偉人学園へようこそ!
年末年忘れ計画!
角川つばさ文庫に応募して落選した児童小説を大晦日に連続投稿です!
歴史上活躍した偉人たちのDNAを持つ子どもたちが学園生活を送る物語って新しい! ……そう思ってノリノリで書いていましたが、『放課後のカリスマ』っていう漫画があったんですね……。最近知って、「何事も先駆者になるのは難しいんだなぁ……」と思い知らされました。
というわけで、年末最後の恥さらし! みなさん、「草もちの奴、こんなものを書いて落っこちやがった」と笑ってやってください!
「むにゃ、むにゃ。春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎわ……。むにゃ、むにゃぁ~」
「なぎこ。もうすぐ偉人学園に着くわよ。起きなさい」
助手席のお母さんの声がして、後部座席で寝ていた私は「ふわぁ~」とあくびをした。
私の名前は清原なぎこ。読者のみんな、これからしばらく、私のお話につきあってね?
「ほら、学園に着いたぞ。いつ見てもどでかい学校だなぁ」
お父さんの車が学園の正門前で止まった。私は、教科書や着替えの服、他たくさんの荷物が入ってぱんぱんにふくらんでいる旅行カバンを両手で引きずりながら車からおりた。
目の前には、首が長いキリンでも余裕でくぐれそうなどでかい瓦屋根つきの門がそびえ立っている。門の柱には「偉人学園」と大きくきざまれた石の看板。紹介しましょう、ここが私の学校です! ……え? 変な名前? 私はカッコイイと思うけれどなぁ。
「なぎこ。先生の言うことをちゃんと聞いて、いい子にしているのよ?」
「勉強も大切だが、病気をしないように健康管理には気をつけなさい」
もう。二人はいつまでたっても私を子どもあつかいするんだからぁ。私、三日後から始まる新学期には初等科の六年生、つまり、最上級生になるのよ? お姉さんだもの!
「心配しないで! なんてったって、私は、日本の歴史の中でも、チョー有名な女流作家・清少納言のDNAを受けついでいるのよ?」
私がエッヘンと胸をはってそう言うと、「うわぁぁぁん!」という女の子の泣き声が正門の向こうから聞こえてきた。
「夏休みまでパパとママに会えないなんて、嫌だよぉー! うわぁぁぁん!」
おや? これは、私がよーく知っているあの子の声みたい。ははぁん。うちの学校は生徒全員が親元を離れて学生寮(学生たちが共同生活する場所)に入らないといけないから、あの子ったら、学校の中に入ってすぐにホームシックになっちゃったのね。
「仕方ないなぁ。親友の私がなぐさめてあげますか。お父さん、お母さん、またね!」
私は、両親にブンブンと手をふって数か月の別れをつげると、旅行カバンの車輪をカラカラ言わせながら偉人学園の正門へと歩きだした。
「こんにちはー! 偉人学園文学部初等科六年生、清少納言です!」
私は、正門前に立っているガードマンさん二人にニッコリほほえみ、この学園内での自分の「通り名」を名乗って学生証を見せた。
「こんにちは、清少納言ちゃん。ちょうどよかった。さっき門を通った紫式部ちゃんが……」
「はいはい。わかってます。私に任せてください♪」
ガードマンさんたちに門を通してもらい、私は、文学部の校舎へと続くレンガたたみの道を小走りする。偉人学園は校舎や学生寮など大小あわせて百を超す建物があるけれど、私たち文学部の校舎と寮は正門をくぐって徒歩で五分、学園の一番南側にあるから便利なの。
「あっ、香子はっけーん!」
私の親友・藤原香子――学園内の通り名は紫式部――は、桜のトンネルの下でぐずぐず泣いていた。文学部の生徒たちから「桜の屋根の道」と呼ばれているこの道は、道の両わきに植えられた五十本の桜が空をおおっていて、とっても幻想的! 春の散歩道にはちょうどいいステキな場所なの。そんなはなやかな場所で泣いているなんて、香子ったら、もったいないことをするなぁ~。
「香子! 三週間ぶり! 三日後には新学期なのに、なーに泣きべそかいているのよ」
「ううぅ……。なぎこちゃんはパパとママに会えなくてさびしくないの?」
香子は腰までのびた長い髪をいじりながら、涙目で私にそう訴えた。香子の美しい長髪がうらやましい私は、マネして何度か髪をのばしたことがあるのだけれど、いつも最終的にはうっとうしくなって肩のあたりでバッサリ切っちゃうのよねー。ああ、長髪うらやましい。でも、風呂あがりのドライヤーとかめんどくさい。
「そりゃぁ、私だってさびしいわよ。けれどさ、私たちは上級生なんだから。しかも、香子は文学部委員長、私は副委員長なのよ? 寮の私たちの部屋でこっそり泣くのなら止めないけれど、こんなところで泣いていたら下級生たちに笑われるわ」
私がそう言いながら、自分のハンカチで香子のぬれた頬をぬぐってあげていると、小さな男の子と女の子が正門のほうからやって来て、私と香子にあいさつをした。
「こんにちは。紫式部お姉ちゃんと清少納言お姉ちゃん」
「はい、こんにちは。漱石くん、一葉ちゃん」
私がちょっとお姉さんぶった口調であいさつを返し、香子も小さな声で「こ、こんにちは……」と言うと、三年生の夏目漱石くんと二年生の樋口一葉ちゃんはペコリとお辞儀をして走っていった。あの二人も文学部の生徒で、私のかわいい後輩なの。
「ほら、まだ小さいのに、あの子たちは泣いていなかったわ。スマイル! スマイル!」
まだ悲しそうな顔をしている香子の左右のほっぺたを私は両手でつまみ、ひっぱって無理に笑顔をつくらせた。
「も、もお~! なにをするの? なぎこちゃん!」
私の手をはらった香子は、プンスカ怒って抗議したけれど、やがてクスクスと笑い出し、ようやく無邪気な笑顔を私に見せてくれた。
「よかった。やっと笑った。六年生になっても、仲良しコンビでやっていこうね、香子!」
そう! 私たちは、日本文学を代表する『源氏物語』と『枕草子』を書いた、紫式部と清少納言のDNAを持つ偉人学園文学部の最強コンビなんだから!
というわけで、これから私と香子が偉人学園において華麗に活躍するお話を……。
え? 偉人学園って、いったいどんな学校かって?
ああ、そうか。まずはそこから説明しないとね。あのね、私たちが住んでいる世界は、読者のみんなの時代よりも、ちょーっと未来の日本なの。あなたたちの時代の日本が抱えている社会問題で「少子高齢化問題」っていうのを知ってる? 学校で習ったかしら? 簡単に言っちゃうと、おじいさんやおばあさんがどんどん増えていくいっぽうで子どもたちがどんどん減っていくという問題。え? それのどこが問題なのかって?
ちょっと考えてみてよ。みんなの時代の日本の人口は一億二千人。そのうち、これまでこの国を支えていた人たちがおじいさん、おばあさんになって寿命が来たらお亡くなりになる。それなのに、これから日本の新しい未来をつくっていかないといけない子どもたちが生まれる数が少なくなっていって、若い働き手たちの人口が毎年減っている……。これがあなたたちの時代の日本なわけ。この少子高齢化問題がずっと続くと、どうなると思う?
なんと、私たち未来の日本では日本人の人口が六千万人! つまり、半分になっちゃっているのよ! 大変でしょ? だって、単純に計算すると、人口が半分になったのだから一人あたり二倍の仕事をしないと日本はメチャクチャ、世の中が混乱するのよ。
でも、そんなの無理だー! 日本人にスーパーマンがたくさんいたら助かるのに~! みんながそう困りはてていたとき、ある研究者が発見したのが「Izin(偉人)細胞」。この細胞は、わずかな手がかりでオリジナルの人間(本人)とまったく同じDNA(遺伝子)を持った人間を生み出すことができるものなの。
たとえば、あなたが年老いて死んでから数百年後、あなたが愛用していたもの……服とか本、鉛筆、なんでもいいから、あなたが直接手にふれたものが残っていたとするでしょ? それに付着しているあなたの体のあかに「Izin細胞」はあるの。その細胞からとても正確なDNAを取り出すことができて、このDNAが入った薬をお腹の中に赤ちゃんがいる母親に注射すると、あなたとほぼ同じ性格や知力、体力を持った子どもが生まれてくるわけ。
この「Izin細胞」を利用して、かつて日本の歴史で大活躍した人物たち、つまり、偉人たちを復活させて、人手不足で大変な日本を偉人のDNAを持つ子どもたちに守っていってもらおうという計画が立ちあがったの。それが「子ども偉人化計画」!
国が両親となる夫婦を選び、夫婦が子ども偉人化計画に協力すると同意したら、その夫婦の間に生まれてくる子どもは偉人のDNAを体内に組みこまれることになるのよ。
実験的に始められた第一次子ども偉人化計画で誕生した二十人は、すでに大人になっていて、あらゆる分野で活躍している。そして、私たちは第二次子ども偉人化計画で生まれた第二世代というわけ。第二世代は赤ちゃんや小さい子もふくめて現在三千人。偉人学園は私たち「偉人のたまご」を立派な偉人に教育するために六年前つくられた学校なの。
そして、私、清原なぎこは、平安時代に『枕草子』という本を書いた清少納言のDNAを持つ女の子。清少納言は、自分が美しい、面白いと思ったもの、平安時代の日常の生活、定子というお后さまにお仕えした時の体験談をエッセイ(作者が体験したことの感想や意見を書いた文章)としてまとめたの。それが、『枕草子』!
私の親友である藤原香子は、清少納言とほぼ同じ時期に生きた女流作家・紫式部のDNAを持つ女の子。紫式部は、光源氏っていう超イケメン貴族とたくさんのお姫さまたちの恋愛を描いた『源氏物語』という小説を書いたの。今でも読み続けられている名作なのよ?
私たち以外にも、たーくさんの偉人のたまごたちが偉人学園にはいるわけだけれど、歴史を動かした偉人たちのDNAを受けつぐ子どもたちがひとつの学園に大集合しているせいで、毎日大変な事件が起きちゃうのよねー。
なぎこ「次の投稿予定は1時よ! 年暮れなんだし、ちょっとぐらい夜更かししても構わないから読んでよね!」