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たまにはドロリと甘やかに

R15です。

微妙に艶表現入っているのでお気をつけ下さい

自分を腕に抱く男を伽羅は無感動な眼差しで眺めた。

熱の篭った視線に愛しげな抱擁。

端整に整った容貌を綻ばせ、普段は掛けているモノクルさえ何処かに置いた彼は、伽羅を腕にしてこの上なく幸せそうに笑み崩れる。


伽羅を腕に抱く男の名は荷葉。

肩を僅かに越した部分で切りそろえられた髪を揺らし、目尻を赤く染め上げ逃さないと遠慮のない強さで腕に力を込めている。

今現在伽羅が居るのは彼自身の私室で、二人きりの空間ではこの甘ったるい雰囲気を遮るものも居ない。



「お嬢さま」

「何」

「お嬢さま、お嬢さま」

「・・・何?」

「───・・・伽羅」



吐き出す吐息に紛れた言葉。

珍しくも伽羅の名を口にした彼は、嬉しそうに子供のように邪気なく笑う。

ベッドの上で膝に乗せられ、無抵抗な伽羅の髪に顎を埋めて、子猫が甘えるよう擦り寄る。

悪戯な手はいつの間にか腰からスカートへと伸び、素肌へと触れていた。



「伽羅」



それしか言葉を知らぬよう、幾度も幾度も繰り返す。

背に触れる体温は温かく、体全体での拘束は執着を自覚させる。

伽羅以外には怜悧な表情を崩しもしない荷葉は、伽羅に対してはこんなにも無防備だ。

軽く爪を立てるだけで生涯消えぬ傷を残すのも容易だろう。

それくらい他の何者に対しても用心深い彼は伽羅に対し甘く蕩けるようだった。



「愛してます」

「・・・」

「愛してます。愛してるんです」



他の何にも意味はないと、彼はただ繰り返す。

無言を通す伽羅には何も求めず、それでいて拘束の手は緩めない。


矛盾している、と思う。


何も求めていない、尽くすだけで良いと言うくせに、離れるのだけは赦さないという。

いつか来るべき日には、必ず自分を求め利用しろと、彼は幾度も繰り返す。

鏡のように彼の言葉を心で反射する伽羅に、少しでも残そうと、耳に囁き続けるのだ。



「貴女だけです、伽羅。貴女だけが私を狂わせる。貴女が求めるなら、私が全てを叶えましょう。私が貴女の手足となり、貴女を何からも守りましょう。覚えておきなさい、伽羅。白檀様より、落葉より、私の力が優れていることを。そして、その私を、自由に扱う権利があることを」



柔らかな唇が耳朶に触れる。

微かな感触はくすぐったく、首を竦めればくすりと笑われた。


愛しい、愛しいと全身で告げる相手に、伽羅の心は動かない。

それでも人形のように無表情で抱かれながら、彼の言葉を心に刻む。

髪に柔らかな口付けが落とされ、震える吐息が頭皮に触れる。

段々と下がったそれは、首筋へ辿り着くと、幾度も幾度も繰り返し吸い付いた。



「愛しています、伽羅。私の愛しい娘。貴女に私の心を捧げましょう。私の全てを捧げましょう。貴女に尽くし、愛します。ですから───何でも致しますから、どうか、どうかお傍に置いてくださいませ」



伽羅のドレスを脱がし、背中にも唇を落としながら、熱の篭る囁きを留めなく降らせる。

懇願に近い響きでありながら、強制するように拒絶を拒否する。

肩甲骨の上に口付け、そのまま背骨の上を舌で辿られた。

所々で吸い付いて、飽きることなく行為を続ける。

それにどれだけの意味があるのか理解できない。

理解するには伽羅の心は白檀に向き過ぎていた。

そしてそんな程度はとうに理解しているだろうに、荷葉は厭くなく伽羅に触れる。


いつだって彼はそうだ。

伽羅と二人になれば、その瞬間に纏う彩を変え、少しでも離れれば息絶えるとばかりに触れてくる。

普段は低い体温が、こんな時だけ熱くなる。

その熱は少しずつ伽羅にも移り、どうすればいいか判らなくなる。

自分よりも優に一回り以上大きな掌が全身を這い回り、否応なしに追い上げられる。



「伽羅、伽羅。愛しています、私の太乙。愛しき乙女。どうかお傍に置いてください。私に価値を見出して」



荒くなる呼吸が首筋に当たる。

振り返ればきっと普段よりも瞳を潤ませた男が、その怜悧な美貌で伽羅にだけ見せる笑顔を浮かべるのだろう。

理解できないが知っている。


彼が、伽羅を愛していると。


いつか、荷葉が望むままに荷葉を利用する日が来るかもしれない。

そうなれば伽羅が滅する日まで彼は伽羅に執着し続けるのだろう。

瞼を閉じてありありと浮かぶ未来図に、ほうっと熱い息を零す。


荷葉が口にする想いと彼に向ける伽羅の感情には明らかな温度差がある。

『愛する』という想いは悪魔にとって特別なもの。

伽羅以上にその意味を理解するはずの荷葉の言葉は、とても重みがあるものだ。

貞操観念が薄く束縛を嫌うのは悪魔の性分。

それを根本から覆す想いは長い生でも一生に一度あるかないかで、手に入れたなら手放さない。

忠誠心と酷似して、それでいて違う特別な感情。


愛する相手に想いを捧げる。

それこそ悪魔の本能で、唯一の愛の証。

悪魔は口先で愛を囁かない。

魂すら握り潰されても構わないと、心の内を曝け出す。

荷葉の想いは絶大で、疑う余地もない激しさを宿す。



「伽羅、愛してます」



子供のような無邪気さで繰り返される言葉に、何も返さないのが伽羅の誠実さだった。

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