エピローグ:ふたりの日々
朝、目を覚ますと、私はクラリスの腕の中にいた。
ぬくもりと静かな呼吸に包まれながら、しばらく目を閉じたまま、ただその存在を感じていた。
こうして目覚める朝が、どれほど尊く、愛しいものか――肌をなぞる指先の余韻が、まだ身体に残っている。
そっと寝台を抜け出すと、クラリスも目を開けた。
「……もう朝か?」と低く呟くその声に、胸の奥がくすぐったくなる。私は小さく頷き、キッチンへと向かった。
朝は、パンを焼いて、ハーブ入りのスープをつくる。
クラリスは庭の井戸から水を汲み、薪を割り、朝の見回りに出かける。
この村の守備を任された彼女は、どこへ行っても子どもたちに囲まれていた。
この辺境の村にたどり着くまでには、長くて過酷な旅路があった。
都を出てから、街道を外れ、森や山を幾日もさまよい、獣に怯え、食糧を探しながら生き抜いた。
クラリスが怪我をしたとき、私は夢中で薬草を探し、手当てをした。
それがきっかけだった。
私は生きるために薬草の知識を学びはじめ、旅の途中で出会った旅人や老婆たちから、草の名や効能を少しずつ教わっていった。
今では、村の小さな薬草園を手入れし、読み書きを学びたいという若者たちに筆を教えている。
時には、おばあさんに頼まれて手紙を代筆したり、隣村へ薬を届ける人の相談に乗ったりする。
昼には、ふたりで簡単な食事をとる。
畑の野菜、ハーブ入りのチーズ、クラリスが釣ってきた魚を焼いたもの。
彼女は料理が苦手だけれど、皿を拭いたり手を貸したりする姿が不器用で、だからこそ、愛おしい。
夕暮れには、クラリスと手をつないで散歩をする。
村の外れの、小さな丘。風がよく通るその場所からは、金色の夕陽が世界を包むのが見える。
ふたり並んで、それをただ静かに見ているだけで、胸がいっぱいになる。
夜。薪のはぜる音と、ほの暗いランプの灯りの中で、私はクラリスの膝に頭をのせ、本を読む。
ときどき、彼女が髪に口づけを落としてくると、読んでいる行がわからなくなる。
「リセル」
名前を呼ばれるたび、身体の奥が熱を帯びる。
私は顔を上げ、そっと彼女の頬に手を伸ばした。
言葉はいらない。ただ、見つめ合って触れるだけで、すべてが伝わる。
寝台に入り、静かな夜がふたりを包む。
互いの鼓動と息遣いが重なり、指先が肌をなぞるたび、そこに確かな愛情があることを知る。
この人の隣にいられる。
それだけで、私は幸せだった。
王宮でのすべてを手放しても、私は今、自分の人生を手にしている。
クラリスの手を握り、私は小さく囁いた。
「愛してるよ」
彼女の答えは、深く、あたたかい口づけだった。
こうして今日も、私たちの一日が終わる。
そして、また明日もふたりで目覚めるのだ。
――何も、足りないものなんてない。
この手の中に、すべてがある。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
この作品は、「百合が好きすぎるのに、絵も小説も描けない私」が、
どうしても自分の“理想の百合”を読みたくて、
AIの力を借りて、たった1日で書き上げた物語です。
自分が読みたい百合を、自分のために、自分で創る。
そんな最初の一歩として、この物語が生まれました。
これからも、私は“自分だけの、見たい百合”を形にしていきます。
もしどこかで、またふたりの姿を見つけたら――そのときも、どうぞよろしくお願いします。
なお、おまけとして、後日談の短編を予定しています。
タイトルは未定ですが、「ミレイユ女官とザビーネ魔導士、険悪な(?)ふたりの魔法茶会」になるかも……?
あのふたりの関係も、まだまだ描きたいことが山ほどあるので。
百合が好きな方に、この物語が少しでも届きますように。
ありがとうございました。