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第25話 悪役だけど、ただ食堂にいるだけだよ?(違う) 後半戦

「あらあら、本当に男の子が入学してきたのね〜」

「2人ともいい顔しているじゃないの」

「うちの娘とかどうかしら?」

「おばさんと大人の関係を築いてもいいのよ……?」


 食堂のおばちゃんたちの会話を苦笑いで交わしつつも、出来上がった料理を受け取って席に戻る。


 その際、「玲人君はすごいね……」と湊くんに謎に褒められたけど、褒め言葉なので特に聞き返すことはしなかった。


 「いただきます」と手を合わせて、料理を食べ始めた。


「美味い!」


 カツカレーを頬張った瞬間、思わず声が漏れた。


 程よい辛さのカレー、揚げたてサクサクの衣のトンカツを噛みしめれば、肉の旨みがじゅわっと口に広がる。


 そこに合わさる白米ときたら……もう最高よ。


 食堂っていうより、レストランのレベルだよね。


「このオムライスも美味しいよっ」

 

 正面に座る湊くんがスプーン片手に笑みを浮かべる。


 オムライスの上のケチャップがでっかいハートマークなのは……あまり触れない方がいいのかな。


「菜子も美味いか?」

「は、はい」

 

 菜子ちゃんはこくんと頷いた。


 菜子ちゃんは肉うどんを注文した。

 後からデザートを頼むから控えめにしているのだろう。


 僕はカツカレーをもう1口食べようとして……スプーンを止めた。


 このままだと全部食べてしまいそうな勢いだ。

 早めに湊くんにカツカレーを分けるとしよう。


「湊、こっちのカツカレーも美味しいから食べてみてよ」


 スプーンですくってそう言うと、湊くんは驚いた顔で固まった。


「れ、玲人君? 何してるの?」

「え? 何って、湊にカツカレーを分けようとしているんだけど?」

「カツカレーを(玲人君が使った)スプーンに乗せてボクにくれるの?」

「え? だって、(カツカレーを)食べさせるっていう約束だっただろ?」

「えと……ボクに食べさせてくれるの?」

「え、そうだが……」

「……えっと」

「え……」


 僕と湊くんはお互いに首を傾げた。


 ……なんか、話が噛み合っていない?


 オムライスとカツカレーを両方食べたいと湊くんが言っていたから、僕がカツカレーを選んで分ければいいという話だったのでは?

 

 だから、僕がカツカレーをスプーンにすくって、湊くんにあげるのは当然である。


「そんな、男の子同士であーんの約束だなんて……」

「あの2人って、そういう仲なの……」

「攻めと受けは明白よね」

「BLに挟まる女は死刑……すなわちわ、私は見守る側に回る」


 周囲が妙にざわざわしている気もするが……食堂だからそうなのかもしれない。


「ほら、熱いうちに食べた方が美味しいぞ?」


 湊くんにスプーンを差し出すも……湊くんは妙にソワソワした様子でスプーンを見つめるだけだった。


 もしかして、オムライスが美味しいからカツカレーはもういらなくなったとか?

 そういうのあるよね。1つの味に集中したいみたいな。


「湊が嫌ならやめるが……」

「い、嫌じゃないからっ。い、いただきます!」


 湊くんがぱくっと食べる。


 なんだか、子犬に餌付けしているみたい。


「ん! おいひいー」

「良かったな」


 もぐもぐと食べる湊くんの顔が明るくなる。

 カツカレー美味しいよね。

 

 ふと、港くんの隣に座る静音ちゃんを見ると……ぱちぱちと数回、瞬きをした後も驚いたように僕の顔をじっと見つめてくる。


「羽澄様は……《《珍しい男性》》ですね」

「え? 珍しい?」


 僕がカツカレーとラーメンを頼んだことを言っているのかな?

 だって、味噌汁が50円課金すればラーメンに変わるんだよ? 

 そんなの、食べるしかないでしょ。


「これぐらいは普通だと思うけど?」

「普通ですか……」

「ああ」

「……普通の男性はあーんなど気軽にはやりませんし、ましてや、大勢の女性がいる中で目立つような行動はしないと思いますが……」

「?」


 静音ちゃんがぶつぶつ独り言。

 

 内容が気になるけど、まだ好感度を上げていない状況で聞いても、答えてくれないよね。


 湊くんが美味しそうに食べるので僕もカツカレーを食べる。

 うん、美味い!


「あっ、そうだ。菜子も食べる? カツカレー」

「え」


 僕がそう声を掛ければ、うどんを食べようとしていた菜子ちゃんの箸が止まった。


「カツだけでも食べてみてよ。美味しいよ、このカツ」

 

 僕はスプーンから箸に持ち変えて、カツを菜子ちゃんの前に差し出す。


「れ、玲人さん?」

「ん?」

「わ、私にも……食べさせてくれるんですか?」

「ああ。美味いものは共有したいからな」

「えと……勘違いしていそうなので言い方を変えますね?」

「ん?」

「私にも、あーん……するんですか?」


 あーんって……言い方が可愛いな、菜子ちゃん。


「まあ、うどんの上にカツを置くわけにもいけないからな」


 せっかくのサクサクのカツがうどんのダシで台無しになっちゃうのは勿体無いからね。


 カツを構えて菜子ちゃんをじっと見ていると……菜子ちゃんは小さく頷いた後。


「じゃ、じゃあ……い、いただきます……」

「うむ。はい、どうぞ」


 菜子ちゃんの顔が近づき……1口サイズのカツを食べた。


「お、美味しいです……」

「良かったよ」


 うんうん、美味しいものを共有できるのって楽しいよね。


「あら、ではわたしも食べさせてもらえるんですかね?」

「え? まあ、いいけど」


 静音ちゃんもカツカレー食べたくなったのかな?


 静音ちゃんは定食だったので、空になった小鉢にカツを1切れ置いた。

 

「……」


 静音ちゃんはカツと僕のことを交互に見てから食べたけど……どうしたんだろうね?


「わ、私も頼んだらあーんで食べさせてくれるのかしら」

「むしろ、私が今、食べているフランクフルトを食べさせたい……」

「あんたそれ、エッチすぎるだろ」

「ん、私を食べてもらいたい」


 ざわざわと変わらず賑やかな食堂。

 

 それからデザートまで食べ終わり、ほっと一息ついていた頃。


「それにしても、玲人君って怯えた様子も怖がる様子もないよね」

 

 湊くんがそんなことを言ってきた。


 主語がないけど……多分、食堂で注目されていることかな?


「別に怖くないよ。だって、見られるだけで《《危害を加えてくるわけじゃない》》だろうし」

 

 むしろ、僕が危害を与えられるとするなら……ここにいる3人が絡んでくるんだよなぁ。

 主人公とヒロインたちを1番に警戒しないとね。


 なんてことを考えながら、ホットコーヒーをずずっと啜る。


「「「……」」」


 ん? なんか3人が無言になったような……?


「玲人さん、また食堂に行く時には私も一緒にいきますからね?」

「ボ、ボクも一緒に行くっ。玲人君は1人で行かせないからねっ」

「では、わたしも同行させていただくことになりそうですね」


 真面目な顔になっている3人が口々にそう言う。


 みんな、食堂が気に入ったみたいだね。

 







◇簡単な人物紹介◇


天笠湊(あまがさみなと)


サラサラの金髪で刈り上げマッシュカットに、柔らかな水色の瞳の華奢な容姿。


優しい心の持ち主でありつつも、男女比がバグっている故に、肉食系でガツガツくる女性に対しては少し恐怖心がある。

そんな中、女性に対して堂々とした態度を見せる玲人に尊敬の感情を抱き、慕っている。

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― 新着の感想 ―
 一人だけ……これは、凹んでも良いよね……
なるほど、主人公は前世で男女問わず「あーん」するのが普通の高校生だったんですね。思春期真っ只中でそれはなかなか豪胆ですね。
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