4・魔術師長は爆弾発言を繰り出す
アステリエ王国において魔術の腕前がピカイチで、容姿も良い人物といえば――。
「それってもう、魔術師長とかになるんじゃ……」
「えっ、シリウス魔術師長っ!? 無理無理無理!」
ぽつりと呟いた私に、アリスは椅子から転げ落ちそうな勢いで身体をのけぞらせた。
大きな瞳をさらに見開いて、ぶんぶんと全力で首を横に振っている。
「いや、たしかにシリウス様の見た目は抜群にかっこいいよ!? でもあの人、めっちゃ厳しくて怖いじゃん〜!」
アステリエ王国魔術師長、シリウス・ヴェルナー。
魔術師団出身の叩き上げで、26歳という若さでありながら省のトップにまで上り詰めた。その上、優秀な魔術師にのみ与えられる爵位――魔術士爵の称号までもっている実力者だ。
銀の髪と左右で色の異なる瞳が印象的で、一度彼を見たら忘れる者はいないだろう。
涼やかな美貌と孤高さ、そして自他ともに厳しいことから、彼は氷狼の魔術師と呼ばれ恐れられている。
「こないだも、廊下で結界担当の人を叱ってたしさ〜」
(確かに厳しい人ではあるけど……。怖い人ではないんじゃないかな)
ぼやくアリスの声を聞きながらも、私の脳裏には遠い記憶がよみがえっていた。
今から五年ほど前のことだ。
父の葬儀に訪れたシリウス様は、誰よりも静かに、深く頭を下げてくれた。
涙をこぼす私に、そっとハンカチを差し出してくれたことも覚えている。
(それだけじゃなくて……葬儀の少し前にも、何度か会ったことがある)
魔術省で再会してからは、シリウス様と言葉を交わしたことはほとんどなく、部下として遠目で眺めているだけではあるが……。
「そういうセレフィアこそ、いい人いないの〜?」
「えっ、私?」
アリスから突然話題を向けられ、気の抜けた声が漏れてしまった。
「だってセレフィアってめちゃくちゃ可愛いじゃん? なのに、セレフィアの恋愛話をほとんど聞いたことないからさ〜」
「私は――」
私はアリスのように可愛いらしいわけではないし、恋愛するような相手も予定もない。
恋愛も、結婚も、自分には縁遠いものだ。
そう言いかけた瞬間だった。
「話し中に失礼」
低く澄んだ声が、事務室内へと割り込んできたのは。
「し、シリウス様……っ!?」
アリスが椅子の音を立てながら振り返って声を上げる。
私も追うように視線を向ければ、開いた事務室の扉の前に、シリウス様が立っていた。
シリウス様は、驚く私たちに構うことなく真っ直ぐにこちらへと歩み寄ってくる。
銀の髪が歩みに合わせて揺れ、格式張った外套の裾が静かにひるがえった。その姿には一分の隙もない。
つかつかと私のいる事務机のそばまでやってくると、シリウス様は私を見下ろした。
右はアンバー、左はライトブルーのオッドアイが、真っ直ぐに私を射抜く。
鼻筋の通った顔立ちは彫刻のように端正で、間近で見た冷ややかなその美しさに、思わず息を飲んでしまった。
「セレフィア・ウィンストン。今、よろしいですか」
「……は、はい!」
突然の上司の来訪に思考が止まっていたが、シリウス様に名前を呼ばれて咄嗟に私は立ち上がる。
「単刀直入に聞きます。現在、婚約者はいますか」
「い、いません!」
「恋人は」
「いないです」
「思いを寄せている方は」
「……いないですけど」
(一体なんの質問なのこれ)
馬鹿正直に答えたはいいものの、シリウス様の質問の意図がつかめない。
困惑で眉をひそめる私に対し、シリウス様は真顔で爆弾発言を落としたのだ。
「でしたら私と、結婚してください」
「…………えっ?」




