【2】自己選択:リセルの答え
静まり返った大広間に、女王陛下の声が響いた。
「リセル・アルヴェーン。……そなたは、冤罪だった」
その言葉が、私の心の奥深くをやさしく揺らした。
信じていた。信じていたはずだった。
けれど、どこかで怯えてもいた。
“本当に信じていいのか”と、誰もが疑っていた場所で、いま、真実が告げられた。
女王はゆっくりと歩み寄り、私のすぐ前で立ち止まる。
「この一件、そなたは被害者でありながら、自ら立ち上がり、真実を証した。……私は、王として、そして一人の人間として、感謝を述べよう」
私は静かに頭を下げた。
「ありがとうございます、陛下」
その瞳が、やわらかく細められる。
「そなたほどの働き手を手放すのは、惜しい。……どうか、王宮に戻ってきてはくれぬか?」
その問いは、たしかに――ずっと、欲しかった言葉だった。
失った名誉。居場所。信頼。
すべてを取り戻す扉が、目の前に差し出されていた。
でも私は、顔を上げて、そっと微笑んだ。
「……ありがたきお言葉ですが」
息を整えて、自分の内にある言葉をまっすぐに吐き出す。
「私はもう、誰かの後ろで黙って働くだけの女官ではありません」
女王のまなざしが、静かに深まる。
「クラリスさんに救われて、私は初めて自分の意思で歩き出すことができました。今の私は、過去の地位や家柄に縋っていた“私”ではありません」
胸に手を当て、私ははっきりと頷いた。
「私自身の意志で、これからの人生を選びたいのです」
沈黙が落ちた――
そのなかで、隣から力強い声が聞こえた。
「私も」
クラリスさんが私を見つめていた。
あの、まっすぐで、静かで、揺るがない瞳で。
「私はかつて、副団長として国に仕えてきました。けれど今、剣を振るう理由は――ただ一人の人のためです」
彼女が、私の手を取った。
「私はその人と共に、その人生を歩みたいと願っています」
ああ――もう、迷う理由なんて、どこにもなかった。
女王は私たちを見つめ、わずかに目を伏せる。
そして、どこか寂しげに、それでもやさしく微笑んだ。
「ふたりで行きなさい」
その声は、まるで親が子を送り出すような、静かな優しさに満ちていた。
「その道が王国の未来を照らすなら、それでよい。そなたたちは――私の誇りだ」
私は深く頭を下げ、クラリスとともに、大広間をあとにした。
もう、振り返らない。
ここは私が生まれた場所。
けれど、私が“生きる”場所ではない。
これからの道を、私が選ぶ。
私の足で、私の声で、私の意思で。
そしてその道には、クラリスさんがいて、
何より、私自身がいる。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
女官として生きていた少女リセルが、ただの“被害者”として裁かれるのではなく、
「自分で自分を救う選択」をし、未来をつかみ取った――そんな章でした。
そしてクラリスもまた、“騎士”ではなく“一人の人間”として彼女の隣に立ち、人生を選んでくれました。
ふたりの物語は、あと1話で完結します。
静かであたたかい、ふたりだけの“これから”を描きますので、最後までお付き合いください。
次回、最終話です。