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第31話 悪役だけど、気合い入れてみる(?)

「お待ちしておりましたよ、オーナー。いや、今はお客としていらっしゃっていますかね? ならば、『お嬢様』とお呼びしますよ」


 案内された席に座っていると、ハイスキーボイスながらも柔らかい声が聞こえた。


 見れば、すらりとしたイケメンがこちらへ歩み寄ってきた。


 僕は思わず、ガン見してしまう。


 キリリとした目つきに、整った目鼻立ち。

 青みのある黒髪ショートヘアで高身長。

 キラキラオーラが凄い。


 そして、格好は白シャツに黒のベスト、スラックスという完璧な男装姿。


 イケメン女子を超えてもはや、王子様が似合う。

 

 つまり、大変かっこいいということだ。


「あら、じゃあお嬢様って呼んでもらおうかしら〜」

「ふふ、かしこまりました。おかえりなさいませ、美香お嬢様」


 お決まりの文章でもイケメンがふわりと微笑みを浮かべて言えば、威力が違うというもの。


 まじで様になりすぎている。


 てか、母さんがここオーナーなんだね。

 絶対9割趣味だよね?

 

 でも……。


『実はね、今日はママが関わっているお店の1つが、開店5周年を記念してイベントをやっているの。午後の部からは私も手伝いに行く予定なのだけれど……』


 って、母さんは言っていた。 


 男装喫茶は、女性たちの需要はかなりあるのだろう。

  

 ラノベやエロゲではメイド喫茶が定番だけど、こういう男装喫茶もいいよね!


 ふと、そのイケメンの服についているネームプレートを見れば『星』と書いてあった。


 ってことは、星さんなのか? 

 名前までかっこいいんだけど。

 

「そして……そちらの3人が午後からの助っ人かな?」


 そう言って、星さんが僕たちをじっくりと見る。


 菜子ちゃんや恭子さんならじっくりみても飽きないだろうけど……僕なんかを見ても面白くないだろう。


 ましてや僕は、悪役ポジションだ。

 難癖を付けられる可能性も……。


 と……星さんとぱちっと目が合う。


 えっ、早速、何か言われるの?


「ふふ、君なんて《《もう男装してくれている》》じゃないか。気合い入っていてくれて嬉しいな。一緒に頑張ろうね」

「え……?」


 星さんが微笑むが僕は固まる。


 男装というか元々男だからこういう格好というか……。


 ああ、なるほど。

 星さんは勘違いしちゃっているのだ。


 完全に僕のことを女の子が男装してると思ってしまっている。


 そりゃ、男装喫茶に本当の男がアルバイトしたいとは思わないよな。

 

 ここで素直に男だと明かすべきか。

 それとも、星さんたち従業員さんたち相手にも絶対に男だとバレてはいけないをするか悩んでいたものの……。


「それと……まさか君がオーナーの知り合いとはね。君とは一度、話してみたかったんだ。我が大学のマドンナさん」

 

 そう言って、星さんが次に目を向けたのは……恭子さんだった。


 と、母さんが口を開く。


「あら、2人は知り合いなの?」

「はい。同じ大学なんですよ。とと……これ以上はプライベートな情報になりまね。失礼しましたお嬢様」


 星さんが手を胸の辺りに添えて、軽く一礼する。


 一方で、恭子さんの表情はクールなままである。


 ほうほう、恭子さんと星さんって同じ大学なんだ。


 きっと2人とも、大学では注目の的に違いない。

 ファンクラブとかありそうだよね。


 星さんが最後に見たのは菜子ちゃんで……。


「君……とても可愛らしいね。ぜひ、お姫様と呼ばせて欲しいな」

「え、あっ……はい、どうぞっ」


 星さんから微笑みを向けられた菜子ちゃんの頬が淡く染まる。


 うーん、イケメンだ。

 何をやっても様になっている。


 それにしても、母さんは何をもって僕が看板息子になれると言ったのだろうか?

 

 こんな完璧イケメンよりも僕が目立つとかありえない。

 

「ふふ、さすが星くん。女の子の相手が上手ね〜」

「それがボクたちに求められているものですからね」

 

 サラッと返す星さん。

 もう何を言ってもカッコいい。


「じゃあ改めて、皆に紹介するわね〜。この子は星くん。あっ、星くんっていうのは本名じゃないわよ? このお店で働く子たちの名前は皆、《《ニックネーム》》なの。後から3人にも考えてもらうからね〜」


 母さんがニコニコ笑顔で説明してくれる。


 ほうほう、このお店はニックネーム制度なのか。

 まあ本名だと色々とプライバシーに関わってくるよね。

 

 星さんぐらいイケメンだと熱狂的なファンもつくだろうし、特定でもされたら嫌だよね。


 それから僕たちは、お客として男装喫茶のサービスを受けることになった。


 まず出てきたのは、お店イチオシのとろとろオムライス。

 

「お待たせしました、お嬢様方。こちら愛情たっぷりオムライスです。隠し味はもちろん、ボクの愛情ですよ」


 イケメンな星さんにウィンクされながら料理を出された時点で、もう女性客たちはイチコロだろう。


 ちなみに、オムライスの味はめちゃくちゃ美味しかった。

 

 そして、何気なくメニュー表の裏を見れば、オプション一覧というものがあり……。


 あーん、頭なでなで、美味しくなるおまじない、チェキ、お姫様抱っこなど……様々なものが書かれていた。 


 うん、これは絶対課金せざるをえないし、女性人気が出るのも分かる。

 

 そんなこんなであっという間に体験は終わった。


◆◆


「じゃあボクたちは休憩に行ってくるよ。3人とも午後はよろしくね」


 星さん含めた従業員さんたちが少し長めの昼休憩時間に入る。

 午後部の営業は2時からとか。

 

 その間に僕たちは、星さんが渡してくれたマニュアルを覚えないとだし、ニックネームも考えないとだし……。


「皆には衣装を渡しておくわね〜。もう着替えちゃってもいいわよ」


 母さんから衣装を受け取る。


 コスプレ衣装というより、シンプルなウェイター服だ。

 星さんたちが着てたとの同じもの。

  

 だけど、これを可愛い女の子や綺麗な女性が着ることに需要があるというもの。

 一方、男は……うーん、僕大丈夫かな。


 更衣室は2部屋あるということで、僕と二条姉妹で別れた。


「母さんも2人と一緒にいてね」

「そんな〜。ままはれーくんのままなのに〜〜」


 何故かカメラを取り出していた母さんだが、もちろん、2人の部屋に行ってもらった。


 ってなわけで……更衣室には僕1人。


「しかし、男装喫茶とあって星さんたち全員顔面偏差値高すぎるなぁ……」


 従業員さんたちの前で挨拶したけど、どこを見てもイケメン、美形だらけだった。

 

 男装喫茶なのだから、そういう人たちが揃ってないといけないとはいえ、レベルが高い。


 てか、この世界の女性って可愛い系や美形が多い。

 やっぱりベースはエロゲなのかな?


 そんな美形男装集団の中に菜子ちゃんや恭子さんが入っても問題はない。

 むしろ、際立つ。

 

 だけど、僕は違う。 


 僕はイケメンでもないし、本当に男だし、何よりも悪役ポジション。

 

 何がきっかけで破滅ルートに繋がるか分からない……。


 お客さんに対してはもちろん、星さんたち従業員さんたちも傲慢な振る舞いなどはせず、誠実に向き合うとして……。


「よし、やるか……」


 僕は持参したワックスを取り出す。

 

 イケメンじゃなくとも、身だしなみを整えれば、清潔感ぐらいは出せるというもの。


 ワックスをつけて……髪型を少しだけオールバック風にセットする。

 

 そして衣装に身を包めば……鏡に映った自分は少しは爽やかな印象だ。

 

「まあ僕が目立つはずないけど……せっかくのアルバイトなんだ。気合い入れよう!」


 


 

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