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氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~  作者: 雨宮羽那
第3章

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26・特別なお客人


 魔術技術交流会のレセプションの夜から、数日が経った。

 私もシリウス様も仕事があるので、翌日以降にゆっくりと話せるわけもない。気づけば再び休日となっていた。


 (……シリウス様も今日はお休みのはずだけど、今何をしているのかしら)


 朝食を食べたあと自室で本を読んでいるのだが、ふと気を抜くとシリウス様のことを考えてしまう。

 あの夜気づいてしまったシリウス様への想いは口に出せないまま、私の心の中に残り続けていた。


 (……いけない。集中しないと)


 小さくかぶりを振って、意識を本へと戻す。

 今読んでいるのは、社交のマナーやルールが記された教本だ。


 魔力や家柄はどうにもならないけれど、知識ならばまだどうにかなると思って読み始めたものだ。


 (シリウス様は、「求めていない」って言ってくれたけれど)


 それでも、何も知らないままでいるよりかは少しでも知っている方がいい。


 (もっと自信をもって、シリウス様の隣に立てるようにならないと)


 私がまた一つページをめくった、その時だった。

 部屋の扉が軽くノックされ、開かれる。


「奥様、失礼いたします」


「オリバー?」


 本を読むのを中断して顔をあげると、執事のオリバーが立っていた。


「旦那様がお呼びです。客間までお越しいただけますか?」


「え? ええ。でも、どうして?」


 (今日は何か予定があるなんて、聞いていないけど……)


 本をそっと閉じて机の上に置く。

 椅子から立ち上がってオリバーのもとへ歩み寄った。


「本日お客様がいらっしゃっておりまして、どうしても奥様のお立ち会いが必要なんですよ」


「……立ち会い?」


 聞き返したが、オリバーはそれ以上詳しくは教えてくれる様子を見せない。

 ただ、意味ありげに目を細め、にこにこと楽しそうに微笑んでいる。


「奥様、行けばお分かりになられますよ。さ、参りましょう」


「わ、わかったわ」


 いまいち状況が飲み込めないまま、私はオリバーに背中を押されるようにして自室をあとにした。


 

 ◇◇◇◇◇◇


 

 客間の前へ辿り着くと、オリバーが軽くノックをしてから扉を開けた。


「失礼いたします。奥様をお連れいたしました」


「し、失礼します」


 オリバーにうながされ、客間の中へ足を踏み入れる。


 まず目に入ったのはシリウス様だった。いつもの堅苦しい外套を脱ぎ、落ち着いた服装でソファに腰掛けている。


 部屋の隅には、マーサが控えているようだ。


 そしてシリウス様の向かいには、見知らぬ年配の女性が腰を下ろしていた。

 深い紫色のローブをまとい、胸元には魔術省の紋章が刻まれたブローチが飾られている。これは、街で働く優秀な魔術師にのみ支給される、いわば証のようなものだ。

 一見すれば優しげな老婆だけれど、彼女の佇まいからはただものではないオーラが感じられた。

 

「セレフィア。こちらへどうぞ」


「はい」


 シリウス様から、隣に座るように促される。

 私は緊張しながらも、シリウス様の隣へ座った。


「初めまして。あなたがセレフィア様ね」


「はい、セレフィアと申します」


「あたくしは、魔術裁縫師のエリゼと申します。結婚式用のドレスを仕立てて欲しいと、魔術師長様よりご依頼いただきましてね」


「ま、魔術裁縫師……!?」


 魔術裁縫師――それは、魔術によって服を仕立てる職人のことだ。魔術が織り込まれた衣服は特別な効果を持つといわれる。

 そのため、魔術裁縫師が仕立てた衣服は価値が非常に高く、基本的には限られた王侯貴族しか依頼することができない。


 (そんな人が、私のウェディングドレスを……!?)


「結婚式というのは一生に一度ですからね。金に糸目はつけません。彼女に似合うものをよろしくお願いします」


 (いや、ある程度の糸目はつけてください!?)


 隣からさらりと聞こえてきたとんでもない言葉に、思わずぎょっとしてシリウス様へ視線を向けてしまった。

 先週のデートで贈られた大量のドレスしかり、婚約指輪しかり、一体この人は私にいくらつぎ込むつもりなのだろう。

 契約結婚のはずなのに恐ろしすぎる……。


「あらあらまぁまぁ、若いっていいわねぇ」


 エリゼ様が私たちを見て微笑ましそうに笑っているが、こちらはもはや乾いた笑いしか返せない。


「本日は採寸と……それから、デザインのご相談をさせていただきますわ。あなたの雰囲気に合わせて、一番美しく見えるものをさがしましょ。さぁ立って!」


「は、はい……!」


 エリゼ様に手を叩きながらうながされ、私は反射的に立ち上がる。


「あらあら、想像以上に華奢(きゃしゃ)だわぁ……。ウエストも細いし……」


 エリゼ様は私の周りをぐるぐると回りながら呟くと、どこからともなくメジャーを取り出した。

 どうやら魔術を使っているようで、メジャーがひとりでに伸びたり縮んだりして、私の身体を測っていく。


「え、えっと……」


 されるがままに測られている私に、シリウス様は珍しくもふっと笑いをこぼしていた。


「セレフィア、そう緊張しなくてもすべて任せれば大丈夫ですよ。エリゼは王家御用達(ごようたし)の職人です」


 (王家、御用達……!?)


 余計緊張する情報を付け足さないでもらいたい。

 シリウス様は私の緊張をほぐしたいのだろうか。増やしたいのだろうか。


「さて、私はしばらく部屋に戻っていましょうかね。こういうのは、女性だけの方がはかどるでしょう。行きますよ、オリバー」


「はい、旦那様」


 シリウス様はそう言うと、オリバーと共に客間を出ていった。

 

 こうして、私のウェディングドレス作りが始まったのである。



 

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