小噺【荷葉&落葉】
活動報告からの再録です。
「お前さ」
「何ですか?」
「キャラクター性って知ってるか?」
「勿論知っています。私のキャラクターは眼鏡の怜悧な美貌の完璧執事です」
「色々言いたいことはあるが、まぁ大筋は間違ってねえな。んで、俺の知ってる限りだと、そこにクールも入ったよな?」
「当然です。怜悧とあるのですから、察しなさい」
睥睨した眼差しを向ける荷葉に、落葉は額に青筋を浮かべる。
「お前の姿の何処にそのキャラクター性を見出せって言うんだよ!なんだよ、執事服の上にフリフリエプロンて。なんだよ、その異常に可愛らしいレースのリボンは!?新妻か!?新妻気取りなのか!?」
表情を一片も変えずに総レースの黒のエプロンを身につけ、同色のふりふりリボンで髪を結わえる幼馴染に、落葉は絶叫した。
似合ってない。否、むしろ似合いすぎて気持ち悪い。
怜悧な美貌はそのままに、ハート型のエプロンて何だそれ。
恥ずかしげもなく若妻ルックって何だそれ。
自分のキャラクターをクールな執事で通したければ、それは絶対に駄目だろう。
それなのに何を勘違いしたのか、ふんと誇らしげに胸を張った荷葉は熱っぽく語り始めた。
「似合うでしょう?嫉妬するくらいに似合っているのでしょう?当然です。このレースのエプロンもこのレースのリボンもお嬢さまが私に作ってくださった傑作品です。見て下さい、このレースの端々に入る刺繍。ステッチがこまめで綺麗なものです。手縫いですよ!信じられません。天才じゃないでしょうか?否、天才です。裁縫も完璧にこなすなんて、お嬢さまは天才です!」
「それ呪詛!それ呪い入ってる!確かにステッチ細かくて凄いけど、それ俺ですら知ってる有名な呪いの言葉ぁ!しかもよく見たら所々髑髏!趣味悪い!これ、趣味悪い!!」
「何ですって!?自分がもらえないからって嫉妬は止めていただけますか。確かに身につけると体が重くなって動きにくいし力も冴えがなくなりますが、それはお嬢さまの愛が私を縛っているからです!」
「いや、それ実際に呪力で縛られてるから!嫉妬とかそんなん沸く一品じゃないから!新妻ルックはお前のキャラクターじゃねえだろ!」
「馬鹿なことを。私はお嬢さまの嫁でいきます。クールで完璧な執事ですが、お嬢さまの前でだけデレるツンデレキャラの嫁でいきます!」
「拒否られてんだろ!呪い受けるほど拒否られてんだろ!目を覚ませぇぇぇ!!」
「・・・伽羅。あやつらは何を言い合っている?」
「先日、私が荷葉へと贈ったエプロンとリボンに関して言い合っているようです」
「ああ・・・あれは中々の出来だった。偉いぞ、伽羅」
「っ、ありがとうございます!───それで、その、私お養父様にも作ったんです」
(───呪いの品をか!?しまった、別のものも教えておくんだった!)
「はい、どうぞ」
「・・・ああ」
「呪いはかけてませんので、安心してくださいね」
「・・・ありがとう」
(───呪いは掛かってないのは嬉しいが、俺はいつエプロンを使うんだろうか)
「目を覚ませ、荷葉!!」
「嫉妬!あなたのそれは嫉妬に違いありません!!おのれ、私からお嬢さまの手製の品を奪おうとする悪魔め!退治てくれる!!」
「お前も悪魔ぁ!!つか、本気で止めろ!」