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転生エルフ拳法家~人間80年エルフ40年 極めた拳で敵を打つ~  作者: 男爵平野
プロローグ

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2/2

転生

 世界が真っ白に染まっている。自分の意思はあるものの、身体がない。

 これが、死後の世界か。天国か地獄か。闘いに身を浸していたものとしては、おそらくは地獄なのだろう。


『早合点だな』


 不意に、声が聞こえる。いや、聞こえたのではない。自分の意思に差し挟まれた。そんな印象だ。


『まあそうだな。今のお前には身体もない。ゆえに鼓膜もない。だから我はお前の魂に語りかけている』


 魂。やはり自分は死んだのか。そう思う。


『死んだ。お前は拳の頂に届き、そして死んだ。その力を発揮することなくな』


 理解していたが、事実を突きつけられると気持ちが沈む。せめて、せめて一度だけでもこの拳を振るえれば。悔いだけが残る。


『この場において疑問ではなく悔いか。なるほどお前は頂きに相応しい存在だ』


 謎の存在が面白がるような気配が伝わってくる。相手の意図が分からず、黙して待つ。とはいえ、元から言葉が発せられる状態ではないのだが。


『我としてもお前のような存在がこのまま朽ちるのは惜しい。お前の到達した場所は、それだけの価値がある。ただの人でありながら、拳の高みに達する。紛い物ではなく、本物の拳、それを極めたお前は無二のものだ』


 褒めそやされるが、意図が分からない。

 どうであれ、自分は死んだのだ。

 死んでしまえば、全て無に帰す。

 共に拳を磨いた盟友も、何度も死闘を演じた宿敵も、憎むべき怨敵も、愛した人も、死ねば消えてなくなった。後にあるのは、思い出だけだ。

 思い出で、拳は振るえない。


『そうとも限らん』


 だが、存在はそれを否定した。


『確かにあの世界でのお前は死んだ。遺体も荼毘に付され、骨もやがては墓の中で朽ち、その墓すらもいずれは時と共に風化して消えゆくだろう。あの世界ではな』


 また黙する。目の前の存在がなにを言いたのかが分からない。


『先ほども言ったが、お前が朽ちるのは惜しい。だが、あの世界では拳の真価は発揮できぬ。なれば――』


 そこで一拍置いた。存在の意識が自分へ強く向けられているのを感じる。


『お前、もう一度生きてみる気はないか? それも、闘いの絶えぬ世界で』


 ぞくりと、全身が怖気立つのが分かる。

 いや、今は身体がないから、魂が怖気立っているのか。

 そんなことはどうでもいい。今この存在はなんと言った。

 闘う。闘える。自分が。もう一度生きて闘える。この拳を以て闘える。


『っ、ふふ、やはりお前は面白い。そういう心意気だからこそ、か。いい、いいぞ。我はお前がどこまで昇り詰めるのか、見てみたい。拳の頂には達した。では、その先は? 拳の頂のその先。拳の天空。そんなものに到達できるとすれば――それはあの世界で高みに達したお前しかおるまいよ』


 歓喜が爆発する。自分がもう一度闘える。


『我が管理するあまねく生命は全て短く、儚く、脆い。だからこそ、そんな生命が全てをかけて到達した場所は美しく、目を奪われる。お前のような存在は素晴らしく、そして我の存在時間をもってしても稀にしかいない。ゆえに、我はお前の辿り着く先を見てみたい』


 本当に、本当にもう一度生きられるのか。それも、闘争に身を置けるのか。


『二言はない。とはいえ、お前が次の生をどうするかは自由だ。拳に生きず、そのまま生を楽しむのも自由だ。お前がどう生きようと、二度めの生に我が干渉することはない。好きに生きよ』


 そうはいかない。恩は返す。


『恩、だと?』


 そう、恩だ。そちらが好奇心にしろ、なんの思惑にしろ、自分がもう一度闘える。死んだ自分が闘える。それは、恩だ。返しきれない恩だ。

 自分は善人ではない。拳に全てをかけた人間だ。傷つけもした、破壊もした。憎まれもした。

 だが、恩は忘れない。干渉することがないのだとしても、恩は忘れない。

 それは、ちっぽけな自分の矜持だ。


『ふ、ふふ。いいな。とてもいい。やはり、お前を見ていた我の判断は間違ってなかった』


 そうして、存在からなにかが放たれ、自分の魂へとまとわりつく。それは熱く、強く、そして美しかった。


『こうして話しているのも面白いが、お前を送り出した方が面白いことになるだろう。我の独断だが、お前が存分に拳を振るえる、そんな存在へ生まれ変わらせる』


 言っている間にも、存在の発するなにかが自分の魂へと染み込んでいく。おそらくは、生まれ変わらせるための手順だろう。

 それが終わる前に、魂だけの存在でありながら、礼をする。

 幾度行ったか分からない、拳法家としての礼。

 右の拳を、左の手の平に当てる。それが知覚されたかどうかは分からなかったが、存在が笑ったような気配を感じた。

 そうしてそのまま、魂の意識は溶け消えていった。


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