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世界終了  作者:
chapter1…始まり
3/16

scene01

ちゅんちゅん、なんて平和そのものを表すような雀の声が窓の向こう側から聞こえてくる日曜日の朝、あたしは自分の目を疑った。


「…………え、」


目覚ましが鳴って、目を覚まして、目覚まし止めて、体を起こす。ここまではいつもの朝と同じ。部屋の様子も、昨夜寝る前に見たものと同じだった。

ただ一点を除いて。


真横の壁に、黒い丸が。


あれ、これって最近どこかで見たような。そう、テレビの中でここ毎日、飽きるほど見てる。


「う、ええぇえぇぇええっっ!?」

「椿どうした!!!」


あたしの叫び声からコンマ1秒、ガチャバターン!と穴が空くんじゃないかと思う勢いで扉が開き、人が飛び込んできた。

下は制服、上はボタン全開のパジャマ。どう考えても着替えてた途中であろう格好の男性――兄、朔良(さくら)はあたしの肩を掴んだ。鬼のような形相が物凄く近い!怖い!


「どうした不審者か!?覗かれたか!?変なもの見せられたか!?」

「不審者前提!?まず今の兄ちゃんの格好が不審者っぽいよ!!」

「どこが!?」

「ほぼ半裸なとこが!!」


あたしの言葉にはたと気付いたようで「椿が心配だったんだ……!兄ちゃんを嫌わないでくれ……!!」と慌てて肩から手を退け、ボタンを閉めだした。

しまった不審者っぽいって言ったのがいけなかったか……!でも半泣きになるまでメンタル弱いとは、大丈夫なんだろうかこの兄は。


嫌いにならないから、と子供を宥めるように言えば、顔をあげて頬が緩みに緩んだ笑顔。我が兄ながらなんて単純。本当に大丈夫かなこの人……!自分で言うのなんだけどどっちが上か分からない気がする……!!


「で、一体どうしたんだ?変な夢でも見たのか?兄ちゃんが抱きしめてよしよししてやろうかっ!」

「結構です!!」

「そ、そんな力強く拒否しなくても…!」

「ああもう兄ちゃん泣かないの!

さっきのは。ほら、そこの壁に…」

「壁に?」


兄ちゃんの視線はあたしが指差した場所へと誘導された。そこは消える様子が一切ない、黒い空間。けど、しっかりとそこを見てるはずなのに兄ちゃんはきょとんとした表情でもう一度、壁に?と尋ねてくる。思わず「え、」と声を出してしまいあたしもきょとんとした。

普通驚くか兄ちゃんの過保護な性格からして、ベッドから引っ張り出されてあんなに近くにいて大丈夫なのか!?と必死に心配してくるかと身構えてたのに。ただただ首を傾げて不思議そうにあたしを見てるだけだった。


「く、黒いの、ない……?」

「黒いの……?

はっ!まさか奴か!!黒光りしてカサカサ動く、奴が現れたから怖いんだな椿!!兄ちゃんが探して退治してやる!」

「違う!まずあたしそれ怖くないし自分で退治出来るから」

「女子としてそれはどうかと思うぞ椿!?

それに、違うなら本当に何なんだ?」

「………えーっと…」


見えて、ないんだろうか。こんなにはっきりとあるのに。でも兄ちゃんは嘘を付くような人じゃない。それに、やっぱり見えてるなら黒光りする奴のことを出すなんてあり得ない。


「ご、ごめん。鳥か何かの影だったみたい!寝惚けたから!」

「………そっか。ならいいな!じゃあ兄ちゃんは部活あるからもう準備して行くな」

「うん、有紀のお兄さんによろしく!」


頭を軽く撫でて、部屋を出ていった。多分、誤魔化したのはばれてるだろうなぁ。兄ちゃん、心配げな表情が残ったままだったし。きっとあたしが言いにくいって悟ったんだ。

でも……これは流石に、言った方が心配されるだろうしなぁ。


じっ、と横の壁に出来た真っ黒い空間……と言うより、穴を見つめる。大きさと言えば半径60センチぐらいの丸を少し縦長にした感じだった。

布団から出て、体をそれの目の前に持って行く。さっきまで兄ちゃんと騒いでいたからか部屋が妙に静かに感じて、自分の体重でぎしっとスプリングが軋む音が少し恐かった。


テレビでは、近付いた人は気絶したと言っていた。あたしと穴との距離は1メートル弱ぐらい。もし、これが本当に世界中を脅かしてる黒い空間だとしたら……あたしは今、物凄く危険な場所にいるんじゃないだろうか。

でも、あれは世界中誰もが。あたしも兄ちゃんもテレビ越しで見えていた。だけどこれは兄ちゃんには見えなかった。何が違うんだろう。警察に電話した方がいいのかな。もし警察の人も見えなかったら、いたずらするなって怒られるかも。それはやだなぁ。

じいっと黒い穴を見つめていたら、心がうずっとくすぐったい。興味本意で近付くなと言われたら近付きたくなるのが人間。あたしだってまだ中学生で、好奇心は捨てちゃいない。


「少し、だけなら、」


いいよね?と誰もいないのに言い訳して、穴に向かって腕を伸ばした。


「っい!?」


あとほんの数センチまで近付いたところで、びりりとした軽い電気みたいなのが指先から走ってきた。慌てて手を引っ込めてまだ痺れる手をさする。

命に別状ないって言ってたよね……!?え、電気走ったけど!?


自業自得と言えば仕方がない。とにかくベッドから降りて距離を空けた。やっぱりかなり危ないとこにいたんだあたし……!

でも、これで確かに穴がそこにあることは分かった。でも、なんで本当に兄ちゃんには見えなかったんだろう。もうわけが分からない。あたしおかしくなったんだろうか…!?


他にも誰か見える人がいれば。でも、お母さんもお父さんも今日は朝から出掛けてるし兄ちゃんには見えないみたいだし……。


「あ、」


そうだ、今日有紀達が遊びに来るんだった。

3人に見えるかどうか聞いてそれからどうしようか考えよう。うん。そうしよう。

とにかく今は、朝ごはん食べよう。なんだか起きたばっかりなのにすでに疲れがどっときたなぁ……。

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