ラブレターは突然に
「ふう、やはりアフタヌーンティーは心を豊かにしてくれる。荒んだ心を癒やしてくれる。そう思わないか、麻友?」
私は、ティーカップを置き、麻友をちらりと見た。
「そうですね、特売で売ってたティーバッグで心が癒やされるなら安いものです」
「⋯⋯」
「それはそうと、会長。もうすぐ副生徒会長が来ますよ」
副生徒会長──西園寺かなた。性別は女。頭脳明晰、ルックスも良く、雑誌のモデルをやっている。
「あいつが来ると騒々しくなるな。私は、あいつが苦手なんだ。距離感が近くて困る」
「まあ、私には害はないですけどね」
そんな話をしていた時だった。生徒会室のドアが開いた。
「やあ、みんなお揃いで」
ショートカットの栗色の髪を右手で整え、左手を腰に当て現れたのは──副生徒会長、西園寺かなただった。
「仕事が忙しくて大変大変。ようやく今日から復帰できるー」
きらきらした背景を背にしてにこやかに微笑むかなた。
「会長、会いたかったよ」
私は、部屋の隅に避難した。
「私は会いたくなかった」
「ふふ、可愛いなぁ。ボクは君に会うために生まれてきたんだ。早く結婚したいね」
「⋯⋯残念だが、私は男が好きだ。百合属性はない!」
「つれないなぁ、そうなると無理矢理にでもこちら側に来てもらおうかな」
「ち、近づくな!」
私の肩に腕を回すかなたを振りほどこうと、必死になる。
「麻友ちゃん、ボクらは席を外すね」
「ごゆっくりどうぞ」
麻友は、我関せずといった様子で見送る。
廊下に出ると、男子と女子の大群が出待ちしていた。かなたを待っていたに違いない。こいつ、女にも男にももてるんだよな。
「みんな、今日は会長と遊ぶからまたね」
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黄色い声援が聞こえ、卒倒する者も現れる。こいつの人気ぶりには呆れて物が言えない。妬ましい。
「このまま二人で校舎裏にでも行こうか」
かなたの息づかいは荒く、ハートの瞳をしている。
「や、やめろ! 私には百合属性はない!」
「ないなら無理にでもこちら側に来てもらうしかないよね」
「私は男が好きなんだぁぁぁ! 男が欲しいんだ!」
「会長、公衆の面前でそんなこと言っていいのかな?」
クスクス笑うかなた。
周囲を見渡すと。
「よっぽど飢えているのでしょうね」
「会長ともあろうお方が嘆かわしい⋯⋯」
私を見て、生徒たちが哀れみの視線を投げかける。
「何を見ている、お前ら!」
キッと睨むと慌てて生徒たちは、視線を外した。
そうこうしているうちにシューズボックスまで来てしまった。
「さあ、行こうか。快楽の向こう側へ」
「は、離して⋯⋯くれ」
ふと見ると、私のシューズボックスに手紙が挟まっていた。
「こ、これは──ラブレターというものでは?」
「果し状じゃないの?」
「⋯⋯」
私は、かなたを睨んだ。
「ははは⋯⋯冗談だよ。いやあ、今どき古風な人がいるね会長。もてもてじゃん。嬉しそうだね」
「ば、馬鹿⋯⋯そんなラブレターのひとつやふたつで私が有頂天になるとでも思うか」
「足がぷるぷる震えて生まれたての子鹿のようだけど、大丈夫?」
「こ、こここれはだな、寒いんだよ」
「今は真夏だよ」
しんと静まり返る私とかなた。
「うっさい! うっさい! うっさい! とにかく私はラブレターごときで動揺していない!」
「開けてみなよ?」
「うん⋯⋯」
手紙は、こんな内容だった。
『放課後、3Aクラスにて〇〇』
「会長、達筆過ぎて最後のほう読めないんだけど⋯⋯文章からするとやはり果し状じゃないかな?」
「は、ははは果し状名わけないだろ? どうして私に果し状が届くのだ?」
「それは会長の日頃の行いが悪いんじゃないの?」
「私は生徒会長だぞ。生徒たちの見本になる者が人に恨みを買う行為をするわけないだろ?」
「このあいだ不良五人を血祭りに上げたとか聞いたけど」
「⋯⋯あれは、あいつらが一人の男子をよってたかっていじめていたから助けただけだ」
「たぶん、それの仕返しじゃない?」
「そうなのか⋯⋯」
「とにかく行くしかないね」
私とかなたは放課後、3Aクラスに行くことにした。私が教室の中に入ると、すでに待ち構えていたのか、黒板の前に立っていた。
「お前は⋯⋯」
見覚えがある。こいつは──不良五人組にいじめられていた男子だ。
「このあいだ助けてくれてありがとうございます⋯⋯僕、二年の佐藤港と言います」
彼は、そう名乗った。背は大きいが痩せ型で眼鏡をしている。
「そうか、ところで、ここに呼び出した用件はこないだの礼か? 私には、果し状に見えたが」
「僕の文字は、達筆過ぎて読めないってよく言われます。あの時のお礼が言いたくて手紙を出しました」
目を伏せる港。
「礼なら会ったときにでも言えばよかったんじゃないか?」
「いや⋯⋯いつも会長は機嫌が悪そうで話すタイミングがなくてこのような形になりました」
機嫌が悪そう?
私いつもそんなふうに見えているのだな。
今度から気をつけよう。
「よかったら会長のそばに置いてください、何でもします」
港は、顔を上げた。眼鏡の奥の瞳には、決意が感じられる。
「いや、私は⋯⋯そういうのは⋯⋯」
「会長が好きなんです」
港は、真剣な眼差しでそう言った。
「す、すすすすすす好き? 私のことが?」
「はい」
体が熱くなり、目の前が動悸で歪んだ。
「だから、そばに置いてください」
「好き? 私のことが好き? 本当だろうな? 嘘つかない? 嘘ついたらハリセンボン飲ますぞ?」
「嘘じゃありません、好きです」
「好き⋯⋯私のことが好き。つまり愛してる。つまり結婚⋯⋯つまりつまりつまりつまりつまりつまり。愛されてる? 私は愛されてる?」
私は震える手を握りしめ、こう言った。
「港⋯⋯結婚を前提に付き合おう」
教室の外で、かなたが頭を抱えていた。




