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無責任勇者

作者: ぱいなぽー
掲載日:2026/07/28

俺の名前は佐藤勇気

どこにでもいる平々凡々な高校生3年生だ。

将来の見通しは漠然としていて、何者になりたいかも、これからどうなっていくのかも分からない。適当な近くの国公立大学を目指し、ただ経歴のために進学し、適当に採用された企業に入り、ただ時の流れに身を任せ、周りに合わせて生きて、しょうもない病気で死んでいく

ただそれだけの人生



そんな人生のはずだった



俺は今朝寝坊し、学校に遅刻しそうで、走って家を出た

そしてそのまま赤信号をミスって渡り、車に引かれてゲームオーバー

死ぬ前は本当に世界がスローに見えて、

ああまじで死ぬんだなぁ

なんてどうでもいいことを考えてた

ぶつかった後は背中を肘で殴られたかのように息がしづらくて、痛くて、本当に俺からでたのか?って血がドバドバ出てんの見た時は震えたね

視界はぼやけ、運転手の声も段々聞こえなくなってきてね



そうして佐藤勇気は死んだ



今思い返してもくだらない死に方だなって思う

小学校から交通事故には気をつけろーってさんざん言われてきたんだぜ?

俺はそんな事も気をつけられない人間だったんだなって、ちょっと自分にイライラした



え?



俺は今何処にいるのかって?



それはね、転生の間ってとこらしい

どうやら生物は死後、ここに運ばれてくるんだってさ

死んだ順に生物は並べられ、順に転生するようだ

俺の前に並んでるのはカエルや馬やバッタなんかもいるし、人間の赤子?のようなものまでいた

順番待ちをするのは退屈だった

ここに時間という概念があるのか、そもそも必要なのかも分からないが、体感10年は待ったぞ

さてそろそろ俺の番だ


「げーこ ぐぁー ぐこ ぐぅこ」


「げこ ぐぅこ ぐぅこ」


カエル語?ってやつ?

やっぱ動物にも言語ってあるんだね


カエルはまっすぐと飛び跳ねていった


「次の方 貴方は佐藤勇気さんですね 死因は交通事故であり、前世での罪はないと判断し、別世界での人間としての生を許可する」


別世界の人間か...俗に言う異世界転生ってやつか

まあ人間に転生しただけマシなのかな?

当たりとかはあるのだろうか


「転生はここからまっすぐ進んでもらえば完了する。また前世の記憶は継承しないので注意を。」


記憶は継承しないのか

でも記憶なしの新しい人生ってどんな感覚なんだろう

結局死んで無になるのと変わらないのでは?

まあいいや

既に死は一度経験した

怖いものなど何も無い


俺はそのまままっすぐ進み眩い光に包まれた



「オギャアオギャア」

この日、世界に新たな男の子が誕生した

名はペトラ 姓はフローケン

牧師風の大男がその赤子を掲げると、

「この子は勇者の末裔に相応しくない!見ろこの黒色の髪を!穢れた魔族の血が混じっているに違いない!」

どうやらこの子は勇者一族の末裔だが、一族の特徴である金髪を引き継いでいないらしい。

それもそのはず、この子は元は死産だったところに別の魂が入った存在だからね。

ちなみにその魂とは佐藤勇気

つまるところ俺のものである



そう

俺はめちゃめちゃ記憶継承していた

最初は俺も驚いた

覚悟決めた次の瞬間には豪華な天井が見え、なんだろうと思ったのも束の間この有様だったからな

とにかくいろいろ起こりすぎて、頭がパンクしそうだ

えーっと、まずは消えるはずの記憶が継承していて、俺は勇者の末裔で、でもこのままだと殺される可能性大か...


勇者一族なのは不運なのか幸運なのか...これじゃわからないな


そう一人嘆いている間に、牧師の男と、偉そうなデブが話し出す



「国王様!新たに誕生した勇者一族の子が金髪ではありませんでした!どういたしましょう!」

「ふむ 国民に新たな勇者一族が誕生すると宣伝しておいてこの髪では不安を掻き立てるに違いないな

幽閉して代役を立てるか、いっそこのまま国民に公表するか...どうしたものか」

「髪を金色に染めるというのはどうでしょう!これなら国民に公表しても大丈夫でしょう!例え後から色が落ちても、呪いがどうのと言っておけば、バカな国民は騙せるでしょう!」

「なるほど 名案だ。ふむ...おい!貴様ら!すぐに金色の塗料を集めよ!」


こうして、俺ことペトラの髪は金色に染められ、国民は新たな勇者一族の誕生を心から祝った


俺ことペトラは乳母に育てられ、親の顔も知らないまま成長していった


―10年後―


王国の学校にて―

「おい魔族!どんな顔して今日も生きているんだ?」

「あはは...」

「笑ってんじゃねえぞ!」

そういうと強気な少年は黒髪の少年を数発殴る

俺つまりペトラは虐められていた

原因は髪の色だ 俺の偽金髪は1年程で黒色へと戻ってしまった。

しかしここで国王にとって良いことが起こる

俺にアーサーという弟ができたのだ

しかも奴は金髪で正当な勇者の血の継承者だった

何より、才能が素晴らしかったのだ

歴代で類を見ないほどの天才でほとんど初代勇者に近いらしい

それで俺への注目はゼロになった

これが国王にとっては俺という汚点が勝手に消えてくれてラッキーなのだ

そして俺はというと、王国学校で勇者の姓を持ちながら、黒髪ということで魔族と言われ、虐められている。


俺は結局なんだったんだろうか、前世でも何者にもなれず、今世ではこの仕打ち

神は俺の事が嫌いなのだろうか?

もう生きてても楽しくないな...

この世界から俺が消えたところで、誰も悲しむ人間などいないだろう


俺はホコリで塗れた制服を手で払い、立ち上がると、自分の席に着いた。

「大丈夫?痣になっているじゃない!」

そうして俺の傷に回復魔法をかける一人の女の子


そうだった


この腐った世界でただ二人

この子と彼だけは違った

俺を人として扱ってくれるこの子は俺にとって天使のような存在だ

この天使の名はマリア

まるで聖母マリアまんまのような人間だ

この子だけは守り抜くと誓った


―放課後―

俺の身体はボロボロだが、ボロボロなのはなにも虐めだけが原因ではない

俺は自分を鍛えている

筋トレをし、剣を振り、雑念を払い、強くなることを意識し続けた


前世で漠然と生きていて気づいたのだ

こんな莫然と生きて、周りに流されているのはくだらないのだ と

自分から挑戦することを諦め、自分の限界が見えてくるのが嫌で努力せず、大した結果でもないのに、俺は何のしなくてもこんなに凄いんだぞと、見栄を張る生き方はもうやめた

全力で生きて、いつか死ぬ

そんな生き方の方がマシであると気づいたのだ

もっと早い段階で気づくべきであった

後悔してももう遅かった

だが俺はどうだ?次の人生、やり直す機会があった

ならば同じ過ちは繰り返すまい と俺は毎日自分を鍛えている。


そうして日課を終わらせた後、クタクタの身体に鞭を打ち、家へと帰る


―次の日―

今日はマリアとのデートだ

俺は前世では恋愛なんて挑戦してこなかった

今世では当たって砕けろ精神でいくことにしたのだ


「おはようペトラ!今日はいい天気ね!早速行きましょう!」

ああ、いつ見ても天使だ

銀色の美しい髪が良く似合う子だ


「そうだね、まずは本屋さんに行こうか!」


二人並んで道を歩き、色んな場所を巡っては、楽しい時を過ごした

そうして解散の時間が近づき、俺はマリアを家まで送り届けた


「じゃあ今日はもう解散しようか!じゃあねマリア!」

俺は自分の家へと帰ろうとした


「待って!」

呼び止めるマリア

一瞬時が止まったかと思うほどの緊張感

振り向く俺

「どうしたの?」

一体どうしたのであろうか?告白?そんなDT的思考がよぎる

「あの...アーサーの好きな物を教えてくれないかな?」

...は?


思考が止まる

その間にも顔を赤らめながら何かを語るマリア

しかし、俺にはもう何も聞こえていなかった

最初から心の奥底で俺も考えてはいた

俺と関わるような女子がいれば、それはアーサーとの繋がりをもつ手段として使う奴がいるのではないかと

まんまと引っかかってしまったわけだ

いや、勘違いをしていたのは俺の方か...

勝手に相手が俺を好きだと勘違いし、優しさを好意と認識するような大馬鹿者は俺だった


俺はそこでマリアになんて答えていたのか覚えていない

もしかしたらぼーっとしていたのかもしれないし、かろうじて返答だけはできていたのかもしれない

でも俺にはもうどうでも良かった


その日の自主訓練は荒れた

手から血がでても剣を振り続け、雑念なんていくら経っても消えることはなかった


そうして家に帰った後俺はベットで静かに泣いた


―7年後―

俺も17になった

ちょうど前世で死んだくらいの年齢かと思うと、ちょっと感慨深いところがある


所で、今日は異世界転生の一大イベントがある

それはなんと...魔王討伐だ

魔王がいることは何となく予想していたし、王国学校でも習った。

魔王と勇者の関係はおよそ500年にも及ぶという

初代勇者が魔王を封印してちょうど今年で500年目

そろそろ封印が解けるってことで、討伐隊が組まれた

もちろん中心は勇者一族で筆頭はアーサーだ

まあ奴がいれば大丈夫だろう

アーサーの成長は凄まじいものだった

9歳頃には大型魔物を一人で5体同時に倒せる程だった 普通なら大型魔物1体につき、軍人が数十人必要だ

アーサーは人類の希望となった


俺はというと、自分にできることをしたつもりだ

訓練は毎日続け、学校にも毎日行った

俺も成長期に入り、訓練も相まってかガタイがよくなってくると、虐めも自然と無くなっていった

マリアはというと、7年前のあの日からあまり関わってない

少し会話を交わすくらいだ


さあ、あと数分で討伐隊が迎えに来る

やっぱり、魔王っていうと恐ろしいな

脳内に浮かぶのは死の文字

1度経験したとはいえ、怖いものは怖い


「魔王討伐隊だ!ペトラ=フローケン!迎えに来たぞ!」

ああ、遂に来た

もう後戻りはできない


―魔王城―

ふう...アーサーがいるとやはり魔王軍は敵ではないらしい

しかもアイツがいるって安心感で隊の士気まで上げやがるんだから、正真正銘最強だな

俺はというと数匹リザードマンを殺し、オークや吸血鬼も殺した

学校でも演習で魔物を殺すことはあったが、その感触は最悪だ

人に近い形をしたものを切るし、悲鳴をあげてくるし、人語を話すやつまでいた

命乞いをされた時は躊躇しそうになったが、その一瞬で魔物は隊士を2人殺して、回復した

俺はもうそこから、同じ生物と思わないことにした


しばらくして

魔王が見つかったらしい

俺は隊の後方にいるからまだ見当たらないが、果たしてどんな見た目なのか



ん?ドアだ





ゾワッ





ドアに手をかけた瞬間

全身に鳥肌が駆け巡った

容易に死が感じられる空気

ドアを開くとそこで人の形を保っていたのは、アーサーだけであった

前方部隊が全滅していた

道中活気に満ち溢れていた空気はもうそこには存在しなかった

あるのはただアーサーの孤独感と深い絶望、赤黒い血と肉だけ


後方部隊の足がドアの内側に入ることはなかった

皆怖いのだ目の前の血と肉のようになってしまうのが

だがそこで、足を踏み入れる男がただ一人いた

男は勇者の姓を持ちながら黒髪で鍛え上げられた肉体を持つ男

男はアーサーのもとまで疾走した

「大丈夫か!アーサー!」


こちらに気づくアーサー


「兄さん!ありがとう!」

彼の心は清らかでペトラを虐めたことなどないし、見かけると必ず止めていた

心まで勇者だったのだ

マリアがこいつに惹かれたのも納得だった

「行くぞ!アーサー!」

男が掛け声と共に、魔王に挑む

魔王は禍々しく、骸骨のような顔に7尺のペトラの数倍はあるであろう肉体、いや骨体をもつ化け物であった


「ふはははは!勇者が二人!しかも金髪と黒髪だと!勇者の雰囲気を持つのに黒髪とは一体どういうことか...」

魔王は勇者が2人でも余裕だと言わんばかりに喋る

そんなことは気にせず、挑み続ける2人

アーサーはもちろんのこと、ペトラのスピードもアーサーに食いついていた

それもそのはず、彼にも勇者の血が流れ、途方もない努力を続けたのだから当然であった


二人と魔王の攻防は30分に及んだ

すると魔王は痺れを切らしたか、

「はぁはぁ...やるではないか はぁ...終焉魔法で2人まとめて消し飛ばしてくれる!」


すると魔王はバリアを作り、呪文を唱えだした


「クソッ!なんて硬さだこのバリア!アーサー!どうにかならないか?」

「兄さん...こっちも魔法を使おう!魔力を貯めている間は動けないから、その間警護をお願い!」

俺は頷くと、アーサーを見守った


「偉大なる精霊たちよ 我が願いに答え 力を貸したまへ 我が剣に収束し 我が...」


しかし無情にも先に詠唱が終わったのは魔王であった

「さらばだ勇者よ!」

終焉魔法が放たれる


この時俺は何を思ったのだろうか、終焉魔法に向かって、剣を振った

なぜこの選択をしたのかは分からない

アーサーを庇いたかったのだろうか、アーサーに希望を見出していたのか

アーサーを好きなマリアを悲しませたくなかったのか

俺の身体は勝手に動いた

すると、魔法は起爆し、俺は入り口のドア付近まで吹き飛ばされた

ああ、これだ

この息ができない感じ

交通事故の時に味わったようなこの感じ


そしてアーサーは詠唱を終え見事魔王を打ち倒していた。

「見事だ 現代の勇者よ」といい魔王は消滅した


アーサーは黒髪の男に駆け寄る

「兄さん!兄さん!貴方は死んじゃ駄目だ!功労者が死んでどうするんだ...」

ああ、今世も幸せだったな

「アーザァ...マリァ 頼む」

これが俺の最期の願いだ

「何言ってるんだ兄さん!マリアを頼めるのはのは兄さんだけだろう?だってマリアは兄さんのことがずっと好きだったんだから」


何を言っている?


確かにアーサーの好きな物を教えてくれって...

待てよ、その後マリアはなんて言ってたっけ?

「兄さん!兄さん!そんなの無責任だ!」

無責任か―

アーサー黒髪の男の手の冷たさをひしひしと感じていた


その後天使のような銀髪の女が来ても、

黒髪の男の目が開く事はもう無かった

あんまし後味良くない話だったかもです。

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