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第32話 悪役だけど、容赦はしない!!(違う)

「れーくんっ! 恭子ちゃんも菜子ちゃんも準備ができたから出てきていいわよ〜」


 母さんの声が扉の向こう側から聞こえ、僕は席を立つ。


 と……最後に身だしなみをチェック。

 ネクタイを軽く直して、シャツの襟元を整える。

 うん、これで良し。

 

「さて、と……。恭子さんと菜子ちゃんはどんな姿になっているんだろうなぁー」


 ここは男装喫茶。

 制服はズボンスタイルのウェイター服。

 

 気になるのはそこから先のこと。

 

 似合うか、似合わないか。


 いや、絶対似合うだろうけどね。

 2人とも普段から美人、美少女でオーラが半端ないし、メイド服も凄く似合っている。

 

 そんな彼女たちが男装というかっこいい路線の服装を身に纏ったら、どれほど破壊力が凄いことか……。


 僕が霞むのは間違いないね。

 

 そんなことを考えながら、更衣室を出た。


「れーくん〜! ママすっごく楽しみしてた……よ」

「……。坊ちゃま」

「れ、玲人さん……っ」


 扉の近くで僕のことを待っていたのか、母さんと……2人の姿が目に飛び込んできた。


 そして……僕は固まる。

 

 目が釘付けになるって、まさにこういうことを言うんだね。


 まずは恭子さん。


 黒地のベストと白シャツ、パンツスタイルのウエーター服に、銀色の長髪は後ろのほうでゆるくひとつに結んでいる。


 何よりも目を惹いたのは……メガネ。

 恭子さんは、丸メガネを掛けていたのだ。


 別に目が悪いからというわけじゃないだろう。

     

 ファッションの1つとして身につけている。

 これは大正解だ。


 キリッとした切れ長な瞳とクールな雰囲気、高身長と合わさって、大人っぽいというか……ドS執事風だな。


 いや、これ、やばくない?

 女の子たちの新たな癖が解放されちゃうよ?


 続いて、菜子ちゃん。


 黒地のベストと白シャツに、こちらは黒の蝶ネクタイを付けている。

 

 菜子ちゃんは亜麻色の髪をポニーテールにしていた。

 可愛らしい顔立ちも相まって、美形ショタっぽさがある。 


 こういうタイプも女性たちにはドストライクだろう。

 甘やかしたいというか、貢ぎたいというか……。


 2人とも、大量指名間違いなしだ!!


「恭子も菜子もすごいな……。すごく似合っているぞ」


 見るのに夢中で思わず、だんまりしてしまったけど……女の子のことはちゃんと褒めないとね!


「……」

「……」


 だが、2人は嬉しい顔をせず……。


 というより、僕の声が届いていない?

 無視とかではないよね?

 めちゃくちゃ好感度下がってきているとかじゃないよね?


「えと……2人とも? それに、母さんもどうして黙っているんだ? 僕、何か悪いことしちゃった?」


 恐る恐る聞いてみるけど、誰も答えてくれない。

 

 ただ、僕のことはちゃんと見ている。

 見ていてなんだが固まっている。


「えーと……母さん?」

  

 この中だと1番話しかけやすいし、地雷も踏まないであろう母さんに近寄る。


「母さん?」

「き……」

「き?」

 

 えっ、まさかのキモい!?


「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」

「そ、そんなに!?」


 絶叫するほど、僕のウエイター姿似合ってないの!?


「えっ、えっ! れーくんっ! れーくん〜〜!!」


 ……の割には、どこか嬉しそうな?


「かっこいい……! すっっっごくかっこいいよ、れーくんっ!」


 ぴょんぴょんと体を弾ませながら。

 ついでにものすごく胸を揺らせながら母さんが僕を見上げる。


「れーくん、れーくんっ!」

「どうしたの母さん?」

「うんっ! ママはれーくんのママだよ! えへへ〜っ」


 母さんが満面の笑みを浮かべる。

 うん、会話が終わってしまったよ。


「れーくんっ、れーくんっ」

「どうしたの、母さん?」

「こっちの台詞だよ〜! 髪どうしたのっ! もしかして自分でセットしたのっ」

「ああ、うん。自分でセットしてみたよ」


 ワックスを付けて、前髪をかき上げてみた。


 こっちの方が清潔感もあるし、好青年っぽくてもしかしたら指名してくれるお客さんがいるかもだしね。

 お客さんから指名されないと、仕事にならないし、スマホ代稼げないし。


「おかしくない?」

「じゃないわよ! すごくいい!! いいわよ〜!」


 僕の格好はおかしくはなかったようで安心した。


 しかし、母さんのテンションが妙に高くなってきた。

 今までワガママで怠惰で傲慢な息子がちゃんとした格好をしていて、はしゃいでいるみたいだね。

 

 うんうん。良かった良かった。

 僕は悪役だけど、親孝行は忘れないよ。


「れーくんっ、れーくんっ」

「どうしたの、母さん?」

「写真撮ってもいいかなっ」


 母さんがウキウキした様子で手に持ったカメラをずいっと前に出す。


「ああ、うん。いいよ」

 

 我が子をカメラに収めたいという親心なのだろう。

 ならば、答えてあげないとね!


「よ、良ければ……ツーショットでいいかなっ」

「ん? ああ、もちろん」


 我が子と一緒に写真を撮りたい方だったか。

  

「では、私が撮りましょう」

「お願いね、恭子ちゃん〜」


 恭子さんが凛とした表情でカメラをパシャパシャと撮る。

 恭子さんの格好もあって、こっちがドキドキしてしまうね。


 隣でこちらを見つめる菜子ちゃんにも……。

 というか菜子ちゃん、ぽー…としていて頬もほんのりと赤い。


「恭子ちゃんっ、取れたかしら〜」

「はい。今回は正面からでしたのでバッチリと」


 ってことは、恭子さん。僕が雑巾掛けしていた時、隠し撮りしていたんだね。

 母さんに頼まれて。


「恭子と菜子も一緒に撮ろうよ」


 思っていたことを素直に口に出しただけなのだが……恭子さんと菜子ちゃんはがぱちぱちと瞬きを繰り返した。


「で、でも私たちは……。ねえ、お姉ちゃん?」

「はい。奥様は坊ちゃまだけをご所望かと」

「そんなことないだろ」


 僕は言葉を重ねる。


「恭子と菜子の2人とも、母さんにとっても僕にとっても他人ではない。大切な存在だ。だから一緒に写真を撮ってくれたら嬉しい」

「ふふっ。れーくんの言う通りねっ。今度は4人で写真を撮りましょう。皆かっこいい格好をしているし、いい思い出として残るしね〜」


 恭子さんと菜子ちゃんは少し驚いた様子だったが……。


「お2人がそう仰るのであれば、従います」

「わ、私も! そのように言っていただけて嬉しいです!」


 4人で写真を数枚撮ってから、母さんから仕事内容と指導を受けていた時だった。


「おやおや……皆、すごくかっこいいね」


 後ろから爽やかな声がしてそちらを見れば、星さんがいた。


「あら、星くんじゃない〜。どうしたの? 休憩時間はまだ1時間以上あるわよ?」

「昼食はおにぎりで済ませたので大丈夫ですよ。あまり食べすぎてしまうと午後が眠くなりますからね。それに……」


 星さんはその笑みを少しだけいたずらっぽくして続ける。


「君たちがどんなイケメンになったのかを早く見たくてね。でも想像以上だよ、これは……」


 星さんは僕たち3人をじっくりと見てから……最後に僕に視線を留めた。

 

「特に君は凄いね。いや、当然というべきかな? だって君……男の子だもんね?」

「っ!」

 

 えっ、まさかの即バレ!?

 

『そしてそして、この子が私の子供のれーくんでーすっ♪』

『ど、どうも。よろしくお願いします』


 従業員の前で挨拶した時、母さんは僕のことを自分の子だと紹介して、その流れで僕は挨拶した。

 

 だが、別に名前を名乗ったわけでも、性別を明かしたわけでもない。

 

 母さんも母さんで僕のことを『息子』とは言わなかった。

 それは何故かは分からないが……。

 

 とにかく、男ということはこの店の人たちには誰にも言っていないし、バレていないはずだった。


 なのに星さんは……。


「あら、星くんはれーくんが男の子だと気づいていたのね」

「ええ、まあ。ボクは気づきますよ。身内のこともあってね。でも、他の子たちは気づいていなさそうですけど。というか、疑っていないと思いますよ。まさか男装喫茶に本物の男子が働きにくるなんてね。そもそも男性が自ら働くこと自体珍しいですけど」

「そうよね〜。それが普通よね〜」


 まあ男装喫茶に男子がいるとは思わないよな。

 そういう意味の会話だよな。


「まあ無理はしない程度に頑張るんだよ。何より、君にもしものことがあったら大変だからね」

 

 星さんはどこか真剣な表情で僕を見つめる。


 むむ? これは……僕、舐められている?


 きっと、星さんは僕がお金持ちのお坊ちゃんだから無理はしないようにというものだろう。


 星さんに悪意はない。

 星さんはいい人。

 星さんはイケメン。


 だけど……悪役の身としてはちょっとその言葉聞き過ごせない。

 

 悪役転生した僕は、破滅回避のために必死にならないといけないからね。


 これは、気合いを入れるだけじゃ足りないね。


 こうなったら……。


「心配ご無用ですよ」

「うん?」


 星さんが僕の方を見る。

 釣られてか、恭子さん、菜子ちゃん、母さんの視線を集める。


 その場の全員の視線が集まる中……僕は実に真面目な顔で言ってやる。


「僕、たった今から……本気出すんで」



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