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おやすみなさい。また明日【落葉篇】

若干下ネタがございますのでご注意ください。

その日、落葉はとても疲れていた。

どれ位疲れているかというと、体はだるく動くのもたるい程なのに、ベッドに転がり瞼を閉じても精神が冴えて眠れないほどに疲れていた。


それというのも落葉が任されている世界で地殻変動が起きたためであり、現在は天使の管轄におかれているはずの世界に足を伸ばして一月ほど不眠不休で働かされた。

こちらの世界では時の流れが違うため、一週間しか時間は経っていないらしいが、体感が違うためにどうにも体が違和感を覚えている。


自分の屋敷に居て急遽仕事をねじ込まれると嫌なので、誰にも言わずに別荘扱いしている弟分の屋敷にある自分専用の部屋に閉じこもったのだが、夜が来ても意識はクリアだ。

寝酒を飲もうかと思ったが、酌をしてくれる女も居なければそれだけの気力も湧かない。

結果、だらりとベッドに懐いているのだが、一行に訪れない睡眠に段々と苛々してきた。


ため息を吐くと、天上付近をうろつく気配に向かって魔力を飛ばす。

ぱちん、という乾いた音共に姿を現したのは、何故か全身タイツに首にスカーフを巻いた弟分の養女だった。

豊かな金色の髪を緩い三つ編みにしてサングラスをしているが、悪魔らしからぬ色彩の持ち主を間違えるはずがない。

体の上に落ちてきたそれを抱え込むように両手で包めば、現状が理解出来ていないのか不思議そうに小首を傾げた。


未発達の体だが中々に抱き心地の良いそれをきゅうと抱きしめつつ、闇色のタイツに身を包む伽羅を観察する。

露出はないが体に沿うデザインのそれは中々に挑発的で、未発達だからこそ醸し出される色気ににいと唇を持ち上げた。



「何だ、伽羅。食って欲しいのか?」

「───同胞食いの嗜好があったの」

「ある意味でな。ま、お前さんの場合色々と未発達だし、俺のは入りそうにないからもう少しお預けだ」



触り心地のいい髪に指を通すと、擽ったそうに首を竦める。

伽羅は文句の付けようがない美少女だが、残念にも年齢制限に引っ掛かった。

体の小さな女と致すのも好きだが、子供の相手は御免被る。

破廉恥な考えを読み取ったのか、目を細めた伽羅は体の上でごそごそともがき始めた。

伽羅の小さな体は、未だに落葉の腰元くらいまでしかなく、うつ伏せからくるりと仰向けに回っても十分なスペースがある。

きょろきょろとしていた伽羅は、目的のものを見つけたのか動きを止めると再び落葉を見上げてきた。

何をする気なのかと注視していると、黒光りするものを落葉に向ける。



「・・・おいおい。何の冗談だ」

「お養父様にセクハラされたらこれを使えと渡されたの。『あなたの心臓、撃ち抜いちゃうゾ★』」

「いやいやいや。そこは『あなたのハート、撃ち抜いちゃうゾ★』だろう。心臓はダメだ、心臓は。核じゃないがダメージがでかすぎる。お兄さん死に掛けちゃうからな」

「おじさん」

「あ?」

「荷葉が、落葉は『お兄さん』じゃなくて『おじさん』だって」

「・・・あんの野郎。俺より年上の癖して、伽羅に何教えてやがんだ。いいか、伽羅。俺がおじさんなら荷葉は『じいさん』だ。そしてその武器を俺に寄越せ。魔銃なんて誰に渡されたんだ?こりゃ、下手すりゃ穴が開くだけじゃすまんだろうが」



子供が持つには危険すぎる武器に、ひっそりと眉根を寄せる。

魔銃は魔力を弾丸代わりに込めるポピュラーな武器だが、その使い手により威力の幅が出る。

子供である伽羅ならそれほどではないだろうが、この家には荷葉と名のつく戦闘のスペシャリストが居る。

魔改造バッチコイな彼なら、例え伽羅が扱う武器でもその威力は計り知れないだろう。

否、伽羅が扱う武器だからこそその威力は計り知れないだろう。


取り上げようと手を伸ばせば、普段ならあっさりと渡すだろう伽羅がそれを避けた。

眉を跳ね上げ抵抗を見れば、無表情が標準装備の伽羅は不機嫌そうに眉を顰めてこちらを睨み上げた。

てっきり荷葉から手渡された武器だと思ったが、どうやら違うらしい。



「これは、お養父様から頂いたものよ。落葉でも触らせない」

「・・・ほう?じゃあ、今回の仕込みは白檀か?ったく何考えてんだよ」



呆れ混じりにため息を吐き、金色の髪をくしゃくしゃ混ぜる。

特に抵抗せずなすがままの伽羅は、武器を構えたままだが殺気は感じない。


殺気は感じないのに、予備動作なしに狙撃した。



「うわぉう!?何すんだお前!?」

「心配しないで。私はスナイパー。的を狙えば百発三中の腕を持つ、それが私よ」

「おぃぃぃぃい!百発撃って九十七発も外してんじゃねぇか!何に安心しろってんだよ!?そんなスナイパー居て堪るか!どこ狙ってんだよ!何教わってんだよ!いつから使い始めたんだよ!」

「つい、一時間ほど前よ。トリガーを弾くと勝手に弾が発射されるの。不思議ね」

「不思議じゃねぇよ!そういう作りになってんの!ちょっと、保護者の人ー!?この子危険な方向に行っちゃうぞ!?嫌な方向に天然素材だぞ!?」

「『狙った獲物は逃さない。・・・それが、俺の美学だ』」

「俺って誰!?何を参考にしてんだ!?誰に何を教え込まれた!?」



人の体の上に寝転びながら、さも当然とばかりに告げる伽羅に、盛大に顔を歪ませる。

この家はダメだ。何がダメって教育がダメだ。

白檀と荷葉の手が行き届いているので使用人の一人一人が優秀なはずなのに、誰も伽羅にまともなことを教えていないらしい。

ああ、だが良く考えると白檀の教育係は荷葉だったし、現在この家で使用人を取り仕切っているのも荷葉みたいなものだ。

教育者があれであれば、教え子もあれになるといういい見本かもしれない。


くるり、と目玉を動かして胸の上の子供を見る。

碧色の瞳に特に感情を乗せないまま首を傾げた子供は、どうしようもないほど可愛かった。


はぁ、と深くため息を吐く。

殺傷能力の高い銃を暴発(好意的に見て)させたのに、それでも全く憎めない。

白檀のことだ。最初から伽羅の命中率を理解した上で、奇抜な衣装を着せて送ってきたのだろう。

普通なら発砲どころか銃を向けられた瞬間に殺しているのだが、邪気のないこの子供を殺す気にはなれなかった。

代わりにこの子の将来がとても気になり、どうすればいいのかと頭を抱える。

どう考えてもこの屋敷は情操教育に悪いだろう。

子育てに向いてないと自負する自分が言うのだ、絶対にそうだ。


不思議そうに瞬きを繰り返しながら顔を覗きこんでくる伽羅の額を指先で弾くと、むっと唇を尖らせた。

その仕草が年相応で可愛くて、落葉は益々破顔する。

子供好きの嗜好は持っていないが、伽羅は特別だった。

鬼畜と名高い落葉であるのに、甘すぎる対応に自分でも呆れる。

例え、始めから当てる気がない・・・・・・・としても、心が広すぎる。

寛容な自分に眩暈を覚えつつ、軽く首を振った。



「あのな、伽羅。今のが外れたから良かったものの、本気で俺に当たってたらどうするつもりだ」

「大丈夫。もし失敗してもお養父様から教えてもらった魔法の呪文があるわ」

「一応聞いてやる。どんな呪文だ」



ジト目で問えば、伽羅は瞼を閉じて一つ深呼吸をした。

精神集中するように黙り、そして徐にまた碧の瞳をこちらに向ける。



「『失敗しちゃった。伽羅ってばドジなんだから。チャハッ★』」



衝撃だった。

こつん、と自分を小さな拳で叩きながらぺろりと赤い舌を出し、律儀にウィンクして眉を下げながらも可憐な笑みを浮かべた伽羅に、落葉の体に雷が落ちた。



「すみませーん!保護者の方、この子ちょっとダメな方向に成長しそうになってんぞ!?終着点が見えないから止めてあげて!キャラクター、変わっちゃいそうだから!」



再び口に手を当てて室内で絶叫する。

伽羅が居る時点で盗聴されているのは確定だが、これだけ騒いでも珍しく誰も現れない。

違和感に首を傾げていると、再び伽羅が魔銃を構えた。



「『安らかな眠りを届けてアゲル★それが私の存在理由!』」

「やめてッ!冗談抜きで安らかに眠っちゃうから!安らか過ぎて永眠しちゃうから!ちょ、保護者の人ー!?おたくの養女むすめさん、猟奇的な彼女になってんぞ!?狂気的な彼女になってんぞ!?」

「『大丈夫。俺のテクは抜群だ。初めてでも極楽までイかせてやるよ』」

「確かに初めてだけどよ!初めてで同時に最後だろうが!大体ケツの青い餓鬼がなま言ってんじゃねぇよ。テクもなんもねぇだろうが!」



訳のわからないことを連発しながら発砲する伽羅を腕に抱きこむと、そのまま空いた手で頭を胸に押し付ける。

むがむがともがいていたが暫く放置してやると、段々と動きが鈍くなってきた。

そこを見計らい力で編んだ布団をかぶせ、くるくると蓑虫状に巻いてサングラスを奪った。

薄布一枚だが、体温がわかるほど触れ合っているのだから風邪は引かないだろう。



「ああ・・・もう、いいから。ほら、寝るぞ」

「・・・眠くなった?」

「おかげさんでな。精神的に疲れた所為か、どっと眠気が襲ってきた」



言葉どおりに緩やかな疲労感が全身に広がっていて、先ほどまであれだけ冴えていたのに、眠たくて仕方ない。

腕の中にある子供体温が余計にそれに拍車を掛け、くぁっと小さく欠伸をした。

他人の体温を感じながら安眠するタイプじゃないはずだが、何事にも例外は存在する。

体の上に置いておくのもいいが、少しだけ思案した後ころりと横に寝転がった。

体格のいい落葉が寝ても十分な広さがあるベッドは、子供が一人増えたところでさして問題はない。


蓑虫状態の子供を肩の辺りまでずらすと、きゅっと腕に抱きこんで丸くなる。

そうすると丁度髪に顔を埋められて、甘く芳醇な香が胸を満たした。



「落葉、寒くない?」

「んー・・・、ちょっと寒い」

「布団、着ないの?」

「面倒」

「風邪、引いちゃうわ」

「・・・大丈夫だろ」



半分眠りに落ちながら告げれば、小さなため息が胸に当たる。

次の瞬間には柔らかな感触が体の上にかぶさり、伽羅が力を編んで布団を作り出したのに気が付いた。

落葉が作ったのより随分と精度が落ちるそれは、だが十分に温かい。



「おやすみなさい、落葉」



柔らかな子供を腕に抱き、久しぶりの安眠の世界へ足を踏み入れる。

小悪魔をこの場に送ってくれた弟分と、盗聴しながら手を出さないでいてくれた幼馴染に、僅かばかりの感謝を捧げ、ゆったりと息を吐き出した。

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