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第30話 悪役だけど、男だと絶対にバレてはいけない(?)

「お店からOKもらったわよー。さて、《《3人とも》》準備は良いかしら?」


 軽やかな声とともに、手にスマホを持った母さんが部屋に戻ってきた。

 

 母さんは、例のお店にアルバイトの許可をもらいに電話してくれていたのだ。


「連絡、交渉までありがとう、母さん」

「えへへっ。れーくんにお礼言われちゃった〜」


 母さんは頬に手を添えて、うっとりと微笑む。


 この場合、僕がお礼を言うのは当然のことなのに……元の玲人とのギャップがあるのだろうか?


 まあ、悪役ポジションとして考えれば、悪役はお礼なんて言わないか。

 

 母さんの大袈裟な反応はしばらく続きそうだな。


「それにしても……恭子と菜子も行くのか?」


 そう、3人なのだ。


 僕はスマホ代を稼ぐためにも、その店に行くが……恭子と菜子もアルバイトをすることになったのだ。


 別に、僕が頼んだわけでも、母さんが強制したわけでもない。


 2人が自ら「一緒に働きたい」と言い出したのだ。


「恭子?」

「私は、坊ちゃまがアルバイトをする許可を出した立場として、責任持って最後までお傍で見届けさせていただきます」


 恭子さんはクールな表情のまま、きっぱりと言い放った。


 責任って……恭子さんは相変わらず、責任感が強いなぁ。


 でも、僕が勝手にアルバイトやるって言い出した訳だし、同意の発言をしたからって、そこまで責任を持つことはないと思う。


 それに、《《ただのアルバイト》》だ。

 

 いくら僕が今までは、ワガママ乱暴グータラし放題の坊ちゃまだったからと言って心配しすぎ……いや、心配になるか。


 僕の心配というよりも、そのお店の人たちに迷惑が掛かっていないか、苦情がこないかの心配だろう。


 そこを心配されるってことは、僕もまだまだ恭子さんの好感度を上げれていないみたいだな。


 僕は真面目に働くつもりである。


「菜子は?」

「わ、私もお姉ちゃんと同じですっ。それに、玲人様の身に何かあったら大変ですから……!」


 菜子ちゃんは落ち着きなく目を泳がせながらも……表情は真剣そのもの。 


 僕の身に何かって……僕、そんなに不器用だと思われてる?

 一応、適度な運動と筋トレ毎日やっているけど……ドジすると思われているの?


 まあ、色々と思うところはあるものの……。


「2人が一緒にいてくれるのは心強いな」


 知っている人が同じ空間にいるっていうのは気持ち的にはありがたいよね。


「ふふっ。れーくんは、こんなに可愛い2人に守られているなんて安心ねぇ〜」


 母さんが微笑ましげにクスクス笑う。


 女の子に守られるなんて、男として少し情けなくないか?


 悪役だとしても、僕がヒロインたちを守る側だろう。

 

 それが悪役転生の醍醐味と言っても良い。


 いや、だからこそ……チャンス到来なのか?


 僕は自分で稼いだお金でスマホを買うことで少しでも自立したころを母さんや、恭子さん、菜子ちゃんに知ってもらいたいと思っていた。


 加えて、このアルバイトで少しでもできる男をアピールができれば……3人同時の好感度上げにも繋がるのでは!!


 そう思ったら……やる気がもっと出てきた!


「母さん。僕、アルバイト頑張るよ」

「れーくん……。れーくんがやる気でママはとっても嬉しいわっ。それにお店についたら、れーくんの《《衣装姿》》……ふふ、ふふふふ楽しみよ〜♪」


 先ほどとは打って変わって、やけに上機嫌な母さん。


 やっぱり息子が少しでも自力していこうという様子が嬉しいのかな。


◆◆


「はい、到着〜。ここがそのお店でーす〜」


 母さんの足が止まり、釣られて足が止まった僕たちはその建物に目を向ける。


 そこは、シンプルな外観のお店だった。

 

 張り紙や旗などもなく、特に目立つ装飾もなく……何系の店かも予想しにくい。


「母さん、ここはどんなお店なの?」


 僕がそう尋ねると、母さんは「ふふっ」と意味深な笑みを浮かべた。


「説明するよりも、まずはお客として体験した方がいいわよね〜」


 母さんはそう言いながら、店の扉を開けた。


 カラン、コロンとベルの音が鳴り、僕らは中へ足を踏み入れる。


 店内は淡い光に包まれ、BGMもゆったりしていて、シックで落ち着いた雰囲気が漂っている。 

 

 ここは《《普通の喫茶店》》——そう思ったのも束の間。


「「「お帰りなさいませ、お嬢様。《《男装喫茶》》ステラへようこそ」」」

「……へ?」


 瞬間、頭の中が追いつかない。


 間抜けな声を漏らす僕の隣で……恭子さんと菜子ちゃんも驚いたように体が固まっていたが……。


「やはり……そうでしたか」


 恭子さんが目を細めて呟いた。


「奥様が坊ちゃまのアルバイトを許すなど、絶対にありえないことと思っていましたので、許可した時には何か裏があるとは思っていましたが……こういうことでしたか」

「裏って、そんな怪しいものじゃないわよ〜。でも、恭子ちゃんの読み通り、私はれーくんを安全なところで働かせたいのでした〜」

「なるほど。木を隠すなら森の中……男性を隠すなら、男装の中というわけですか。確かに、このお店ならショッピングモールなどと比べてかなり安全と言えますね」

「……なるほど! そういうことですか……!」


 母さんと恭子さんの会話の意味もよく分からない。

 てか、菜子ちゃんが分かったような顔をして頷いている。

 地頭の問題なの?

 

 何はともあれ……数秒後。

 僕は現状を理解し始める。


「母さん……? 男装喫茶ってことは、ここの店員たちは……」

「ええ。従業員はみんな『男装した女性』が務めるお店よ♪」


 母さんが満面の笑みで断言する。


「……そっか」


 僕は改めて、店内を見回す。


 ここが僕がアルバイトをするお店。


 それが男装喫茶……。


 男装って言っているのに……まじもんの男が働いていいの?

 

 男だとバレたらアウトじゃない? コンセプト的に大事になるんじゃない?

 

 男だと絶対にバレてはいけない的なの……始まります??




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