女神の贔屓は呪いレベル
女神は気まぐれだ。
好きな時に、好きなことをする。
行動に一貫性はない。
公平ではないし優しくもない。
慈愛にあふれた女神像は幻想だ。
人間が望んだ姿に過ぎない。
もしくは、教会が自分たちに都合よくこしらえた姿か。
女神に慈愛を望むのは勝手だが、与えられないからと恨んだり悲しんだりするのはお門違いと知るべきだ。
女神はこの世界を創ったが、幾つの国が興ろうと、滅びようと関心はない。
だが、たまに奇跡を起こす。
祝福を与える。
誰かを贔屓する。
稀にでもあるからこそ、人々は女神に期待し、祈る。
愚かなことよね。
そんなことをつらつら考えながら3階の窓辺で日向ぼっこをしているのは、ここ王立魔術学園理事長バルトシュ・ジェリンスキの孫娘であるラウラ・ジェリンスカ、12歳だ。
「ラウラ、またここにいたのか」
ノックもなしに部屋に入ってきたのは、祖父のバルトシュだ。理事長室なのだから、ノックをしないのは当然である。入り浸っているラウラの方がお邪魔している立場だ。
ラウラは窓辺からストンと軽やかに着地すると、バルトシュの足元にまとわりついた。バルトシュはラウラを抱き上げた。
「今回は長いではないか。朝食時にはもう猫だったろう?」
ラウラは肯定の意味で、バルトシュの胸に小さな猫の頭をなすりつけた。
◇ ◇
ラウラは6歳の時に、女神の祝福を受けた。
「魔法の天才になりたい」
そんな子供の願い事が、たまたま女神に届いてしまった。
女神の言うことには、人間は常に誰かしら女神に祈りを捧げていて、ああしてくれこうしてくれ、あれが欲しいこれが欲しい、病を癒せ怪我を治せ、幸せを寄越せ等々、途切れることのない何万もの願いが縺れ合って聞き取れないほどだという。それが何の偶然か、一瞬祈りの波が引き、ひとりの少女の願いがはっきり聞こえてきた。
「その願い、叶えてあげる」
女神は気やすく請け合った。
「たいていの魔法は簡単に覚えるようにしておくわね。それから、一度読んだ文章は忘れない、人から聞いた言葉は全部覚えていて、耳にした音楽は演奏できるようにしてあげる。あとは・・・」
久しぶりの祝福にひどく高揚した女神は、あれもこれもと大盤振る舞いしてくれた。
「ちょっと、やり過ぎたかしら」
散々ラウラに才能を与えた後、弱点がないのも可愛くないわねと言って、それまでの祝福が帳消しになるくらいの呪いのような祝福をくれた。
「ねえ、猫は好きかしら」
「うん、大好き」
「じゃあ、時々猫におなりなさい。可愛いくて、愛すべき弱点だわ。これで鼻持ちならない天才と言われずにすむわよ」
そう・・・かな?
あまりのことに6歳のラウラは、呆然とそれを受け入れてしまった。
こうしてラウラは、稀代の天才魔法使いとしての人生を確実なものにした。と同時に、不定期で猫になり、いつ戻れるか分からないという、全然嬉しくない体質になってしまった。
これではおちおち人前にも出られないし、見つかって何をされるか分からない。猫の時には使えない魔法もあるのだ。人間に戻った時、元通りの服を着ているのがせめてもの幸いだった。
◇ ◇
祖父のバルトシュがお茶を一杯飲み終える頃、ラウラは12歳の少女に戻った。
それまではソファで丸くなっていた。猫の時も思考と知能はラウラのままだが、行動は完全に猫である。暇があれば眠っている。もちろん喋れない。
「おや、戻ったね、ラウラ。今日は窓から何を見ていたんだい」
バルトシュが孫娘に聞いた。
「うーん、なんにも。今年の新入生には、男爵家に入ったばかりの庶子の女の子はいないの?」
「そうだな、庶子の子は男女ともいるが、昨日今日じゃなくて、もっと幼い頃に引き取られているからね。それなりの教育は受けているだろう。身に付いているかは分からんがな」
「ふうん、今年はハズレかあ」
「ハズレとは何だ、ラウラ。ここは学びの場なのだぞ。余計な波風は立てんで宜しい。それと、小さな火種を見つけても、近寄って焚きつけるでないぞ。お前がつつくと女神が加勢するから大事になるんだ。後始末をするワシの身にもなれ」
「はーい。でも、窓から見ているだけなら良いでしょう?」
「まあなあ、目を瞑れとは言わんよ。ただ、あんまり熱心に見つめていると、女神が勝手な演出をしてくるからなあ」
バルトシュは、理事長室の窓を見やった。そこから見下ろせる中庭では、なぜかよく騒動が起きる。
喧嘩だの、告白劇だの、婚約破棄だの、およそ揉め事はここが舞台だ。これは、学園に通えないラウラの退屈を紛らわすために、女神が見世物としてお膳立てしているからだ。
そうとは知らない学生たちは、『事件はいつも管理棟下の中庭で起こる』というのを、学園七不思議の一つに数えている。
騒動の主役たちは、なぜか導かれるように中庭にやってきて、ラウラの眼下で第一声を発する。
そして女神によって観客が集まりだし、ヤジや拍手が促され、風や雷や花吹雪などが添えられ、物語を一層ドラマチックに仕立てるのだ。
すべてはラウラのために。と言うのも、最後に与えた猫になる祝福がラウラを不幸にしていると、女神が遅まきながら気づいたからだ。祝福のせいで不幸になるなど女神の名折れとばかりに、ちょくちょくラウラの機嫌を取りに来る。
ラウラは女神の祝福により、どんな魔法も教わればすぐに覚え、教えてくれた人よりもスマートに発動することができた。書物は高速で読み進め、読んだものは丸暗記してしまう。マナーも芸術も、息をするように簡単に身に付けていった。ただ、教わっている最中に、猫になる予感がして突然席を外すものだから、気まぐれで態度が悪いと思われることもあった。
ラウラは天才の誉れも高いが、バルトシュからすれば人間には過ぎた祝福で、天才というより天災だと思う。何より最後にもらった猫になる祝福が、ラウラの人生における楽しみの多くを奪うと思うからだ。
「私も学園に通いたかったなあ」
ラウラがぽつりと零した。
無理もないとバルトシュは思う。
本来なら10歳になれば、魔術学園に通うことができる。試験と面接はあるものの、ラウラに欠けているものはない。それが、いきなり猫になってしまうのでは、平穏な学園生活は望めない。異質なものに対する子どもの反応は容赦ない。悪魔付きか獣人かあるいは魔女かと、酷いことを平気で言うだろう。
ラウラは入学を諦めた。
たとえ魔法の天才であろうとも、たとえ博覧強記を誇れども、たとえ至福の音色を奏でようとも、猫になった途端、奇異の目で見られるのは避けられない。
学園には通えなかったが、学園生活を覗き見るのは好きだった。
ラウラは昼間、人間の姿の時は、学園の理事長室か図書室にいる。
すでに学園で習うべき内容は履修済みなので、卒業試験だけ受けて満点で卒業している。だからラウラが授業時間中に図書室にいても咎められない。
祝福を受けて以来数年の内に磨かれた勘で、猫になりそうだと感じると、ラウラはとりあえず理事長室に駆け込む。
猫になった時は、天気が良ければ、日当たりの良いところに出向いて転寝をする。窓辺だったり、屋根の上だったり、暑すぎる季節には葉の生い茂った枝ぶりの良い木の上だったり。
天気が悪ければ、理事長室のソファで丸くなる。
たまに毛糸玉を転がして運動することもあるが、ひとりではすぐに飽きる。テーブルから机、本棚、カーテンレールと、だんだん高いところに飛び移って、バランス感覚だの跳躍力を鍛えることもある。これも長続きはしない。たまに絨毯を爪でガリガリして怒られる。
学園の生徒みたいに球技をしたり、ダンスをしたり、皆でやることがしてみたいと思う。猫ひとりではどれも叶わない。せめて猫でいる時間が制御できればいいのに。
目下のところ、ラウラの楽しみと言えば、窓の下で繰り広げられる人間模様の観察だ。
思い起こせばこれまでに、いくつもの楽しい演目があった。
「ねえ、おじいちゃん、木登りして落っこちた男爵家の女の子って、今はどうしてるか知ってる?」
「アンナ・アッシュか? それとも、バルバラ・バクストか、セシリア・カリノフスカか」
「すごい、おじいちゃん、在籍していた生徒、全部覚えているの?」
「いや、あの子たちのやらかしの後始末が大変だったから、印象に残っているだけだ。それに・・・」
「それに?」
バルトシュは言い淀んだ。女神に対して不敬になるかもしれないと思ったのだ。
「それに、何?」
再度問われて、しかたなく答えた。
「あれは、最初から女神の思惑で起きた事件ではないかと、ワシは疑っておる」
「そりゃあ、派手に演出しているのは女神様だけど、そもそもの発端は男爵家の子でしょう?」
「名前がな、アルファベット順なんだ。意図的なものを感じないか? しかもみんな木の上の猫がらみ。ワンパターンもいいところだ」
「そう言えば、似たような経緯だよね。じゃあ、一度ヒットした演目を、女優を変えて再演してるってこと?」
「それだけだと飽きるから、婚約破棄や、派閥争いなんかを交えてくるのだろう」
「私がおもしろがったせいで色々上演してるとしたら、何も知らない演者たちが可哀そうじゃない?」
「まあ女神は気にしないだろうな。この世界は女神のものだから。それに、女神が手を加えなくても、人間が大勢集まれば何かしら起こるものよ」
「そういうものかな」
「ラウラが責任を感じる必要はないぞ。女神がせめてもの償いだと思ってやっているのだろう。楽しんで鑑賞していれば女神も機嫌が良くなって、猫の祝福をなんとかしてくれるかもしれんしな」
そんな話をしていると、窓の外でバキバキと木の枝が折れるような音と、きゃあ、という甲高い少女の声がした。
ラウラは慌てて窓辺に駆け寄った。
「誰だろう」
窓を開けて見下ろすと、体格の良い男子学生が、薄茶色のふわふわした髪の少女を横抱きにしていた。
辺りには木の葉が散らばっていて、折れた枝はだらりとぶら下がっていた。
ニャー、という鳴き声が少女の胸元から聞こえてきた。
男子学生は抱きとめた少女を地面に立たせた。
猫を抱えた少女は、見下ろす男子学生と見つめ合った。
「ありがとうございます。猫が、高いところから降りられなくなって・・・」
「それで木に登って助けたのか?」
少女は自分のしたことが今更ながら恥ずかしいとばかりに、頬を染めて俯いた。
「おじいちゃん、これ見たことあるね」
窓辺でラウラが祖父バルトシュに言う。
「うむ、いちばん最初のアンナ・アッシュの時と同じ出会いだ。手抜きにもほどがある」
「でも、男爵家の子じゃないんでしょう」
「そこに違いを出してきたか。あれは子爵家の次女、ダグマラ・ダンマンだな」
「アルファベットのDまで来たね。ストーリーもこれから変えてくるかな」
「アンナ・アッシュの時は、相手が侯爵家の嫡男だったから、アンナと結婚したいと言い出した時には相当揉めたな。彼には婚約者もいたし」
「真実の愛を応援する派と、貴族の義務を果たせという派に分かれて、あちこちでぶつかってたね」
「学園の貴族教育はどうなっているのだと、ワシも散々叩かれたものよ」
「貴族教育って各家でやるものじゃないの?」
「子どもでもそう考えるだろう? 何しろ爵位が異なるから、画一的な教育は無理なのだ」
「だよね」
「結局、彼は侯爵家の後継を外れて騎士になった。男爵家の庶子と結ばれるにはそれが妥当だろう。一つ違いの弟が優秀だったから、婚約も次男と結び直して、侯爵家としてはそれほどのダメージはなく丸く収まると思ったものだが・・・」
「まさか、アンナに裏切られるとはね」
「侯爵夫人になれないのなら結婚しないと言って、さっさと裕福な商家の跡取りと結婚してしまったのには驚かされた。嫡男だった男の見る目のなさが露呈して、侯爵の器ではなかったと言われてしまってな。あれはさすがに不憫だった」
「だいたいさ、初めからアンナの仕組んだ出会いだったよ」
「ん? そうなのか」
「だって、あの時の猫、私だもの」
「ラウラ?」
「私が猫になって高い枝で昼寝をしていたら、あの子がスルスル登ってきたの。太い枝に腰かけてしばらくじっとしてた。すぐそばにいる私のことなんか気にも留めず、ずっとどこかを見てた。そして急に小声で、来た!とか言って、私を抱え込んだのよ。で、細い枝に移動して足元をグラグラ揺すり始めた。そして枝を折りぬいて、短い悲鳴を上げながら、ちょうど下に来た嫡男目がけて落ちていったよ」
「ラウラも登場人物だったのか」
「猫だけど。まあその後、二人でいい雰囲気になって、私のことなんか忘れて木の下で語らい始めたから、私はとっとと退散したよ」
「嫡男の心を射止めるところまでは計算通りか。だが、男爵家の庶子が侯爵夫人にというのは高望みが過ぎる。現実を思い知らされてからのアンナの変わり身の早さはさすがだった」
「商家の方が絶対向いてるよね。でも、アンナがお咎め無しなのは納得がいかない。おじいちゃんは、その後を知ってる?」
「侯爵家としても、大事に育ててきた嫡男を虚仮にされたわけだから、そのまま放っておくことはしなかったさ。陰ながらそれなりの報復はしたようだ。だからその商家は、もう王都では商売ができなくなって、商いを縮小したらしい。今はこの国にいるのかも分からんな」
「猫と一緒に木から落ちたくらいで侯爵夫人になれるのなら、みんなドサドサ落ちるよね」
「いや、それはない」
「ないか。それはそうよね。高位に嫁ぐ令嬢は、まず木に登らない」
ふと、ラウラが中庭を見下ろすと、先ほどの男女と猫一匹はどこかへ消えていた。
「おじいちゃん、さっきダグマラ・ダンマンを抱きとめてたのは誰か分かる?」
「さて、向こうを向いていたからな。姿勢の美しさから高位の者だと思うが定かでない。子爵の娘が欲を出さねば良いのだが」
バルトシュの呟きはフラグとなって、翌日、中庭を賑わせることになった。
翌日の昼休み。
穏やかな陽光が降り注ぐ理事長室の窓辺で、猫のラウラは外から聞こえる刺々しい声に眠りを妨げられた。今日は部屋に祖父はいない。
「ですから、どうしてあなたは婚約者のいる男性に馴れ馴れしく腕を絡めにいくのです。淑女のすることではありませんわ。はしたないと思いませんの?」
「だって、昨日足を捻挫してしまって上手く歩けないんですもの。たまたま昨日それを見ていたダレック様が手を貸してくださっただけよ?」
「ダレック様ですって!? 昨日知り合ったばかりのあなたが、なぜダリウシュ様を愛称で呼んでいるのかしら」
薄茶色のふわふわ髪の少女を、四人の少女が取り囲んでいる。
「それに、さっきまでは普通に歩いていたように見えましたわ?」
「痛いけれど淑女としてみっともない姿を見せるわけにはいかないから、我慢しているんです」
噛み合わない会話を続けていると、ちらほらと人が集まって来た。
「どうかしたのか」
背の高い男子生徒が真っ直ぐに向かってきた。
「あっ、ダレック様!」
ふわふわ髪の子爵家息女ダグマラ・ダンマンは、パッと笑顔を浮かべたが、すぐに困ったような顔をして俯いた。
「ひとりの女の子を囲んで、君たちは何をしているんだ」
窓辺のラウラは思い出した。あれはダリウシュ・ドランスキ、伯爵家の次男だ。正義感が強く、品行方正な好青年だというが、この場でどちらに味方するだろう。
まだ何も情報がない中で、やみくもに一方を支持するようなら、興覚めだ。たまには違う展開が見たい。ABCは、揃いも揃って婚約者を捨てたから、頼むよ、ダリウシュD。
ラウラの声なき願いが女神に届いたのか、ダリウシュは両方から話を聞いた。
「つまり、ダンマン嬢が、婚約者のいる俺に馴れ馴れし過ぎると注意をしていたと。それに対してダンマン嬢は、捻挫をして足が痛いから俺が助けたと言っているわけか」
「そうです。皆で私一人を取り囲んで・・・、怖かったです」
ダグマラ・ダンマンは涙を浮かべてダリウシュを見上げた。
「いつ捻挫したの?」
「え、それは昨日、あの時に」
「その後、普通に歩いてなかった?」
「あ、あの時はダレック様とはじめてお話して緊張していたから、痛いのに気づかなかったんです」
「あのさ、ダンマン嬢、俺は君に愛称で呼ぶことを許していないのだが?」
ダグマラ・ダンマンの顔が羞恥に赤く染まった。
「あ、あ、すみません、つい」
「つい、何? 婚約者のドロタでさえ、頼んでも恥ずかしがって愛称で呼んでくれないのに、赤の他人の君が勝手に呼ぶのは不愉快だ」
おおお、ダリウシュDよ、よく言った、と窓辺からラウラが肉球を打ち鳴らす。音はしないが。
すると、周りで見守っていた生徒たちも、ダリウシュの毅然とした態度に拍手を送った。人数の割に音が良く響くのは、女神の音響効果か。
ダリウシュの追及は止まない。
「君とは昨日、偶然会っただけだよね。さっきも通りすがりに腕を絡めようとしてきたり、どういうつもりなんだ」
「そんな、昨日は私のことをしっかり抱きしめて、じっと見つめてくれたのに、ひどい・・・」
向かい合って立つ四人の女生徒たちが、二人に厳しい目を向けた。
「誤解を招く言い方はやめてくれ。木登りをしていた君が落ちてきたから、とっさに受け止めただけだ。その体重を支えるのに、力を込めなければ俺も潰れるだろう?」
「じゃあ、あれほど情熱的に私を見つめたのは?」
「君の目が、可愛いドロタの目の色と似ていると思った。それだけだ」
ダリウシュDの真正直な返事に、とうとうダグマラ・ダンマンは居た堪れなくなり、走って逃げだした。
足は? 捻挫は? 痛いのではなかったの? と言う声が彼女を追いかけた。
更に女神が容赦なく、その後ろ姿にスポットライトを当てた。昼間だからそうは目立たないものの、行く先々で人々を振り返らせるには十分だった。
ダリウシュ・ドランスキは、勘違い女のダグマラの姿が見えなくなると、四人の少女の中の一人を呼んだ。
「ドロタ? おいで」
婚約者に優しく呼ばれたドロタは、すっと前に進み出た。
ダリウシュの伸ばした手を取って、はにかみながらその名を呼んだ。
「ダレック様」
その瞬間、落ち着き払っていたダリウシュ・ドランスキの顔が見事に赤くなった。
「今まで、絶対に愛称で呼んでくれなかったのに、なんで、今」
そう言いながら、赤い顔を隠すようにドロタを抱きしめた。
二人の上に花びらが舞い降りた。近くにこんな花は咲いていないのに。いったいどこからだと生徒たちは訝しんだ。
「ああ、今回は真っ当なご子息で良かった」
自分でも気づかないうちに猫から少女に戻っていたラウラが、安堵のため息を漏らした。
「たまにはハッピーエンドが見たいよね」
そんなラウラの言葉を女神が拾って、王立魔術学園の中庭では、しばらく平和な告白イベントが続いたのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。
いずれラウラの成長物語を書きたいと思いますが、今のところ続編の予定はありません。




