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信長登場!

「織田信長、見参っ!」

「ウワッ! テ、敵ダ! ギャァァァ!」

 え? 何? 何が起きたの?

 わたしの目の前に現れたのは、鉄でおおわれたヨーロッパ風の南蛮具足(鎧)を身につけた騎馬武者だった。馬上の彼は、燃えるように赤いマントをひるがえして刀をふるい、次から次へとロボットたちを倒していく。

「敵ノ総大将、織田信長ダ! ヤッツケロ!」

「ふん! 貴様らのような雑魚にやられるものか!」

「グワァ!」

 織田信長。百年以上つづいていた戦国時代にさっそうと登場し、たくさんの戦国武将たちを破って天下統一の目前までいった英雄。今、ロボットの足軽たちと戦っている彼が、その信長のDNAを受けつぐ二代目・織田信長なのだ。

「ざっとすんだな。口ほどにもないやつらだ」

 信長くんは、たった一人で十数体のロボットをやっつけてしまった。すごい勇気と実力の持ちぬしである。ち、ちょっとカッコイイかも……。

「信長さまー!」

「おう、サル。遅いではないか」

 信長くんの部下(とってもサル顔!)が大地をこがしている炎と炎の間をくぐりぬけてかけつけた。サル顔だけれど、ものすごい度胸だ。あんなの、私や香子ではとても通ることはできない。だって、ちょっとでも服に火がついたら焼け死んじゃうもの。

「信長さま。ここは一度退却したほうがよさそうです。今川軍のほうが兵の数が多いのに、正面から戦っても勝ち目はありません。倒しても、倒しても、新手がやって来ます」

「おのれ、義元め。……いいだろう。今日のところは引きあげてやる」

「ねえ、ちょっと! 逃げるのなら、私たちも連れていってよ!」

 私はピョンピョン飛びはねながら、馬上の信長くんに向かってそうさけんだ。信長くんは、私と香子を順番に見ると、キンキンとかん高い声でこう言った。

「だれだ、おまえたち。サムライ学部の生徒ではないな」

「文学部の副委員長・清少納言よ。そして、こっちの子は同じく文学部委員長・紫式部。あんたの学部に用があって来たら、戦いに巻きこまれたの。なんで、子どものあんたたちがこんな危険な合戦ごっこをしているのよ。もう今は戦国時代とちがって平和な……」

「ギャアギャアとうるさい女だ。ほら、乗れ」

「え? きゃあ!」

 信長くんは、私の手をつかむと、ぐいっと私の体を引きあげて馬に乗せた。

「ふり落とされないように、馬の鞍にしっかりつかまっていろよ」

 後ろの信長くんの声が耳もとでして、私は顔を思わず赤らめてしまった。男子とここまでピッタリくっついたのははじめての経験だったのだ。

「サル。もうひとりは、お前が連れていけ」

「へい!」

 信長くんの部下はぼうぜんとしていた香子を抱きあげ、自分の馬に乗せた。

「な、なななななな⁉ 何なの? やだ、やめて、おろして!」

「うわっ! そんなにあばれたら落ちますぜ! 恐がらなくても、大丈夫ですよ。オレ、女の子には優しいから」

「サル顔、いやーーーっ!」

「ガーーーン‼」

 香子は、普段は大人しいのに、たまーにキツイひとことを言うのよね……。たしかにサル顔だけれど、女子にそんなことをハッキリ言われたら男としてショックだろうなぁ。

「すっかり火につつまれてしまっているわ。どうするの?」

 火の広がりは早く、さっき信長くんとサルくん(今は名前知らないから、ごめん)が通ってきた火と火のすき間も完全にふさがってしまっている。これでは脱出できないと思った私がそう言うと、信長くんはフンと鼻で笑い、こう答えるのだった。

「飛びこえるだけだ。行くぞ! サルも続け!」

 信長くんが、「はぁ!」と馬にかけ声をかけると、馬はあらあらしくヒヒーン! と鳴き、火の粉が舞う中、風をきって走りはじめた。目の前は、メラメラと炎が燃え盛り、このまま直進すると大変なことになってしまう!

「うわ、うわ……うわわ! まるこげだけはかんべんして~!」

「それっ! 飛べ!」

 ふわっと宙を浮くような感覚。

 恐怖のあまり目をとじていた私がおそるおそる目をあけて下を見おろすと、真下に火の海があった。

「すごい……。本当に飛んでる……」

夜空の満月に吸い寄せられるようにして上空を飛んでいた馬は、やがて、天から舞いおりたペガサスのように地上へと着地した。そして、さっきの奇跡のジャンプが、夢かまぼろしであったかのように、信長くんの馬は軽やかな走りで戦場を脱出したのであった。

「ぎゃぁぁぁ! あっつ~!」

 あれ? なんだか、後ろで悲鳴が聞こえたような……?


 信長くんに助けられた私と香子は、信長くんとその子分たちが占領している学生寮の食堂に連れていかれた。他の生徒たちも、サムライ学部の建物や教室のあちこちを占領してしまっているらしい。私が「どうして食堂を占領しているの?」と聞くと、信長くんは、

「ここには食べ物がたくさんあるからな。オレの言うことを聞く仲間には食料をわけてやるが、敵対勢力には絶対やらないんだ。そうしたら、敵はお腹を空かせて弱るだろ?」

 と、得意げに答えるのだった。……やることがけっこうせこいなぁ。

「みんなで仲良くやればいいのに」

「冗談じゃない。織田信長、かつて天下をめぐって争った英雄たちのDNAをオレたちは持っているんだぞ。こーんな、せまいところにひとまとめでおしこめられたら、だれが一番強いか決めるためにドンパチやりあっちまうのは当たり前だろ? それなのに、セン公どもはちゃんと授業を受けろだなんてうるさく言うから、追い出してやったんだ」

 偉人学園には、聖徳太子学園長、藤原道長副学園長、与謝野晶子先生みたいに第一次子ども偉人化計画でスパルタの教育(言葉では言い表せないほど厳しかったらしいの……)を受けて大人になり、学園の教師をしている「偉人先生」が何人かいる。でも、大多数は普通の人間の教師で、サムライ学部にはサムライの生徒たちに対抗できるような「偉人先生」がいなかった。だから、全員逃げ出してしまい、この学部は荒れたいほうだいなのだ。

「ここ、ウワサ以上に治安が悪いけれど、委員長の平清盛くんは無事なの?」

「清盛の兄貴か? あの人は、今、となりの医学部にある病院に入院しているぜ」

「ええ⁉ もしかして、合戦ごっこに巻きこまれてケガでもしたの?」

「いや、ちがう。オレたちが暴れ回るせいで、怒りのあまり高熱を出して倒れたそうだ」

 他人事のように言う信長くん。清盛くんは、信長くんたちにふりまわされて入院しちゃったのに、まったく反省していない様子だ。私は少しムッとした。

「清盛の兄貴に何か用があって、こんな危険な場所まで来たのか? なんなら、オレがかわりに力になってやってもいいぞ。オレはお前みたいな勇気のある人間が大好きなんだ」

 す、好き⁉ こいつ、簡単に「好き」なんて言葉を使っているけれど、男子が女子にそんなセリフを言うということがどういうことなのか分かっているのかしら?

「け、けっこうよ。あんたみたいな戦争バカに署名活動の手伝いなんて、できっこないわ」

「署名活動? ああ。お前のつれが持っているコレのことか?」

 信長くんは、香子から署名活動用の名簿表を一枚ひったくった。

「漢字ばっかりで、なんて書いてあるのか分からないぞ」

「学園のかたよった時間割を改善してくださいって、副学園長に要求するためのものよ」

「時間割を改善? ふん、くだらん。オレたちは、たとえサムライ学部で国語や算数、理科、社会の授業をするようになっても、絶対に受けないぜ。戦うことにしか興味がないからな」

 信長くんは名簿の紙をくちゃくちゃにまるめ、ポイッとゴミ箱にほうり投げてしまった。

「あっ! なにするのよ! よくも大切な名簿を~!」

 カッとなった私は、信長くんにつかみかかった。「偉人活動」の合戦ごっこを終えた信長くんは鎧すがたから学生服にもどっている。ただし、サムライ学部のシンボルマークである日本刀の形をしたバッジも、ネクタイもしていない校則破りまくりの服装だった。一方、私はまだ十二単の変身をといていなかったため、金ぴかの扇をふところに隠し持っていた。私は、その扇で信長くんの頭や肩、背中をペシペシとたたきまくった。

「いてぇ! 危ないところを助けてやったのに、何しやがる!」

「私たちが死にかけていたのは、あんたたちの合戦ごっこのせいでしょ! こいつ! こいつ! 合戦ごっこでサムライ学部をメチャクチャにして、よくもそんな偉そうな態度がとれるわね! 私、暴力で気に入らない人間をねじふせようとするやつ、だいっきらい!」

「痛っ! いたた! いってぇー! お前が一番暴力的じゃねーか!」

「な、なぎこちゃん! ケンカはダメだよぉ!」

「信長さま! 大丈夫ですか⁉」

 香子とサルくん――通り名は豊臣秀吉――が止めに入り、私は信長くんから引き話された。慌てていた香子は、うっかり私の本名を大声で言ってしまっている。秀吉くんは頭や左腕に包帯をぐるぐると巻いていて、ちょっとかわいそうな状態になっていた。香子が馬の上で暴れたせいで、炎を飛びこえるときに秀吉くんだけ落っこちてしまったのである。奇跡的に軽い火傷ですんだけれど、香子はあれから秀吉くんに何十回もあやまっていた。女の子に優しい秀吉くんは、かわいい香子にヘラヘラして簡単に許してくれた。

 怒りがおさまらない私は、引き話された後も、信長くんをののしり続けた。

「あんた、本当に初代・織田信長のDNAを受けついでいるの? 戦国大名の信長は、戦いだけの人ではなかったって、たくさんの歴史小説に書かれているわ。城下町で商人たちが自由に商売できるように楽市楽座を行なったり、ヨーロッパから来たキリスト教の宣教師たちを保護して南蛮文化に興味を持ったりしたのよ。戦いさえやっていられたらいいっていうバカではなかったわ。もっといろんなことにも目を向けなさいよ」

「うっ……。ぐぅ……」

「せ、清少納言さん。そ、それ以上はダメっすよ。信長さまは、ぶち切れたら何をするか分かりませんから。文学部の校舎を焼き打ちされても知りませんよ?」

 秀吉くんが、声を震わせながら私を止めた。私も内心は(ちょっと言いすぎたかも……)と思っていたけれど、口から出してしまった言葉は今さら引っこめられない。

「ふ……ふふふ……」

「な、なによ。急に笑いだして。気持ち悪い。く、来るなら来い!」

 私は、激怒した信長くんが鎧すがたに変身して切りかかってくるものだと思い、金ぴかの扇を信長くんに突きつけてファイティングポーズをとった。ところが……。

「ふははは! 気に入った! この第六天(だいろくてん)魔王(まおう)・信長を恐れない度胸、気に入ったぞ!」

 うわ、なにこいつ。自分のことを魔王とか言ってる。

「いいだろう。協力してやる!」

 信長くんは、さっき自分が捨てた名簿の紙をゴミ箱から取り出すと、くちゃくちゃになっていたのを手で丁寧にのばし、「サムライ学部初等科五年 織田信長」とでかい字でサインした。国語の授業を受けていなくても、自分の名前ぐらいは漢字で書けるみたいだ。

「あんた、五年生だったの⁉ 私より年下のくせして、なんでそんなに態度でかいのよ」

「オレは大人にだってこんな態度だ。細かいことを気にするな。……ほら、お前たちもサインしてやれ」

 信長くんが名簿をまわすと、秀吉くん、柴田勝家くん、丹羽長秀くん、滝川一益くん、佐久間信盛くん、林通勝くんたち子分も名簿に名前を書いてくれた。みんな、戦国大名の初代・織田信長に従って戦場をかけめぐった有名な武将のDNAをつぐ生徒たちだ。

「え? みんな、署名してくれるの?」

「実はオレ、偉人学園でがんばって勉強して内閣総理大臣になるって母ちゃんと約束しているんですよ。だから、出世のためにもいろんなことを勉強したほうがいいかなって」

 秀吉くんが、照れくさそうに笑って言った。

 へぇ、すごい。秀吉くんにはそんな夢があったんだ。

「光秀、お前も書いてやれ。勉強好きだろ、お前」

 光秀? 本能寺の変を起こして天下統一目前だった信長を殺したあの明智光秀のこと? そ、そんなやつのDNAを受けついでいる子を部下にしていて大丈夫なの、信長くん?

「……分かりました」

 なぜか一人だけ鎧すがたのままの光秀くんは、少し不機嫌そうに返事すると、「サムライ学部初等科五年 明智光秀」と、ほれぼれするぐらいキレイな字でサインした。

 サインしてくれるのはありがたいけれど……。

 光秀くん、なぜか私のことをギロリとにらんでいるのよね……。顔を守るための防具の頬当てをしていて目から下が隠されているから、彼がどんな表情をしているのかわからない。でも、さっきからものすごい憎しみのオーラをおびた視線が私につきささってきている。私、光秀くんに嫌われるようなことをしたかな? 初対面なんですけれど……。

「紫式部。もっと名簿をくれ。サムライ学部の署名集めはオレたちに任せな」

「あっ……。は、はい」

「どうやって署名を集める気? サムライ学部の子たちは、授業そっちのけで合戦ごっこばかりしているんでしょ?」

「サムライ学部の生徒にも、光秀や秀吉みたいに勉強をしたがっている戦国武将はいる。それに、江戸時代の武士は藩校という学校で勉強をしていた。そいつらのDNAを受けつぐ偉人のたまごたちなんか、オレたち戦国武将が合戦ごっこをしているのを迷惑がって隠れて勉強しているぐらいだ。だから、集めようと思ったら二百人ぐらいはいけるだろう」

 サムライ学部は、偉人学園のたくさんある学部の中でも一番生徒数が多く、四百人いる。その半分の署名を集められると信長くんは自信満々だ。

「……分かったわ。ご協力お願いします。……私たちも、たった二人で学園中の生徒から千八百もの署名を集めるのは難しいと思っていたの。ただし……」

「ただし、なんだ?」

「この二つだけは約束して。一つ、むりやり署名させたりせず、納得したうえで署名してもらうこと。二つ、授業が改善されたら信長くんも学園の授業をちゃんと受けること」

「えっ、なんでそんな約束をしないといけないんだ」

「当たり前じゃない。署名活動というのは、同じ意見や要求を持った人たちがこの問題をなんとかしてくださいって偉い人に求めることなのよ。反対意見の人をおどして書かせたらダメに決まっているわ。そして、署名を集めた人がそれに反する行動をとってしまったら、署名を書いてくれたみんなを裏切ることになるもの」

「ちぇ、わかったぜ。だったら、こっちにも約束してほしいことがある」

「いいわよ。なに?」

 私が内容も聞かずにうっかり安請け合いすると、信長くんはニヤリと笑った。

「署名活動が成功したら、なぎこはオレの彼女になる。これでどうだ?」

信長「ついにオレさま登場! 同時投稿の紫式部の日記も読んでやってくれ! ……ああん!? せっかく登場したのに、しばらくオレの出番がないだと? ふざけるな!」

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