみに皆、上のような会話を聞いていて俺のこと肩パンとかしたくなるかもしれない。
だが前もって言っておこう。
こ ん な 絡 み が ず っ と 続 く ぞ !!
しのは常時こんな感じだ。覚悟してくれ。
「ユート君レベリングとかする?」
「絶対やだよ、これ以上強くなっても嫌だし」
「そうかーユート君、頭おかしいくらい強いもんね」
「それな」
「ガチ勢かつレベル廃人だもんね」
褒めてる口調でディスってくるのやめて。
天上院学園までの道は、車も通る一般道なんだけど、
道から一歩踏み出して草むらに入ると、モンスターが襲ってくる。
腕に自信があれば倒すことも可能だが、逆に倒された場合は外れた場所に戻されてしまう。
モンスターは奥に進めば進むほど強くなる。
フォースタウンも過去はモンスターの出現するエリアが無数にあって、人が住んでいる所にも平気で出現したそうだが、今は時代も変わり、モンスターが出現するエリアは限定されてる。
俺も小学の時は毎日のように草むらに飛び込んではモンスターと戦ったものだが、
今じゃ昔ほどモンスターを狩ることもしなくなり、
むしろゲームの中の世界で、自然の摂理を超えた化物とばっかバトルしている。
「でも意外と戦ってる生徒いるな」
「もうすぐ季節が変わるからね。戦ってないモンスターを倒しておきたい人もいるみたいだよ」
モンスターの出現パターンは季節や時間帯によって異なる。
惑星フィールの季節は春夏秋冬の四つに分かれているが、
もうすぐ夏に切り替わるため、今のうちに倒しておきたい敵でもいるのだろう。
モンスターを倒すと、アイテムを落とすこともあり、売ればお金にもなる。
プロの冒険者となればそれだけで生計を立てていける。
子供の俺達もその真似として、モンスターを倒して小遣い稼ぎをする。
大抵は、数百円とか良くて数千円とかしょっぱい結果に終わり、すぐに昼食代やゲーム代、服やカラオケなど学生らしい出費で消えていくが、季節の変わり目は別だ。
春に出現するモンスターが落とすアイテムを夏に売れば、
通常よりも倍近い値段で売れる。
普通の小遣い稼ぎよりも良い収益を上げることができるのだ。
だからだろう。通学前の暇な時間に一稼ぎしようと企んでいるのだ。
「あれっ、あれってチエちゃんじゃない?」
「んっ」
と、道行くバトルマニア(貧乏人)達を眺めながら歩いていると、
見慣れた学生服に黒髪ロングの後ろ姿があった。
泉野知恵だ。
知恵は後ろの席の同級生だ。
いつも難しい本を読んでるか寝ているかの二択の変わり者のメガネ女子だ。
成績は良くて100点満点ばっかとってる。
高校のテストは教科にもよるが、100点をとるのは小学中学に比べて困難なので割りと化物だったりする。
ゲームの腕前もピカイチで特にアクションの腕はうちの委員長も認めるほどだ。
ちなみに彼女の戦闘面でのステータスはこんな感じだったはずだ。
名前:泉野知恵
年齢:十五歳
職業:高校生
Level.84
冒険的職業:狙撃手
属性:水、闇
生命力:100 戦闘力:80 守備力:102 俊敏性:94
魔法力:298 精神力:142 運命力:120 ガッツ:45
固有スキル:知的好奇心、分析、ゲーマー初段
所属:第二図書委員会
はっきり言うが、彼女の戦闘面のスペックはかなりしょっぱい。
まず平均的な女子高校生のLevelは150~200だ。中学生だってLevel.100は超えているが、ちーちゃんはLevel.84という幼少期どうしたんだというレベルだ。
初期値もマズく、生命力100ってのはかなり致命的で、ザコモンスターの攻撃でも二回から三回受けると倒されてしまう。
俊敏性94もキツくて、小学生男子でも元気な奴は200くらいあるから、
いざバトルになったら相手の姿を目で追えなくて、「くっ、どに行った……、空か!?」と見上げた瞬間後ろから首に手刀を当てられて倒されてしまう。
「チエちゃん大丈夫かな? 先週も通学中の道路で倒れていたよね」
「ああ、学食食べる金がなくなっておごるハメになったな」
言い忘れたがモンスターに倒されると、道を外れた地点に戻るだけではなく所持しているお金を半分奪われる。
そのため冒険に出る時は所持金を少なめにして出かける学生がほとんどだが、そうすると問題は学校についてから飲まず食わずの生活が待っている。
大人のプロ冒険者であれば口座を開設してそこにお金を一旦預けておくのだろうが、俺達子供には流石にそんなことはできないし、親も承認してくれない。
「チエちゃん水道水クラスタの一員だもんね」
水道水クラスタとはモンスターの戦いに負けまくった結果、学校で水道水を飲むことを余儀なくされた貧乏人の集団だ。
ちーちゃんもよくその一員に加わるのだがお年ごろの女子高校生が水道水で空腹を凌ぐ姿ほど泣けるものはない。
「ユート君、私もうチエちゃんがお腹をすかせてる姿を見たくないよ」
「それは俺も同感だ」
もう俺は屋上でカスミを食べようとして「Bクラスの仙人」と呼ばれたり、学食でおばちゃんにパンの耳を貰ったり、ドケチ隊の一員としてスーパーのタイムセールに並ぶちーちゃんの姿は見たくない。
かといって俺も学食でおごりたくもない! アイツ人の金だからってラーメン大盛具材トッピング全部とか選びやがるんだぞ!
「よしいっちょ助けるか」
「そうだね」
俺達はちーちゃんを助けるためモンスターのいるエリアに一歩足を踏み入れた。