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第33話 悪役がお嬢様扱いするのは、破壊力高め(◎) ①

 休憩時間の終わりも近づき、男装喫茶の従業員の人たちも続々と戻ってきた。


 みんな、僕たちを見るなり目を丸くしていて……。


「きゃぁあああっ!! みんなかっこよすぎる!!!」

「やばーい! すごーい!!」

「私たちなんかよりもずっとかっこいいよ〜!」

「今からでも、お嬢様側になりたい……!!」

「ねえねえ! 写真は撮ってもいいかなっ! 1枚だけだから!」


 きゃあきゃあと黄色い声を上げて盛り上がっていた。


 うんうん。やはり中身は女性なだけあって賑やかな反応だね。


 普段は可憐で清楚な雰囲気の女性が男装をすると一気に凛々しくなって、カッコいい。

 そのギャップこそが男装女子の醍醐味だ。


 だから……。


「君は特に似合っているよね〜!」

「さすが、オーナーのお子さんっ」

「遺伝子強いわ〜」

「あーあー、こんなかっこいい男子が世の中にいないかな〜」

「いないからこそ、男装女子の需要があるんだけどね〜」

「このビジュアルの男の子が現実にいたら恋に落ちるしかなくない……?」

 

 従業員さんたちは、僕のことをすごく褒めるけど………。

 男装っていうか、男が髪と身だしなみを整えて着替えただけだ。

 

 それと星さんの言う通り、従業員の人たちは僕のことを元は、女性だと思っている。

 

 誰も《《実は男の子》》だとは思っていない。


 何度も思うが、男装喫茶に本物の男子が働きたいと来るとは思わないよね。


「ニックネームは……『レイ』でいくんだね」


 星さんが僕の胸元についたネームプレートを見て優しく微笑む。


 このお店では本名ではなく、ニックネーム制なので、別の呼び名を考える必要があったが……まあ単純に、名前が玲人だから『レイ』にした。


 ちなみに恭子さんは『キョウ』

 菜子ちゃんは『ナナ』


 呼びやすいし、かっこよくていいね!


 午後の部の開店時間を迎えた。


 表にある立て看板を『Open』して戻ってきた星さん。


「午後の部も予約取れてよかった〜」

「5周年イベントだからお金使わないとね!」

「私は彼氏ができないからここに来ているんじゃなくて、ずっと男装女子推しだから〜」

「ん、男装女子でしか得られない成分がある」


 次の瞬間には、店内にはたくさんの女性たちが流れ込んできた。


「「「「お帰りなさいませ、お嬢様。男装喫茶ステラへようこそ」」」」


 他の従業員と息を合わせて、華麗に挨拶。

 ちょっとキメ顔なんかしちゃったりして。


 あっという間に店内は満席になる。


「新人くんたちも準備はいいかい? ここに来たからには、しっかり働いてもらうよ?」


 星さんが爽やかに微笑む。

 

 その微笑みに背中を押されるようにして、僕たち3人は「はい」と頷いた。


 店内の各テーブルにはメニュー表とは別に、冊子が置かれている。

 そこにはスタッフたちの顔写真、ニックネーム、簡単なプロフィール、接客スタイルなんかが紹介されているのだ。

  

 イメージ的には、ホストクラブに近いのかな?


 好みのスタッフを指名すれば、一連のサービスを担当してくれるというもの。

 

 急遽、働くことになった僕たち3人はラミネート加工された1枚の紙に『本日限定:新人枠!』みたいな感じで簡単に纏められている。


 働くといっても、まずはお客さんからの指名が入らないとなのだけど……。


「オーダー入りました。星くん、晶くん、海くん、敦くん、光くん、そして……新人くん1名!」


 それぞれの名前が呼ばれていく。

 

 星さんは当然として……早速、新人枠が呼ばれたみたいだ。

 正直、もっと遅いかなと思っていた。

 

 だって、ここにくるのは常連さんが多いだろう。

 常連さんにはそれぞれの推しがいて、その人しか頼まないものなのかなと思っていたから。


「できれば、レイ君から行ってもらいたいかな。いける?」

「分かりました。じゃあ行ってくるね、2人とも」


 そう言われたので、僕は指名があった席へと向かう。


 7番テーブルは……あったあった。


「初めまして。ご指名ありがとうござ――って、母さん」


 席にいたのは、よく見知った顔。

 母さんだった。

 

 さっきから見かけないなとは思っていたけど……まさかお客さんたちと一緒に外に並んでいたのかな?


「ふふっ。今からは母さんは厳禁よ、れーくん? 私はお嬢様としている。だから私のことは『美香』って名前で呼んでほしいな〜」


 なんて言う母さん。


 もしかして最初からこれが狙いだったのかな? と思いつつも……。


 まあ最初の相手が母さんなら、遠慮はいらないよね。

 

 僕は一拍置いてから、ふっと口元を緩め、軽く右手を胸に当ててお辞儀。


「かしこまりました。お嬢様の要望とあらば、お応えいたしますよ」


 僕がそう言えば、母さんは「きゃー」と声を上げる。

 

 うんうん、母さんのこの反応……やっぱり、僕を息子として見ているね。


 母さんが先に言ったのにね。

 今は母親ではなく、お客(お嬢様)としている、と……。


「今回はご指名ありがとうございます。改めて、僕の名前はレイと言います」


 ここまではマニュアル通り。

 

 その他にも、星さんに接客のアドバイスをもらっていたんだよね。


 例えば……。


 僕は声のトーンを少し下げて、耳元にささやくように言った。 


「今日は……僕のこと独り占めにしてね、美香?」


 指名してくれたお嬢様には甘い言葉を囁くといいとか。


 さぁて、ちゃんと働いてスマホ代稼ぐぞー!



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地産地消やんけ^^
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