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第7話 悪役転生だから、外に行くとやばい⁉︎(違う)

 とはいえ、雑巾掛けで汗だくになったので、自室のシャワールームでシャワーを浴びてから恭子さんに話をするとしよう。

 

 そう、自室にはシャワーも完備してあるのだ。

 

 屋敷どころか、自室から出なくてもいいよね。


 汗臭いなんて言われたらショックなので、念入りに髪や身体を洗う。


 このシャンプーもなんか高そうだ。

 それにいい匂い……。

 フローラルな香りだし、どっちかというと、女性が好みそうな種類のシャンプーが揃っている気もするけど……まあいっか!


 お湯を浴び、しっかりと全身を拭いて浴室を出る。


「ふー、さっぱりした~!」


 運動終わりのシャワーっていいよね!

 爽快感がいいというか、これが最近ハマってきた。


 それにしても……玲人は恵まれた環境にいる。

 

 お金持ちで、屋敷も豪華で、メイドさんもたくさんいて、ご飯も美味しい。

 専属メイドの恭子さんは美人で優秀で、なんでも自分の思いのままに……。


「やっぱり元の玲人は、この恵まれ環境ゆえに、どんどんワガママになっていたのかなぁー」


 ここまで自分に都合がいいと自然と気も大きくなってしまうのも分かる気もするようなぁ……。


 だからと言って、人の嫌がることや迷惑になることはしたらいけないんだけどね!


 もし、してしまったら元の玲人のような嫌われ者の悪役に……。


 でも、玲人ってやけに大事にされている気がする。


 そう思った矢先……昨日の出来事が頭をよぎったのだった。


 

 実は昨日、初めて玲人の母親と会った。


 黒髪ロングでスーツ姿のバリバリのキャリアウーマンって感じだった。 

 でも堅苦しいっていう雰囲気はなくて、話しかけやすそうで……あと、めちゃくちゃ美人!

 

 玲人の母親は、普段は全国を飛び回っているらしいが……。


 僕――つまり、玲人が目覚めたことを恭子さんから聞いて、仕事を調整して急いで駆けつけてくれたそうだ。


「れーくんが無事に目覚めてよかったよぉぉぉぉぉぉ〜〜!!」


 部屋に入り、僕を見た瞬間……玲人の母親は号泣していた。


 悪役の割に、やはり大事にされているんだなぁと思いつつ……まあ、1人息子だから大事にしてもらっているのだろう。


「ぐずっ……ひぐっ……れーくんが……」


 それにしても……玲人のお母さんは泣き止む気配がない。

 

 さすがに心配になって「お母さん……?」と声をかけてみると……。


「れ、れーくんがお母さんって呼んでくれた!?」


 最初よりも驚かれて……さらに号泣された。


 いやいや、玲人よ。

 母親にセクハラは……ないとしても。


 たった1人の家族に対しても、君は冷たい態度を取っていたのか?

 しかも、これほど贅沢できる環境のために、必死に働いてくれている母親に対しての感謝もないのか!


 最低だな。

 ああ、だから悪役なのか。

 

 その後、恭子さんがお母さんのことを落ち着かせてくれて、これまでも状況説明をしてくれた。

 あっ、一応、僕が雑巾掛けと身体を鍛え始めたというのは秘密にしてもらった。


 僕の記憶が曖昧……というか、記憶喪失なことにはショックを受けていたみたいだけど……。


「ふぅ……まま、れーくんのためにもっと頑張るからっ」


 最後の方のお母さんは、どこか吹っ切れた様な顔になっていた。

 明るくなって、良かった良かった。


 それにしても、全体を通して……玲人のお母さんはやけに過保護だなぁと思ったのだった。


 コンコン、と部屋をノックする音が聞こえ……現実に思考を戻す。


 相手は、恭子さんだろう。


「ん、どうぞー」

「失礼いたします、坊ちゃま」


 恭子さんがこちらに一礼して部屋に入った。


 今日も礼儀正しくクールである。


 と……僕は恭子さんに伝えることがあるのだ。

 なので、早速言わせてもらおう。


「恭子。聞いてほしいことがある」

「はい、なんでしょうか坊ちゃま」

「僕は外に出たい」

「はい。ダメですね」

「ああ、ありが……ん?」

   

 なんか今、思っていた回答じゃなかったぞ?


 ……もう1度言ってみるか。

 

「こほんっ……。恭子、僕は外に出たい」

「はい、聞こえております坊ちゃま。そして、ダメです」

「……え?」


 思わず、恭子さんの顔をガン見すると……彼女は表情ひとつ変えていなかった。


 それどころか、今度は恭子さんが口を開いて……。


「もう1度言いましょう。外に出るのはダメです」

「聞こえてる聞こえてる! って、ええ!? なんでダメなの!?」


 元の玲人と違って、僕はこの1週間……セクハラも嫌味な行動もしなかった。

 

 好感度をあげるため、身体を鍛え始めたとはいえ……前世と同じような普通の行動をしたつもりだ。


 別に変なことはしていない。

 地雷なんて踏んでいないはず。


 前世の創作物の悪役転生を参考にするのなら、


「坊ちゃまは変わられたのですね!」

 

 みたいな反応が出てきて、好感度も徐々に上がってきて……やることなす事がすんなり通っていくイメージがあるのだけど……。


 あれれ??

 今、ガッツリ否定されたよね?


「今の坊ちゃまが外に出られては危険が伴いますから」

「き、危険!? そ、それは……僕の命の?」

「……。最悪の場合は、それもあり得るかと」

「ええっ!?」


 外に出るだけで命の危険があるって、どういうことなの!?

 

 だって、ここは剣と魔法とドラゴンのファンタジー世界ではなく、現代ラブコメを舞台とした世界。


 命の危機イベントとは無縁なんじゃ……?


 混乱していた僕だが……ふと、思った。


 僕は、恭子さんや屋敷のメイドたちだけにとって悪役だと思っていたけど……。


 もしや、外にも僕を嫌いな人間がいるのか?


 それだったら、命の危険というのも分かるけど……。

 

 僕って……相当、嫌われ者な悪役に転生したってこと!?



◆◆


(恭子side)


 最近……坊ちゃまの様子がおかしい。

 

 記憶が曖昧というレベルの話ではなくなった。


 いきなり雑巾掛けをしたり、トレーニング部屋で身体を鍛えたり……色々と思うところはあるが……。


 最近の坊ちゃまは、()()()というものが抜けている気がしてきた。


 この世界は男性の数が少なく、貴重とされている故に……男性に対して肉食的なアピールをする人が多い。

 

 それだけ、男性を我先に手に入れたいということ。


 テレビニュースやSNSで取り上げられるのは、その行動がいき過ぎたとの。


 いわば、男性に対しての性犯罪だ。


 その反面で……女性たちは、数少ない男性に対して免疫がない。

 

 私はというと、男性のことが苦手なのでなんとも思わないようにしている。


 今となってはあり得ないことだが、男性が積極的な言動をしたり、無防備な格好をすれば……女性の多くは、照れたり、まともに顔を見て話せなくなるとか。


 そして、その状況が……この屋敷で起き始めていた。


 たとえば、メイド専用の休憩室にて。


「ああ……最近の坊ちゃま……いいよね〜」

「1年前はあんなにワガママで酷かったけどねー」

「ねーねー、聞いてよ〜。この間、トレーニング部屋に坊ちゃまがいたんだけど……着ているTシャツが汗で透けていて、すっごいえっちだった!!」

「それやばっ」

「見れたの羨ましい〜」


 普段、仕事に真面目に取り組んでいるメイドたちでさえ、この反応の変わりよう。


 ここにいるメイドたちは、奥様と同業者の方の厳しい審査を突破した、いわば、男性に対して冷静に対応できる、耐性がある人ばかりなはずなのだが……。


「今の坊ちゃまだったら、ちょっとだけ身体に触れても許されるのかなぁ〜?」

「ばかっ。アンタ、それ、やったら普通にセクハラだからね?」

「それに、私たち女性は肉食系ですぐに襲いかかるって皆、一括りにされていて、男性にはすっごい怯えられているんだから〜。トラウマになったりでもしたら最悪だよ?」

「でも今の坊ちゃまって、私たちメイドを見ても怯えている様子ないよね〜」


 そんな人たちが……今は、顔をぽっと染めて坊ちゃまのことを思い浮かべていた。


 周りのメイドたちが最近、浮き足だっていることなど、坊ちゃまは知らない。

 

 いや、知らない方がいいだろう。


 そんな坊ちゃまが……。


「恭子。聞いてほしいことがある」

「はい、なんでしょうか坊ちゃま」

「僕は外に出たい」

「はい。ダメですね」

「ああ、ありが……ん?」


 外に出たいと言い出した。

 

 出せるわけがない。

 

 私はそれを頭で考えていたが、反射的に先に言葉を返していた。


「こほんっ……。恭子、僕は外に出たい」

「はい、聞こえております坊ちゃま。そして、ダメです」

「……え?」


 何度言っても、ダメはものはダメである。


 何故か危機感がなく、やたらと無防備な今の坊ちゃまが外に出れば……女性たちがどういう行動を起こすか分からない。

 

「今の坊ちゃまが外に出られては危険が伴いますから」

「き、危険!? そ、それは……僕の命の?」

「……。最悪の場合……あり得るかと」

「ええっ!?」

 

 そう、最悪の場合……女性たちに襲われてしまうことがある。

 

 それぐらい男性というだけで危険は伴う。


 とはいえ、目の前にいるのは正真正銘の坊ちゃま。


 ここで否定しまうと……以前のようにワガママが暴走してしまうことがある。

 

 そもそも、今回、坊ちゃまが階段で足を滑らせ、頭を強く打った事故も……坊ちゃまのワガママが発端である。


 坊ちゃまは眉を下げながらも、私を見つめている。

  

 よほど、外に出たい欲があるのだろう。

 

 以前は、「外は女どもがジロジロ見てくるから嫌だ!」と発言されて、外に行くことなど絶対なかったのに……。

 

 とはいえ、今の坊ちゃまが外に出たいというワガママを言っているのであれば……。


「坊ちゃまは外に出たいのですよね?」

「ああ、そうだ」

「外の景色を見たいということですよね?」

「そ、そうだ」


 坊ちゃまの目的としては、外に出ることと、外の景色を見ること。


 ならば……。


◆◆


 翌日。


「では坊ちゃま。外に行きましょう。出発してもよろしいでしょうか?」

「ああ、うん。そうだな……」


 ということで、僕は恭子さんとともに外に出た。


 許可してもらえて良かったって?

 

 そうだね。確かに許可してもらったし、僕は外へ出たいと行ったけど……。


「車で移動とは予想外だったよ」

「そうでしょうか? これが当たり前だと思いますが」

「そ、そうなの……?」


 お金持ちの移動は車で当たり前ってことなのかな?

 しかもこれ、高級車だし。


 でも、車の窓からも外の景色は見えるし……まあ、今日は車での移動でいっか。


 さぁて、外の世界はどうなっているんだろうなー。

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