第6話 悪役転生したけど、外に出たい(違う)
雑巾掛けを始めて1週間が経った。
結構、経ったね!
一生懸命生きていると日が経つのが早いものだ。
雑巾掛け初日は、筋肉痛になったり、周りのメイドさんたちからは、妙なものを見るような視線を向けられている気がした。
あのクールで冷静な雰囲気の恭子さんでさえそうだった。
それほど、僕、羽澄玲人が雑巾掛けをするという行動は珍しいのだろう。
まあ、最近までセクハラして迷惑掛けていた坊ちゃまが、急に雑巾を手に廊下を這い回っていたら誰でも困惑するか。
けれど、1週間も続けていると慣れてきた。
僕自身もだし……そして、メイドさんたちも。
朝食後。
いつものように廊下を雑巾掛けしながら……すれ違ったメイドさんたちには挨拶をする。
「おはよう、おはよう、おはようー」
とはいえ、雑巾掛けしているので、今の僕の目線から見えるのは、彼女たちの足元ぐらいだ。
でも……眼福だよね。
メイドさんたちは黒のタイツを履いていたり、白色のニーソックスだったりで……。
ああ、ダメダメだ!
僕はセクハラをして嫌われた悪役なのだ。
眼福とか思っちゃいけない!
でも……男なんだから仕方ないよね!!
顔に出さないように頑張ろう。
まあ、雑巾掛けをしているおかげで顔は見られないけどっ。
「ぼ、坊ちゃま。おはようございますっ」
「坊ちゃま! 今日も頑張ってください……!」
僕が挨拶をすれば、メイドさんたちのそんな声が聞こえた。
メイドさんたちは、以前よりも僕に対しての嫌悪感が減ってきたのか、こうして声を掛けてくれるようになった。
それは嬉しいんだけど……。
最近、気になるのは……どうにもメイドさんたちが僕と顔を合わせないこと。
顔というか、どこか違うところに視線が逸れていることが多くなった。
本来なら、挨拶だってちゃんと顔を合わせてしたいけど……いざ、顔を合わせると、メイドさんたちとは視線が妙に合わないし、話が続かない。
なんでだろうね?
ここのところ僕がしたことといえば、雑巾掛けだ。
あとは、身体鍛えるためには雑巾掛けでは物足りなくなったので……。
メイドさんたちが普段、使用しているトレーニング部屋を使わせてもらって適度に運動したり、参考のためどこの部分の筋肉が好きなのか聞いたり……ああ、ドリンクの差し入れとかもしたね。
うん、別に変なことはしてない。
挨拶を返してくれたり、少しずつ声を掛けてもらえるようになったので、僕のことを避けているというよりは、少しずつ変わり始めた坊ちゃまをどう扱えばいいのか分からないって感じなのかな?
地道に続けていけば、いつかはメイドさんたちも僕の変化に慣れるだろうし、大丈夫だろう!
そんな事を考えつつも、掃除はちゃんとしている。
「よし、1階フロア終わり! よいしょ……」
雑巾を絞るために腰を上げた時……ふと、窓の外に目がいった。
「……そういえば、外ってどうなってるんだろう?」
思い返せば、この世界に転生してから、まだ1度も屋敷の外には出ていなかった。
まあ、それどころじゃなかったというのもあるけど……。
元の玲人は、家庭教師を雇っていたので学校には通っていない。
それに、この屋敷はすごく快適だ。
料理も掃除も洗濯も、メイドさんたちが完璧にこなしてくれる。
やりたいことや必要なものがあれば専属メイドの恭子さんに伝えればいい。
僕自身が何かをしなくても生活には一切困らない。
外に出る必要がないのだ。
悪い言い方をすると……《《まるで外に出さないようにしている》》みたいだ。
うーん、まあ後者は勘違いだと思うけどね。
けどなぁー。
「外の世界はどうなっているのかもみたいよねー」
現代ラブコメが舞台で、現代ということは元の世界とさほど変わりないとはいえ……やっぱり外の世界のことを知りたい。
「ちょっと恭子さんに言ってみるかー」