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第3話:騎士団もギルドも魔術師も、使えない「置物」は即廃却。本日から「成果報酬制」を導入します

 新生国家『王立更生・復興総商会』の朝は早い。

 旧王宮の大広間――現在は『総商会第一執務棟』と改名された場所には、国内主要三組織の幹部たちが一堂に会していた。


「な、なんなのだこの扱いは! 我ら高貴なる騎士を、平民同然の受付に並ばせるとは!」

「魔術師団の予算が凍結されているとはどういうことだ! 実験用の高級クリスタルが買えないではないか!」


 ふんぞり返る中年太りの騎士たちと、高価なローブに身を包んだ傲慢な魔導師たち。彼らはまだ、自分たちが「整理対象の在庫」であることに気づいていなかった。


「……静粛に。総裁、エルゼ・ド・ヴァレンティーヌ様のお成りです」


 筆頭秘書ルナの透き通るような声が響くと、広間の空気が一変した。

 エルゼが軍靴の音を響かせ、手元に分厚い査定資料を抱えて登壇する。その左右には、彼女が選抜した三人の「執行役員」が控えていた。


「おはようございます、皆様。……いえ、本日で解雇クビになる方々には、『さようなら』と言った方が正確でしょうか」


 エルゼが事務的に微笑むと、広間に怒号が飛んだ。


「解雇だと!? 私は名門公爵家の……」

「シグリッド執行役員、お願いします」


 エルゼが短く促すと、騎士団長シグリッドが前に出た。彼女は「鉄の女」の異名にふさわしく、腰の長剣をガチリと鳴らす。


「旧騎士団副団長、ボルドー。貴殿は過去5年で、部下の訓練予算を私的な酒宴に流用。さらに、実力のある平民出身者を家柄を理由に不当解雇した。……今日この瞬間をもって、貴殿の階級を剥奪し、騎士団から追放する。その鎧は商会の備品だ。今すぐここで脱げ」

「な、なにぃっ!? 公衆の面前で脱げというのか!」

「脱がないなら、私が斬り裂いて剥ぎ取るが? どっちがいい?」


 シグリッドの殺気に押され、ボルドーは涙目で重い鎧をガチャガチャと脱ぎ始めた。それを見たエルゼは、淡々と次のターゲットへ視線を移す。


「次はギルドですね。ミラ執行役員」


 冒険者ギルドのトップ、ミラがニヤリと笑い、帳簿を叩いた。


「はーい。ギルド理事の皆さん、お疲れ様。あんたたちが冒険者の報酬からピンハネしてた『特別手数料』、全部バレてるよ。金額にして金貨20万枚。……今すぐ返せないなら、あんたたちの屋敷をギルドの『初心者用安宿』に改装させてもらうからね。あ、ついでに看板娘を口説いてたセクハラ罪も加算しとくよ」

「そ、そんな……! あれは接待の一環で……!」

「黙りな。あんたたちの席はもう、実力派の若手に譲ってもらったから。さあ、警備員ガードさん、このゴミ掃除お願い!」


 ミラの合図で、かつて虐げられていた若手冒険者たちが、青ざめる理事たちを次々と引きずり出していく。

 最後は、不気味な沈黙を守っていた魔術師団だ。


「テレーザ執行役員、どうぞ」


 魔術師団長テレーザは、眠たげに欠伸をしながら、巨大な魔導書を閉じた。


「……攻撃魔法の出力自慢しかできないセンセーたち。君たちの『燃費の悪い火球』はもういらない。今日から魔術師団は、インフラ整備部門に統合する。……あ、拒否する人は、魔力を自動で吸い上げる『街路灯のバッテリー』として、広場に24時間立っててもらうけど、いいかな?」

「ば、馬鹿にするな! 我ら高潔なる魔導師を、照明器具扱いだと!?」

「いいよ。じゃあバッテリーね。強制執行フォース


 テレーザが指を鳴らすと、反抗した魔導師たちの足元に魔法陣が展開され、彼らは言葉を失ったまま次々と「魔力抽出装置」へと転移させられていった。


「……以上で、一次リストラを完了します」


 エルゼがパタン、と資料を閉じる。

 広場には、有能な若手と、恐怖で直立不動になった中堅だけが残っていた。


「これより、王立更生・復興総商会は『成果報酬制』へ移行します。家柄はゴミ箱へ。実績こそが唯一の通貨です。……シグリッド、ミラ、テレーザ。彼女たちの指示に従い、一週間以内に王都の機能を正常化させなさい。できない者は、カイル元王子の隣に席を用意します」


 その頃、王都の地下――下水道。

 エルゼの名前が出た瞬間、カイル元王子はヒクッと肩を揺らした。


「はぁ……はぁ……、もうダメだ……腰が、僕の王子様だった腰が砕ける……!」

「何甘えたこと言ってんのよ! ほら、あっちの排水溝に特大の『汚物の塊』が詰まってたわよ! 早く手で退かしなさいよ!」


 リリアーヌが、エルゼから支給された(カイルへの嫌がらせ用)特製鞭を地面に叩きつける。

 二人の目の前には、「ドブ掃除のノルマ表」が掲げられていた。


「リリアーヌ……君、最近僕への態度が……というか、その鞭の振り方、騎士団員より手慣れてないか……?」

「愛なんてお腹が膨れないもの! あんたが働かないと私のパンが減るの! ほら、さっさとヘドロを掴みなさい! この粗大ゴミ王子!」


 かつての「真実の愛」は、今や「1ミリでも多くパンを確保するための生存競争」へと進化を遂げていた。

 カイルは涙をドブ水で洗い流しながら、今日も今日とて、鼻を突く異臭の中に手を突っ込むのだった。


ーーー


「……ルナ、次の案件は?」

「はい、エルゼ総裁。……救出した奴隷たちの中から、非常に高い計算能力を持つ少年が見つかりました。彼の配置をどうされますか?」


 王宮(総商会本部)の窓から、エルゼは活気づき始めた街を見下ろす。


「私の直轄に置きなさい。……これからの時代、剣よりも魔法よりも、正確な『数字』が国を支配するのですから」


 エルゼの眼鏡が、冷たく、そして勝利を確信したようにキラリと光った。


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