3・可愛い同僚
「セレフィア、お疲れさまっ!」
「アリス……!」
明るい跳ねるような声に振り返ると、金髪をふわりと巻いた可愛らしい小柄な女性――同僚のアリスがそこに立っていた。
「一緒に休憩しよ!」
「ええ、もちろんよ」
私より一つ年下の彼女は友人でもあり、事務の先輩でもある。
私に仕事の基本を教えてくれたのもアリスだった。
アリスは空いていた私の隣の席へ腰を下ろすと、手に持っていた紙袋をこちらへと差し出してきた。
「ねね、見てこれ〜! めっちゃ可愛くない〜!? 最近発売されたばかりの新作なんだけどさ、超人気なの!」
言われて袋の中を覗き込めば、花の形をした小さな焼き菓子がぎっしりと詰まっている。
きらきらと輝く淡いピンク色の砂糖でコーティングされていて、確かに可愛らしい。
「毎日行列でさ、2時間待ち! 運良く仕事前に買えてよかった〜!」
「そんなに人気なの? すごいわね」
城下町出身のアリスは、流行りにとても敏感だ。
歳も近く、オシャレで可愛い彼女は、私の自慢の友人だった。
「セレフィアと一緒に食べたくて買ってきたの! 早く食べよ!」
「ふふ、ありがとう」
アリスの屈託のない笑顔に、残っていた仕事の緊張がほぐれていく。
くすりと笑いあいながら、私はアリスが差し出してくれた焼き菓子へと手を伸ばした。
「セレフィア、仕事は順調?」
「うーん、そうね、今のところは」
二人で焼き菓子をつまみながら、今日の仕事の報告やら愚痴やらを交わす。
一通りの報告を終えると、アリスは大げさなくらいのため息をついた。
「仕事の話よりもさ〜、聞いてよセレフィア〜」
「なに?」
「ぜんっぜん出会いがないんだけど〜!?」
アリスは机に頬を押し付けて、力なく嘆いている。
彼女は、絶賛恋人募集中なのだ。
貴族令嬢としては私の年はいき遅れ扱いされるが、平民だとそこまでではなかったりする。
(アリスは明るいし可愛いから、すぐに恋人ができそうな気がするけど……)
実際はそう上手くはいかないらしい。
アリスと出会って約半年。
その期間ずっと嘆いているのだから、現実とはなかなか難しいものだ。
「あーもう、どこかにすっごく魔力が強くて、すっごくかっこいい男の人いないかな〜!」
「魔力が強いことが必須条件なの?」
「もっちろん! だって強い魔力持ちの人と結婚ってそれだけでステータスじゃん! アリス、そんなに魔力強くないしさぁ」
体を起こしたアリスは、机に肘をついて頬をぷうっと膨らませている。
その仕草が可愛らしくて、思わず小さく笑ってしまった。
世間一般的にはアリスの言う通りだ。この国では容姿や身長、身分と同じくらいに、魔力の有無や強さが魅力として扱われる。
魔力持ち同士の子どもは魔力を受け継ぐ可能性が高い――根拠のない古くからの迷信ではあるが、そんな考え方もいまだに根強い。
「魔術省にはいっぱいいると思うけど」
なんと言ってもここは魔術省。事務はそこまで魔力の強さを求められないが、他の部署はそうではない。魔術の専門家の集まりだ。
むしろ魔力の強い人間しかいない。
控えめに返した私に、アリスは唇を尖らせた。
「えー! だって、魔術師団の人たちは鍛錬とかいって魔術を撃ちあってばっかだし、研究者の人たちはいっつも部屋にこもって怪しげな術研究ばっかやってるじゃん!」
「それは……否定できないけど」
どうやら強い魔力だけでは、アリスの恋人条件を満たせないらしい。
「アリスは、最低限一緒に流行りのお店に行ってくれる人がいいの!」
「なるほどね」
そうはっきりと断言されては、もう苦笑するしかない。
魔術省で働いていると忘れそうになるが、いかな魔術国家アステリエといえども、魔力を持った人間が生まれる確率は約5分の1。
そこから魔力の強さで絞りこみ、さらに容姿も性格も……となると、アリスの理想はどんどん狭き門となっていく。
性格を重視するなら魔術省よりも、街で魔力持ちを探した方が早そうだが……。街で働く魔力持ちはそう多くはない。
アリスの恋路はなかなか険しそうだ。
「それでいて、魔術の腕前ピカイチでー、アリスを守ってくれるかっこいい人がいい!」
(すっごくかっこよくて、魔術の腕前がピカイチねぇ……)
アリスは両手を組み合わせ、うっとりと理想の男性像を語っている。
彼女の言葉を心の中で反芻していると、ふとある人物の顔が思い浮かんだ。




